従兄弟
目が覚めた。
今日はちゃんとベッドで眠れたよ。
起きてみたらなぜか寝巻の前がはだけていた。
横でゼロが丸くなっていたのでおそらくこいつのせいである。
そしてふと気が付いた。
入れ墨みたいなのが浮かんでいる。
「アウルム」
「んー……?」
まだ寝ぼけまなこのアウルムが身体を起こした。
「これ、なんだ?」
「……あああああああああッ!?」
アウルムの絶叫が屋敷内に響き渡ってしまい、メイドが飛び込んできた。
「ロキ様、何事です!?」
「ああ、いや、そこの半精霊が急に叫んだだけだ」
何でレイピア抜刀してんだよメイドさん!!
何とかメイドさんを落ち着け、小刻みに震えているアウルムを落ち着け、寝ぼけたまま抱き着いてくるゼロを叩き起こして着替えた。
で、鏡を見ている。
顔にも出てる……。
入れ墨っぽいものはどうやら俺の上半身に出ているようで、一体なんだろうかと思って図柄を調べていると、思い当たるものがあった。
ドルバロムの本体である。
長い、竜を模しているように見えたのだ。
「ドルバロム、この紋様ってなんだ? 何を表している?」
「イレースノアが動いたね~」
姿を現したドルバロムがいつの間にか俺の背後にいた。
「イレースノア?」
「上位世界を纏めている世界樹の精霊のことだよー。一番古参なんだ」
ドルバロムたちの世界の世界樹にはいくつかの人格が存在し、その中で最も早く出現したのがイレースノアというのだそうである。
「彼は親父がいなければ根付かなかったからね。気に入った人間には親父の姿を模したマークを刻むんだ」
「これは要するに、どういうことだ」
「強制的に引き上げる、ってことだよ」
俺を自分のとこの住人にしたいという認識でいいな?
「じきにそのマークは消えるから、気にしなくていいよ」
「3時間後には従兄弟たちが来るんだが?」
「大丈夫だよ、せいぜいあと1時間くらいで消えるから!」
ドルバロムの言葉を信じて、俺はそのまま朝食を摂るために食堂へ向かった。
♢
朝食の席でエルカとファリカとヴォーグが驚きを隠せず顔を見合わせ、母上が何を視たのか嬉しそうに鼻歌を歌い出す始末である。
「つまり後は昇るだけ、と」
「そうだねー。イレースノアが先に動いたのは驚きだなー」
「そんだけヤロウがやべえやつだってことじゃねーのか?」
「そうかもねー」
ドルバロムは変わらぬ間延びしたしゃべり方である。それでもきびきびするときゃちゃんとするんだからな。
「と、言うよりも、ネイヴァスだけではあれを傷つけられない可能性、だねー」
「遠いとこにいなきゃならねえのにあの子がこじ開けた術式を維持する役をこいつに回すのか?」
「だってそうするしかないでしょー? 俺がやったらバランス崩れるし」
上位世界は上位世界で大変なことが多いようである。
俺は朝食のサラダとベーコンエッグを食べながらそんなことを思う。
今日は従兄弟がやってくる。
俺的にはあの従兄弟たち嫌いじゃないんだが、仲は悪いのである。
何でって、あいつら典型的な貴族様だからな!
プライド高いし。
面倒なんだよな、軽くあしらわれてくれないし。
あいつらは俺がロキであることを知っているのもあって、「女のくせに生意気だ」と言っている。
学園も同じはずなのに会えないのはあいつらが俺を見つけきれていないためだ。
俺が避けてるからな。
「……父上、彼らに会う時は、どちらでいればいいのでしょうか」
「……学園では会っていないのか」
「避けておりました。アウルムの首輪の件もありましたので」
そしてあいつ、魔物学を取っていない。いつ取るんだ。後期か。発展が間に合わないぞ。
「……少し、あれは権力を笠に着る傾向があるからな」
「ロキに剣で負けているからではないでしょうか」
フレイ兄上が言う。
俺はこのお家の特徴を考える。
簡単に言うと、どっかのお家に子供が嫁に行ったら、孫の代を比べるのだ。嫁入りしていった子の子と自分のところに残っている子の子と、どちらが良いかを比べ、良い方にこの家の爵位を継がせる。
「……可能性が高いですね。俺が剣術でも彼より上ですから、爵位を奪われると考えているのではないでしょうか」
「……むう」
「今回俺が権力から離れることを伝えれば、俺の周りに突っ掛かってくることはなくなると思います。まあ、もしも平民や伯爵以下の者たちに権力を振りかざすなら、ゼロを向かわせます」
今まで目を離していたのはちょっとマズかったかもしれない。
今度からはアイツの監視も一緒にやるかな。
少し話をしていたら、馬車が来たのが分かった。
「いらっしゃいましたね」
「おお、もうそんな時間か」
ディーン御爺様が軽く手を上げると控えていた執事さんが部屋を退出した。
出迎えに行ったのだろう。
俺は部屋着であるので、上から簡易のものを着ることにした。
アイテムボックスからワインレッドのコートを取り出した。アウルムがすぐにそれを着せてくれた。
「暑い」
「氷竜カスタムでもしてみるか?」
「無茶言うな」
14歳の学生に狩れるもんじゃないっスわ。
前を崩しても大丈夫だよと言われたので、襟部分を少し緩めた。
ぎい、と少し重い音と共に扉が開き、青い髪の男性と茶髪の女性、青い髪の少年2人と茶髪の少女が入って来た。
「ただいま戻りました。って、アーノルド義兄上!? こっちに来ていたのかい!?」
「挨拶はきちんとしろ、ゼオン。スクルドの提案でな」
「姉さん久しぶり」
「久しぶりねゼオン。お父様が石になってるわよ~」
俺たち子どもが皆ゼオン叔父上に白い目を向けたのは仕方がないと思うんだ。
青い髪の少年の内の、身体が大きい方――件の従兄弟、レイン――が、俺を見つけて眉根を寄せた。
が、俺を睨んだ後すぐにディーン御爺様やヘイムダル曾御爺様の方へ挨拶をしに行った。うん、ちゃんと育ってるようで何よりですよ。