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Imitation  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年生 夏季休暇編
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浮遊魔術でお散歩Ⅰ

「くそ、また浮いてんですけど」


昨日今日と俺、天井で寝ております。着るタオルケットなんぞ母上がいそいそと用意していたのでまさかとは思っていたが、こうなるのか。

寝て魔力が回復すると俺は浮いてしまう状態のようである。野宿できない。


「とうとう3日目だねー」

「いいなー」

「いいなぁ……」


ゼロ、アウルムも同じ部屋で寝るようにしているので寝起きにそんな言葉を投げかけられた。いや、最初のはドルバロムだけど。


ちなみに、俺の意識が戻ると勝手に床近くまで降りる。便利。

この切り替えも何とかしなきゃならん、もう明日には従兄弟たちが来てしまうからな。

迷惑はかけられない。


昨日一通り屋敷の中を浮いたままで移動して見て回ってみた。

メイドたちには驚かれたが、俺が浮いているのは皆知っていたようで、皆よりも上の方を飛ばせていただいた。


俺にとってはただの魔力消費という形になるが、なんとなく宇宙空間を蹴りながら進むのと感覚は似ていると思う。たぶんだけど。俺は宇宙に行った経験などないから。


また今日も庭に出てふよふよと浮いていることになるだろうか。

どうにか魔力切れ以外の方法で地面に足を着ける方法を今日中に探し出したいところである。


ノック音がした。


「本日は大丈夫ですか?」


メイドさんの声。


「……また浮いた、と言えばよいでしょうか?」


その辺の物に触れてももう反発はしないが、椅子に座れないのだ。これでは迷惑を掛ける。いや、浮いてれば問題はない。別に空へ落ちるような事態にはならないので。


「レイ様が、様子を見せてほしいと仰っておられましたので、いらしてください」

「はい」


レイというのは曾御婆様の名である。


メルヴァーチ家は侯爵家なのでメイドにもそれなりの身分を持った者が結構いたりする。俺は、他家のメイドであるしと思って普通に言葉遣いが改まっているが、本来はこれ、しなくていいものである。


着替えて応接間へ向かう。

昨日よりも低空飛行しているのでメイドたちが微笑んで見送ってくれた。なんかこっぱずかしくなってアウルムに摑まっていたのだが、そのまま引っ張って運ばれた。





「ロキ兄上、また浮いていらっしゃる」

「……好きで浮いてるんじゃないんだがな」


朝食からわざわざ立食式にしてもらって、本当に申し訳ない。


「……まったく、どうやって浮いてるのか皆目見当がつかんな」

「魔法らしいです。もう精霊転身はしてないので」


転身はちゃんと自分の意思でなんとかできるところまで来たのだが、そしたら今度は、どうやら浮いているのは精霊転身したからだけが理由ではなかったことが判明。俺はもはやどうすれば地面に足を着けることができるのか分からなくなってしまった。


無意識に魔法を使っているらしく、コードも存在しない、どの魔法かもわからず、ついでにゼロの魔術も効かないときた。


これだけの条件を突き詰めて昨日は終わってしまったのだ。魔力が切れたという意味で。

であるから、たぶんなのだが、この魔術、浮遊魔法とかそんなものである可能性がある。

どういうことかというと、要するに。


浮力やら圧力やらと同じ感覚で、上向きのベクトルがもともとあるのだが、そのベクトルだけやたら強力になっている、という可能性である。

これはたぶん、力属性である。


しかも、この調子でいくと俺の変化属性が組み合わさっているだろう。

なんか、俺の属性が、俺が一度でも思い描いたことのあることを具現化しようとしている気がしてしまう。


空飛びたいって思ったこと、ありませんか、地球に住む諸君。

前世では小さい頃、鳥になりたかったです。


「反重力、か?」

「うーむ」


朝食中に皆で頭を突き合わせて術式はあーでもないこーでもないと話し合っていたら、レイ曾御婆様がやってきた。

あまり朝から起きてくる方ではないらしいのだがな。

俺が気付いて挨拶をすれば柔らかく挨拶が返ってきた。


「皆で頭を突き合わせて話し合っているのですか? 答えは出ましたか?」

「いや、まだ出とらん」


ヘイムダル曾御爺様が答える。レイ曾御婆様は俺の方を見た。


「ロキ、あなたの中の予想はどうでしょう?」

「……はい。おそらく、力属性と変化属性の複合魔法ではないかと」

「理由は?」

「……水に浮きもしないが底に着くほど重くもない、という状態によく似ているなと思ったのです。浮力と似たものが働き、身体が浮く。変化属性でその力が強く働いても俺の身体が崩壊しないようになっているのではないかと」


本来ならばすべての方向に向かって均等に力が働いているはずで、その一部だけ力が大きくなってしまえばその部分は何らかの影響を受けるし、人間の身体は脆い。人体が浮くような浮力が働いているとしたら、内臓なんかも一緒に押しつぶされるのではなかろうか。


「なんと……」

「力属性……」


父上と、ヘイムダル曾御爺様とディーン御爺様が何か考えてぶつぶつと呟き出した。

これはなんかいかんものを情報提供したような気が?


「……もしかして、浮遊機構か何か制作中でしたか、父上?」

「……ああ。ちょっと競争(蹴落とし合い)中でな」


今何か不穏なルビが聞こえた気が?

ウチと仲が悪いのというと、新興貴族様か。

プライドだけはいっちょ前なんてのも結構いるので困りものだ。


「作ってはみたんだがな。改良点を探さねばならん」


ゼロがひょっこり顔を出す。


「ロキ、散歩に行こう。近くにイミットがいる」

「は? なんでまた」

「傭兵。ディディガナ家のやつだ」


ゼロのクラッフォン家はリガルディアの中では東側のイミットを統括する家である。偶然にもフォンブラウ領にその拠点があるに過ぎない。

対してディディガナ家は南側のイミットを統括している家だ。ディディガナ家はお隣のベデルロイ領に拠点があったはずだ。

傭兵と言っていたから、たぶん出てきたんだろうけど。


「……ん? まさか」

「ああ、ディディガナの若造のことか?」

「ん」


ディーン御爺様が口を開けばゼロがうなずいて答えた。


「どういうことです?」

「ディディガナの若造は、地竜との子らしくてな」

「ああ……飛べないのですか」

「実験体にしても文句は出んだろう。イミットは頑丈だ」

「速度が出るなら面白がる」


ゼロはどうやら浮遊機構が軍事に使われるものであることを理解したうえでの発言のようである。


「ということで、ちょっと散歩に行こうか、ロキ!」

「待てそれなら儂が行く」

「いえここは私が」

「俺は行くぞ」

「大人しく人数分用意なさい」

「「「はい」」」


この家はレイ曾御婆様の尻に敷かれていると見た。


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