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Imitation  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年生 夏季休暇編
150/154

ドラゴンに捕まりました

レインがやたら俺にくっついてくるようになった。

ロクでもない夢をみたらしい。

なんか誰かが仕組んでるんじゃねえのかと思うタイミングだったのでドルバロムに問い質したが、誰とは言わないと返してきたので確実に上位世界のどなたかが関わっているんだろう。


本日はギルドで簡単な依頼を受けてみることに。前回のあれは意味が違うと思う。


「こんにちは、ロキ君、レイン君」

「「こんにちは」」


今日はゼロとアウルム無しで行って来いと言われたのでこの2人で行動している。

特に魔物と戦おうと思っているわけでもない。


もう顔を覚えられたので印象を見せる必要もない。素直に掲示板に寄っていく。

貼ってある紙の中には危険なものもある。危険度は赤い髑髏マークのスタンプの個数で表され、10が最大。


俺は危険度の高い依頼の場所をざっくりと見ていく。

レインが言った。


「この薬草採集はどうだろう」

「……場所がマズいな。その薬草採集に最適な森にはこれがある」


レインの示した依頼の場所と、魔物討伐依頼の場所がそっくり被っている。

こういうのはダメだ。

俺はいいがレインが逃げ切れない。


「ぬぬぬ……じゃあこれは」

「待て、死徒の森に突っ込めと?」

「え?」

「そこロルディアの子が多いぞ。巨大な蟲がいても殺さないのならそこが一番安全だろうが」

「蟲くらい殺さずスルーできる」


レインは虫が苦手なのだ。そりゃ、自分の腕ほどもあるヤスデなんか見たらトラウマになるだろうけど。


「じゃあこれで決まりだな」

「ああ」


案外近くにロルディアの範囲があったものだな。

よく考えてみれば、ロルディアの子供たちが独立して別の範囲を作っていることもあるのだ。


俺たちはその依頼を受けて小銅貨を5枚払った。

たぶん、ロルディアの森だと知られていないのだろう。知られていないのに俺が知っているということは、皆様あまり蟲を気にせず放置しているのかもしれない。そうすれば基本ロルディアは無害だ。


「お気をつけてー」

「「はーい」」


新人いびりなぞレインがいる時点でないわけだし、俺とレインは商店街で簡単に食料を買って出発した。





「ポーションも自分で作れるって、お前……」

「エングライア仕込みだからな。他はオリジナルだ」


城門を抜けて、ドラゴンゾンビのいた方よりも西に向かって歩く。この直線3キロほどのところにある小さな森、そこで採れる魔草の採集が依頼内容である。

ちなみに依頼主はどこかのしがない錬金術師殿。


森に辿り着けば、少しばかり甘い匂いと蜂の羽音。

なるほど。


「蜂か……? 羽音が大きい気がするんだが」

「ロルディアの直系がいる。旦那の名前は確か、アイフェだったかな」


ロルディア自身が人の姿をしているのもあるが、とにかくロルディアの子は皆人間サイズである。蟲の形をしているのは幼虫の間だけのものも多い。

森に足を踏み入れた時点でガチガチと顎を鳴らすような音がし始めた。


「こ、これ、大丈夫か?」

「巣が近いのかもしれない。女王はいるか!」


俺はアイテムボックスからロルディアのくれたトパーズのブローチを取り出す。

顎を鳴らしていたということは、スズメバチ系のはずなので、旦那はアイフェで合っているはずだ。

レインは俺にぴったりとくっついている。


姿を現したのが、トンボの翅を持った女性だったので俺は驚いた。

トンボってことは、リーヴァのブローチも出した方がよかっただろうか?


ドレスは巻きつけるタイプで、肩の部分は布がない。腕は別にカバーのようなものをつけている。黒地に黄色いライン。黒い髪、瞳は緑色。

これは、確かオニヤンマっぽい奴だ。何故地球の生き物がベースなのかは知らないが、ロルディアの子にはありがちだ。


「キキ殿とお見受けする」

「はーい、キキでーす」


女性――キキは顎を鳴らしていた同族たちを止め、俺たちの傍へ寄ってきた。


「何の用?」

「魔草を摘みに来た。いいだろうか」

「繭があるから、潰さないでね?」

「了解した」


キキは小さくうなずくと姿を消した。


「今のは?」

「リーヴァの娘だ。話は通じる相手だが脳筋」

「それは一体どういう脳筋だ」


手合わせすればわかるよ。

めっちゃ噛みついてくるけど。


とにかく、さっさと魔草を摘んでしまうに限る。

俺は指定された魔草を探し始めた。


クフィ草といい、この魔草といい、死徒が使うような植物をどうして人間も利用しているのか知りたいところである。

死徒の領域にしか生えていないというか。


群生してくれないタイプのようで、結構大振りなものがあっちに、こっちにと生えているだけだった。


「あれもか?」

「だな」


手分けして、とはいかない。俺がいなければレインが襲われる可能性も無きにしも非ずだ。巣が近くなれば警告を発してくるはず。レインはそれが分からない可能性もある。

蟲の警告方法しかしてこないからだ。近寄るなと口で言ってくれるとありがたいのだが。


20本ほど摘めばいいそうで、サクサクと散策しつつ摘んでいく。

途中で同じ種類の魔草にたかっている俺たちの身長よりもでかい芋虫たちを見つけた。流石に気持ち悪かった。いや、言っちゃ駄目なんだがな、傷付くから。傷付いて人間のように泣き転げるので余計気色悪いモン見るだけだ。


