フリーマーケットⅡ
俺たちが広場に着いた時、ギルドの素材売りコーナーには結構な人が集まっていた。
ちなみに、魔物の素材は何に使いたいのかをちゃんと届け出ないと販売してもらえない。なので俺たちはさっきのおばさんになんかそういう旨の紙までもらってしまった。紹介状って上層の人しかしないと思ってたわ。
「知らなかったわね」
「イミドラでは半精霊出てこないからな。まあ、なんかあるとは思ってたが」
もしかするとイミドラ2でその辺の設定が固められたのかもしれない。
俺はとにかく、素材売り場の品物を眺めた。
俺とソルが欲しい素材はどこかのラノベで見たことのある、蜘蛛の糸という系統のものではなく、魔物の蚕の糸。
魔物の蚕の糸は魔力を多大に含んでいるし、丈夫だし、日焼けしないし、火には弱いがそこは保護を掛けておけばいいだろう。
ちなみに横に蜘蛛の糸玉は存在していた。めっちゃキラキラしてる。
「綺麗ね……」
「ああ。しかし、布から作るとなると大変だな」
「そうね」
ウチに機織り機みたいなのはあるからいいとして、っつっても俺が作れるわけでもないんだが。ウチの女は総じて男より強いですからね!
繊細さ?
捨ててきたわそんなもん。
「白くて綺麗ね、やっぱり染める?」
「アウルムはこの白のままいこう。銀の方が問題だな、黒地がいいと思うんだが」
「そうよね、ギルドの人に聞いてみようかしら」
そうやってしばらく糸玉とにらめっこしていた俺たちの側にギルド員のお姉さんが近付いてきた。
「いらっしゃいませ。何をお求めですか?」
あ、美人や。
「はい、布を作ろうと思って」
おっと、こっからは俺が出なくちゃな。
ソルが説明しようとするのを止めて俺は立ち上がった。
「どういった使用目的ですか?」
「友人へのプレゼントとしてです」
注意しておかねばならないことがいくつかある。
ギルドの職員だからといって信用しないことだ。
半精霊を一番欲しがっているのは冒険者ギルドだからな。理由は単純で、教会からの干渉から逃れるためには半精霊みたいなのが居ないといけない、ただそれだけだ。
教会うっぜー。
「どのような御友人でしょうか?」
「奴隷ですよ」
俺は笑顔のままで言い放つ。
ギルド職員のお姉さんの表情が固まった。
あ、知ってる顔だな、これ。
「……わかりました。……その方、大事にして差し上げてくださいね」
「話の分かる方で助かりました」
俺はお姉さんにチップを渡した。ギルドの本部長らしき人と目が合ったが、俺が紹介状をお姉さんに渡したのを見て、こっちを見ないふりをしてくれた。ありがたいことだ。
王都のギルドはそこまで腐ってねーようで何より。
半精霊についての情報を集められるだけ集めた結果、とにかく半精霊というのは特殊であるため、保護下に置くのが望ましいとされているようだ。
恐らく、保護下に置かないとコントロールできなくて恐ろしいのだろう。
はっ、知ったことかボケ。
こちとら死徒関連の知り合いが友達の数とそう変わらない。今更じゃね?
まあ、初対面の相手にいきなり深い事情なんて説明しなくちゃいけない手法とってる時点で駄目じゃねこれ。
うん、まあ、こんな買い物した俺たちが悪い気もするが。
「あっ」
俺はふととあるものに目を止めた。
「どうしました?」
「あの、これって」
お姉さんに尋ねてみると、お姉さんはそれを見て小さく笑った。
「エレメント族の卵です」
エレメント族。魔物の一種である。精霊に近いのだが、こいつらはいわゆるアストラルボディしか持っておらず、物理ダメージは基本効かない。いや、ゲームでは効いてたが、本当は全く通らない、ということだと思われる。
魔術攻撃はどうかというと、魔力集合体が魔術防御力が低いわけないのである。
ハイ出来上がりましたチート種族。
そういうものだ、こいつらは。
「この卵、売り物ですか」
「引き取っていただけるだけでもいいんですがね」
「!」
本部長らしきおっさんがこっちへやってきていた。
急に近くでした声にお姉さんは驚いていた。
「引き取るだけでいい? なぜですか?」
「珍品ではありますが、それは孵すことができなければ意味がありませんからね」
魔物は、卵から育てることで、飼い主によく懐いた魔物になる。
スーもそのうちの例だろう。
図鑑によれば、スレイプニルは本来誰にも懐かない、馬であるのにもかかわらず群れない。兄弟種にフェンリル書いてくるところがまたなんとも言えないわ。
これだとキマイラとケルベロスも兄弟種になってんじゃね。
「ちょっとトライしてみます」
「そうですか。成功したら、ぜひ冒険者ギルドへいらしてください。魔物の管理部署に届け出ておくと、保険を掛けられますから」
「あ、はい」
何それ知らねー!
