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Imitation  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年生 夏季休暇編
152/154

加護がすごい

目を覚ました時、俺は既にメルヴァーチ邸にいた。

ハッとして身体の傷の確認をしたが、どこにも傷はない。


逆に、指先まで魔力が流れている感覚がちゃんと感じ取れて驚いた。

そして魔力があまり足りないのか、ちょっと怠さを感じる。


俺はあのフレイムドラグーンを思い返した。

角の形を思い浮かべてみて、苦笑が零れた。


火竜の角は通常、深い赤である。

あのドラグーンは黒だった。

そしてもう一つ。


あのドラグーンの角は、アシンメトリーだったのだ。

あれは上位竜。

つまり、今俺が生きているのは奇跡に近い可能性。


ちょっと重いなと思ったら、ゼロが一緒に寝かされており、俺にしがみついている状態だった。これじゃ動けない。

ゼロの右目付近に火傷の痕があって、驚いた。


応接間には誰もおらず、俺とゼロだけソファに放置されている状態らしいことが分かる。

無意識に気配探知を行ったようで、皆がてきぱきと動いているのが分かる。

ドルバロムの意識が向いている場所も分かった。


じきにアウルムたちが応接間にやってきて、起きている俺を見て跳び付いてきた。ゼロを庇ったのは仕方ないと思う。


話によると俺は、フレイムドラグーンの許で大怪我を負い、デルちゃんたちに怪我を治してもらった状態なのだそうである。

ちょっと怠さを感じているのは、魔力の総量上限が増えると相対的に現在の保有魔力量が少なくなり、身体が充電を欲しているからだそうである。


魔力上限が増えることに魔力をほとんど回し続けるので、一時的な生命活動低下状態に陥っているのだそうで、実際はかなり無茶をしている手法だったのだと思い知らされた。

ちなみに、魔力総量が少ない人間は回復も早いが、無くなるのも早い。

魔力総量が多い人間は相対的に回復が遅く、本人の大体8割ほどが回復するまで怠さが残るとのことだった。その分魔力切れが遅い。


数値に表すのが難しいそうなのでとりあえず基準にカルを使ったら、俺の限界値は現在カル1000万人分くらいかなあと言われ、俺は上位世界の恐ろしさを漠然と感じ取ったのだった。


夕食がやたら豪華なようなので何でだろうと首を傾げつつ、ゼロを起こして2人で食堂へ向かったら何か記念日だったのだろうかと思うほどの豪勢な料理が並んでいてゼロに確認を取ってみたが、答えてくれなかった。


どういうことだとアウルムたちを見ると、虚空を示した。そこにドルバロムの意識が集中しているのも分かったのでなるほどドルバロムはそこから出現するのかと納得していたら、唐突にドルバロムが現れた。


「ロキの進化条件が整いました!」

「……は?」


唐突の報告に一瞬置いていかれた。


「え……? どういうことだ……?」

「簡単に言うとね、ロキの魔力回路は今までの転生でかなり複雑に絡み合ってしまって、そのままでは魔法として行使するものを魔術にまで落とし込めない状態、つまり、調整の利かない魔法しか撃てない状態だったんだ。今回、ムカつくことにバルフレトがお前の魔力回路を崩壊させたことでその辺のリセットが効くようになった。だからいろいろと組み直させてもらったよ!」