魔草が揺れて暴れているように見えたのでまさかと思って木陰に入って虫たちが飛んでこないようにしていたのだが、解析を掛けてみると、魔物化したものだったようだ。

というか、この魔草は魔物化するのか。


「早めに摘んで終わろう」

「そうだな」


しばらく周辺を散策し、ラスト1本、という時になって、気が付いた。


「レイン」

「ん?」

「……ロルディアの子がいない」

「……ホントだ」


普通は喜ぶべきなのだろうが、ここでは喜べない。

ここはどこなのかということだが、もれなく森の中央付近である。いや、薬草集めしてたら森突っ切っちゃうのよってエングライアが語るような場所のはずなのにロルディアの子供がここらにいないのは不自然だ。


「……別の魔物がいるとみるべきだな。ここのロルディアの子供たちは草食系が多い」


芋虫だもんな。そりゃ草食だろうよ。

俺は周囲を見渡し、魔力を淡く広げた。


探知に、何の影も引っかからない。

何でだ。

なんか嫌な予感しかしない。


まだ達成分には足りないがいいだろう、ガキが受けたのだから。

18本なんで。

大目に見てほしい。


「戻るぞ、レイン」

「達成には足りないがいいのか?」

「こんな状況で呑気に来た道を戻ろうと思うほど危機察知能力は低くないつもりだ」


俺は転移を発動させようとして、使えないことに気付く。

拙い、何か掛けられているのは確定だ。


「レイン、走れ」

「あ、ああ!」


レインが走り出す。俺もすぐに少し離れて走り出す。ロルディアの子供たちの姿が見えない、何でだ!

蜂の羽音もしない。

顎を噛み合わせる音もしない。


少し開けた場所に出て、俺は叫んだ。


「【耐熱・(アンチ)】!!」

「う、わあああああ!?」


レインが悲鳴を上げた、当然だ。目の前に業火が迫っていたのだから。


紅い炎が俺たちを包むが、とっさに掛けた抗魔術のために効きはしなかった。

が、俺がいきなりオリジナルの魔術を使ったために俺自身の身体が無茶をしたらしい。


「が、はっ……」

「スズ!?」


すぐに俺が魔術を使ったと理解したレインが俺に駆け寄ってきた。


「だ、大丈夫か……?」

「ん……、」


少し咳込んで、血を吐き出す。

胃に穴が開いたわけじゃないはずなんだが、どこから湧いたんだこの血は。


「まだ俺の魔力回路が安定してなくてな……とっさにオリジナル使ったせいで反動が来たらしい」

「なッ……そういうことは事前に言え!! くそ、知ってたらこの依頼受けなかったのに」


今更言ったって遅い。

炎が晴れて、炎を吐いたものが目の前に姿を現した。


「こいつは……」

「フレイムドラグーン。ファイアドレイクの上位種だな」


ドラゴン、とついていたり別の名前がちゃんとあったりするやつ以外はそこまで強くない。

そこまで強くないと言っても、ドラゴンの中ではの話であって、ワイバーンに比べりゃ当然強力だし、人間なんてぷちっと逝くのである。


紅い鱗、グリーンの瞳、黒っぽい角。

火属性のドラゴンって、四足というよりは二足歩行型に体系が近いんだよな。

逆を言うと、森の中でも多少小回りが利く。


体長約5メートル。

成体だ。ヤバい。


「こいつが来たから蟲たちが逃げたんだ……」

「つーか、何気に俺らの退路断ってんだよなこのドラグーン野郎」


どのルートで戻ればいいのかなんてこの森に詳しいわけでもないので知っているはずもない。レインは帰してやらねばならない。俺は最低でも命だけは助かるのだから。

ドラグーンだろうと、リーヴァの命は絶対だ。俺を殺すことはできない。


「レイン、早く戻れ」

「だが、スズ」

「俺は問題ない、リーヴァが俺にブローチを渡している限り、ドラゴンでは俺を殺せない。俺は命は助かるんだ」

「……分かった」


実は、アウルムとゼロに呼び掛けて見ているがどうにも通じていない。このドラグーン、ジャミングしてやがる。

もちろんルビーたちにも通じない。


俺はレインを背に隠しながらドラグーンから離れる。レインも干渉を受けているらしく、身体強化もできないと小さくぼやいた。

こうなった以上俺が本当に危険ならば母上が何か見ているはずだ。助けは来る。

レインが走り出す。俺はアイテムボックスから投擲用のナイフを取り出して、レインからずれた方向からドラグーンにナイフを投げた。


と、干渉され始めた。

もしかしたら、このフレイムドラグーン、ドラグーンじゃないのかもしれない。

もっと上位の種類のレッドドラゴンあたりが、わざとフレイムドラグーンの姿に偽装しているのかもしれない。


投げたナイフのおかげかと思ったが、ドラグーンはこちらを見た。ああ違う、このドラグーンは俺が残ると踏んでいやがったのだとすぐに理解した。

だって、狙っているもの。

最初から狙いは俺だったと言わんばかりに。


パン、と軽い音がした。

同時に俺は後方にあった木々に叩き付けられてまた血を吐いた。

パンなんて音で済ませてんじゃねーよとツッコミを入れたいが、今の一撃で脳震盪を起こしたらしく、くらくらする。


フレイムドラグーンが近付いてくる。

その手で俺は摘まれる。

フレイムドラグーンは森を飛び発った。けれど、その姿は、とても小さいもので。


竜人の女性、だった。


そこで俺の意識は途切れた。


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