発つ
俺は目を覚ました。
すげー夢だったなー、なんて思うが、夢じゃないことくらいは分かっている。
あれは、おそらく一番最初の俺だ。
ちゃんと普通に転生していたらしい。
転生して、前世は男だったけど、いまさら何?
って感じでたくましく生き抜いたようだ。
世界の真理、か。
つまり、皆が転生ループしまくってる、ってことかね。
分かった事は皆に伝えた方がいいだろうか?
いや、必要ないだろうなあと思ってしまった。
だって、必要ないから俺は自分の記憶なんていらないと思ったのだろうから。
ちなみに、ソルと俺は一番最初から転生していたようだ。
クルミは見つけられなかった。
数回に一度転生者が増えている気がするので、おそらく数回に1人増えていたのだろう。どんどん世界をずらして、自分が消えてしまった未来を変えたかった――それが相手さんの狙いだろう。
それに対抗するように前世の記憶を取り戻す転生者は増えて、相手さんの往く手を阻む。最終的には戦いになる。いつもギリギリで相手さんが勝ち逃げする。けど、結局強い力は使えず、その世界に根を下ろし、安定することができない。
当然だ。だってそこには別の人がちゃんといるのだから。
椅子取りゲームではないのだから、大人しく元の世界にお帰り願いたいものである。
俺は身体を起こす。
俺の腕を抱え込んでいるゼロと、俺の傍で丸くなっているメタリカ共。
皆ぐっすり眠っていらっしゃるが、そろそろ俺は起きる時間帯で目が覚めている。
大人しく起きてもらおうか。
♢
あれから数日。
俺は順調に魔力回路を回復させ、威力の調節や細かい作業ができるようになっていた。
「いやー、もうここまで来ると妬みなんて吹っ飛びますね~」
「エルカの指導とアイデアのおかげだ」
エルカもレインももはや俺への嫉妬が吹っ飛んだそうである。いっそ清々しいくらいに才能に差が現れたということらしい。
今までなぜそれが現れていなかったのかというならば、ひとえに、絡み合っていた複雑な魔力回路が暴発を防ごうとして、無意識のうちに流す魔力量を抑えていたためだとか。
あのドラゴンゾンビの死霊術師のことはヘイムダル曾御爺様にお任せするとして、俺たちはそろそろフォンブラウ領へ戻ることになった。
ユーキをはじめとするバルト、エルカ、ファリカ、ヴォーグの5人はフォンブラウ領へ来てもらうことに。
ユーキに関しては現在親戚がガントルヴァで傭兵家業をしているのでその手伝いに行くそうだ。ガントルヴァはリガルディアの西に位置しているため、フォンブラウ領の方が近い。
レインとは夏休み明けに再び見えることになる。その時はちゃんと顔を合わせようと思う。
だってもう避ける理由もないからな。
それと、レインの武器の大剣。
元々学生が持つには大きい代物だったのだが、もうちょっと重いのにしてみる、と言い出した。どうしたんだろうと思ったが、ルビーたちと目を合わせていたのでメタリカと何か相談した、ということなのだろう。
無茶さえしなければいいのではないかと思っている。
今日はもうすぐ出発するから鍛錬は無し。
その代わり、今日も今日とてインゴットで遊んでいる。
ドワーフは魔力などなくても素晴らしい金銀細工を作り上げる。
それは人間とて同じだが、やはり平均値が。平均がドワーフの方が高いのである。
人間の職人とはドワーフの気質は合うらしい。俺の周りにいる職人なんてアストくらいなもんである。
バルトたちは安全にお金を稼ぐ手段がないとのことだったので、ジグソーパズルの店番を任せてみようかと考えている。
俺たちは学生であるし、今回のように誰かがいないなんてことはザラだ。
全員が実家に帰ってしまえば店は開かない。
「なあ、バルト、ファリカ、エルカ、ヴォーグ」
「ん?」
「何?」
「はーい?」
「……?」
「店を、手伝ってくれないか?」
話を振ってみれば、4人は顔を見合わせた。
「お店をやっているの?」
「ああ。錬金やら合成やらの産物を売っている。店舗もある。王都だがな」
「王都に!? またそれは……」
バルトが驚愕に目を見開く。
ヴォーグは少し悩んで、口を開いた。
「俺は接客などできんぞ」
「ああ、心配はいらない。俺以外にもメンバーがいるし、先にそちらにあなた方を紹介することになる。会ってみて、俺たちの内の誰かでも気に入らんのであれば、蹴ってくれて構わない。不当にも扱わないし、王都が合わないと感じるのであればフォンブラウ領に引っ込んでくれていい。あくまで、冒険者ギルド以外の安全な稼ぎの方法の1つだと思っておいてほしい」
俺が説明すると、エルカが手を上げた。
「私、やります! 魔術師として魔道具作りの訓練もしたいです!!」
「じゃあ、私も行く。客寄せは、しないから」
「ああ、ありがとう。エルカ、魔道具の材料に必要なものは最初こちらで揃える。必要なモノのリストを作ってくれれば適当にこちらで用意させてもらうぞ」
「わーい!」
エルフの美女2人が来てくれるそうである。
客寄せはいらない。
そもそも別にそんなのは望んでいない、接客をメインとした店でもない。
「裏方、要るよな……?」
「……もっと自信を持ってくれて構わないぞ、バルト」
何でそう消極的なんだ。
「……はぁ。分かった。俺も行く。アウルム様達もいらっしゃるのであれば、いざって時に多少貴族相手に売りつけるモンがあった方がいいだろ?」
「はは。ありがとう、ヴォーグ」
よし、全員来た。
あとはソルたちに連絡するだけだが、どうするかな。
ソルたちは帰れば会えるからいいとして。
夏休み中にどこかで集合するしかないだろうか。
リンクストーンで個別にとも考えたが、面倒だ。
あ。
お茶会する?
よし、あいつら全員呼んじゃえ。
俺はすぐ父上と母上にお願いをしに向かう。
「父上、母上」
「どうした」
「どうしたの?」
「フォンブラウ領に戻ったら、茶会を開きたいのですが」
「まあ」
母上がにっこりと笑う。
「今回は殿下をハブっちゃだめよ?」
「う……」
アイツには事後承諾でよくないですか。
しかも勝手に店に入り浸ろうとするもんね?
貴族御用達でもないのに王族が入り浸るんじゃねえよ。
「……分かりました。カルにも招待状は出します」
「それでよろしい」
母上強い。
そして俺たちはフォンブラウ領へ戻った。