――つまり、一言で片付けると。


「怪我の功名」

「あ、詳細の理解を放棄しやがった」

「後でゆっくり聞かせてくれ」


今は少し眠いんだ。


「むー。まあ、仕方ないね。ちなみにそんなアホみたいに上限が高くなった原因だけど」

「ん」

「お前の転生回数だと思ってくれ」

「記憶なし強くてニューゲーム」

「理解が早くてよろしい」


俺はどんだけ俺が俺として行動すると信じてんだよ。妄信か。すごすぎるわ。

自分で自分がアホらしくなってくる。


「追加された加護だけ伝えとくね」

「……あれ以上追加されたのか?」

「お前毎回別の上位の住人味方にしてたからね。魂が経験上別のやつをつついてたんだろうけど、どれからも気に入られちゃってまあお前に優しい世界だ」

「確かにな」


敵に勝ててなかろうと、どちみち俺にとっては優しい世界らしい。


「その分お前が毎度残酷だけどな」

「皆おいて死ぬって?」

「分かってるならよろしい。もう死なないでおくれよ。お前のこと子供のように思ってる上位のやつって少なくないんだから」

「俺は一体何をした」


激しく問いただしたい。


「では加護の発表でーす。『闇竜帝の加護』! ぱちぱちぱちー」


アイテムボックスの神(笑)の加護だそうである。

ん?

ちょっと待てよ?


「俺の属性は?」

「あ、特に変わってないよ。重力とか腐敗とかが風とかの属性よりは得意になったけど、火とか水とか欠損とか変化とか、その辺は変わってない」

「そうか……」


良かった。


「ああ、でも、魔力回路は一度崩壊してるから、また魔力回路を思いっきり伸ばすところからだよ。魔力操作のコツを覚えてるならすぐに戻るから、問題ないよ」

「分かった」


明日からまた特訓だな。

食事の席に着く前にエルカが俺にとびついて来て、心配をかけてしまったなあと改めて感じた。


母上の笑顔が怖いのでおそらく今夜はお説教だろうな。

何だろう、シオンにも叱られる気がする。

今夜はちゃんと予定空けといたほうがよさそうだ。


とりあえず、俺がちゃんと復活したお祝いという形で行われた小さなパーティ。

料理がとにかく美味かった。

アウルムが作ったのは確定である。だってアウルムの味付けなのだ。

あれ、そんなに俺ってばアウルムの料理食べ慣れてたかな。





夜、みっちりと、母上に抱きしめられたままお説教をくらった。

正座の方がいいかと思ったのだが、離れちゃ意味ないでしょうと黒い笑顔で言われてそこに収まった形である。


お前はすぐ勝手に離れていくとか、守られてはくれないのねとか、私はちゃんと母親できてますかとか。


最後のは猛省しました。

前2つはどの子供もそうだろうと思って聞いていたのだが、母上が自分の母親としての立ち振る舞いを気にしだしたらもういけないと思う。

母上はちゃんと俺の母上ですから大丈夫ですと伝えた。


で、それらから解放されたと思ったら今度はレインからのお説教である。

半分くらい泣いていた。自分は足手纏いにしかなれなかったとか途中から随分卑屈になったのでそんなことないと言っておいた。


仕方がなかったのだ。

だって俺は転移が使えなくなっていた。

俺が相手を上位竜とちゃんと判別できなかったため俺自身ダメージを追う羽目になったがそれはもういい、結果的にはいい方に働いたのでチャラである。

大体本来そんな状態ならば死んで当然である。実力がなかったのだ。


俺はメルヴァーチの長男であるレインを生かすことを考えた。

それだけの話。


そう話したら、「そんな思考回路してるから死んでしまうんだ」と言われた。

おい誰だホントにあいつに変な夢見せたやつは。


エルカたちは明日構いに行くとして、俺は割り当てられた部屋に戻り、ドルバロムから加護の効果とスキルを聞いた。


まず、新しくついた『闇竜帝の加護』。

これは、具体的に言うと、とあるスキルがくっついて来て、さらに防御無双状態になるというものだった。


新しくついたスキルで具体的な効果は『魔法攻撃無効』、『物理攻撃無効』、『病魔無効』。

ただの防御チートになったらしい。

『闇竜帝の加護』で付いてきた効果のもう一つは、『無涯の器』というもの。


“涯”というのは、限りのことだそうである。

つまり、限界無くなる器が追加されたということになる。


一体何に成長すればいいんでしょうか。

俺を死なせたくないのは分かった。

じゃなきゃ防御チートになんぞならんよな。


「改めて聞くと、すごいな」

「うん、まあね。あ、それと、進化経路が新しく解放されました」

「やめろゲームみたいに言うな」

「仕方ないさ。本当に解放されたんだから」


この解放というのは、俺の魔力量がその限界を突破したからだそうである。

ちなみに、今現在の俺の魔力の限界値で上位世界の中の上だってさ!! ふざけんなインフレ酷すぎるわ!!