そっか、平民はこうしないとなんもできんわな。
でも王侯貴族にもあってもおかしくないでしょ?
俺が見落としてるだけ?
「あ、この素材の色ってどう染めたらいいですか」
「何色ですか?」
「黒で」
「ああ、それなら――」
♢
「ただいまー」
「おっそーい」
「わりーわりー」
俺とソルが敷物のとこに戻ると、すっかりアウルムが屈託のない顔で世間話に興じながら華麗にレジ係をやっていた。
何のスキルだそれ。
よく笑うから、客受けもいいんだなー。
俺が抱えてる卵を見て、おま、とアウルムが声を上げた。
「まさか俺に押し付ける気じゃねえよな」
「お前以外の誰に押し付けるんだこんなもん」
「マジで俺の存在がネタ化していく」
「お前のネタ化は今に始まったことじゃねーだろ」
「族長酷いっス」
まあ、今持たせたらいつ孵るかわからんからやめとけと言われたので丁寧に布で包んで、アストに見ててもらうことにした。
俺の商品を並べて、客の呼び込みをしていると、ちょこちょこと人がやってきた。元々アウルムのおかげで呼べていたのもあったみたいだがね。
「これなんですか?」
「毒消しです」
「これは?」
「ポーションです」
薬品しか作ってねえなって?
うん仕方ないよ!
「ポーションっていくつありますか?」
俺に声を掛けてきた女性が言う。
この人、結構怪我してる。
「20本ですよ」
「……全部買います」
腰に差した剣の鞘、剣はどうした。折れたのか。
リガルディアの通貨は一番上が大白金貨である。
通貨単位は一貫してリーンと呼ばれる。
貨幣は大小と下から順に銅貨、銀貨、金貨、白金貨と4種類。
小銅貨10枚で大銅貨1枚。大銅貨10枚で小銀貨1枚。小銀貨10枚で大銀貨1枚。大銀貨10枚で小金貨1枚。小金貨10枚で大金貨1枚。大金貨10枚で小白金貨1枚。小白金貨10枚で大白金貨1枚。これで全部。
ちなみに通常のポーションは悪いモノなら小銅貨5枚、いいモノなら小銀貨5枚ほどで買える。俺の作品の効果はいかほどかわからないので(治る事だけは分かっているが、うちの人間たちは基準にしてはいけない!)値段は大銅貨1枚にしてある。
解析魔術が効かない謎の代物が出来たのだからもう俺は何も言わん。
「効果がいかほどかわからないので、気を付けてください」
「ああ、初めて作ったのね」
「はい」
傷は治るんですが、近くの人たち魔力高すぎて何でも治りました。
指が生えたときはどうしようかと思ったけどな、割と本気で!
どこのバーサクヒーラーだよ。
その場でちょっと使って目を丸くしたその女性は、震えだした。
なんか異常でも起こしただろうか。
「大丈夫ですか?」
「……こ、これ……ちょ、どうやって作ったの、これ!」
ああどうしようここで騒いだら周りに知れる、とか言い出したその人。ちょっと状況を整理して俺は理解した。
効果が相当高かったとみえる。
と、アウルムが女性に声を掛けた。
「なァなァおねーさん? 俺たち、店を持ちたいんだよ。今同じ敷物に座ってるメンバーで一緒に店をやりたい。そのための資金の出資してくれるってんならァ、お得意様として相手しますよォ?」
煽るような言い方すんなと言いたかったが、俺を視線で制してアウルムは続ける。
「どうです? その間、ポーション等、準備できるものは基本支給という形で」
「……乗ったわ」
えっ。
今ので乗っちゃうの。
俺たちは目を丸くした。
「Bランクパーティとして、責任もって出資してあげる」
「よしッ。これにサインよろしく!」
いつの間に契約書を、俺たちは何も言えないまま契約が住んでしまった。
ただの紙と侮るなかれ、契約をしたのがアストの前であること及び半精霊であるアウルムとの契約、反故にすればただでは済まない。
「このポーション、別の人に売るときはハイポーションとして売った方がいいわよ! じゃあね、ジグソーパズルの皆さん!」
女性は行ってしまった。
「な、なんちゅーことを……」
「そうか? 俺、昔っからこの方法で店出してんだけど」
「お前の昔ってこの30年くらいの内のいつの話!?」
「あ、30年?」
アウルムは首を傾げた。
「あー、言ってなかったな。俺、何回転生したか覚えてないくらい転生してる」
「「「!!!????」」」
皆で固まった。
「お前らも思ってたんじゃねーの? 俺の中身が口調ほど若くなさそうだってことぐらいよォ」
思ってはいたが。
まじか。
「そこまで言ったならバレてよくね」
「そっちは家で」
何かもう一つの秘密に関しては、この日、俺の作っていった薬品類が完売してしまって、皆の売り上げも上々だったのでそのまま転移で一度フォンブラウ邸に戻ってから明かされることになった。