ドルバロムは何だよただのバケモンか!!


「――やだなあスズ、俺たち、体内に世界をいくつも持ってるような種族だよ?」

「ソウデシタネ」


ドルバロムの親父さん、上位世界以外にいくつか下位世界も包含しているそうである。

比べるだけ無駄な気がしてきたわ。

上には上がいるってことで。


「で、その進化経路って?」

「死徒、神人、上位種、って言ってただろ? あれに古代人種ってのが加わる」

「古代人?」


縄文時代とか思い浮かべてしまったのは仕方ないと思う。

でもすぐにちゃんとこの世界での知識も浮かんできた。


古代人種というのは、簡単に言うと、竜種と言葉を交わし、魔物たちと共に歩んでいた時代の人々のことである。

この大陸では随分と昔に滅んだと言われている。


「なれるのか」

「器はある。別の大陸に近い島にはまだ生きてるし、問題はないよ」

「そっちに行った場合何かあるのか?」

「半竜じゃなく、竜人になる確率が爆発的に上がるね」

「……ヒューマンでいいんだが」

「そこはもう仕方がない」


ドルバロムはそう言って笑った。

俺もつられて笑った。





孫や曾孫に囲まれて死んでいくのが、こんなに嬉しいことだったなんてなあ。

最初はそりゃあ、何で女になってんだよ、って思いもしたのだけれど。

それでも、まあ、出会った男性はいい方でした、と。


私が前世の記憶を思い出した時、既に私は彼と婚約していました。

私が追いかけていたようです。

でもそのうちどんどん追いかけることをやめて、彼の隣に立っても恥ずかしくないようにと、努力することを覚え始めた頃のことだったのです。


前世は男の子だったのです。

だから私は剣術が好きなのかもしれないと思いつつも、婚約者の彼と仲良く過ごさせていただいていました。


高等部卒業間近で私の前に立ちはだかった彼女は、利用されたのです。彼女を救うことはできなかったけれど、その分私たちは幸せに暮らそうと努めてきました。

彼女は世界から消えてしまって、彼女を乗っ取っていた彼も居なくなってしまいました。


誰も忘れてなどいないのですよ。

だからとっとと帰ってきて、この世界を生きればいいのです。

だってあなたはここ以外に居場所なんてないし、要らないでしょう。


私は、ロキ・フォンブラウ。またの名を、スズ・フォンブラウ。


私の前世はイミットの言葉で、“涼”と書く名を持つ男の子でした。

これをハドとゼロは、“スズ”と読みました。私の記憶では、リョウだったのですけれど。


彼女の身体は時を止めてしまいました。

私たちではどうすることもできなかった。

私たちはもう死んでしまうけれど、賢者となったエリオとトールがきっとあの子が目を覚ましたら、導いてあげてくれるはず。


おやすみなさい。

きっと私はまだこれからたくさんの世界を渡るのですけれど、その時に記憶などいらないのです。私は私ですもの。


それに、私ならば。

私ならばきっと、道を誤りはしないでしょう。ええ、自信を持って言えます。恋愛事には疎かったですが、友達付き合いには自信がありますもの。


ねえ、そうなのでしょう、水色の髪の女神さま。


あなたにとっては遊びで引き込んだのかもしれませんけれど。

結構、転生人生楽しかったです。


私が私のままで――いえ、こういった方が正しいですね。


俺が俺のまま、俺を信じられればそれでいい。

記憶なんていらない。

アンタの見せてくれた夢の通りなら、俺は何度も同じような世界を繰り返すだろう。

いつだって俺は諦めの悪い馬鹿でいいのだと思う。


さようなら、皆。

私は幸せです。

ちょっとパラレルワールドに飛んじゃったらしいあの子たちを連れ戻してきますね。




――――『世界の真理』が発現しました。


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