魔力操作練習
復活しました。
翌日目を覚ました俺は皆から酷く心配され、ドルバロムや父上からは驚愕の目で見られた。
ちなみに、ドルバロムからの説明を後から受けて理解したのだが、ドルバロムとの契約の際に呑むマナというのは、その契約する人間が最も苦手とするマナであるらしい。
加減を誤れば身体が爆散するような危険な代物だが、分量さえ間違わなければ問題ないとのこと。
俺はどうやら音が苦手だったらしく、つまり振動系がほぼ全般苦手分類されていたようだ。
地震を除いて。
それはね?
もうね?
小っちゃいのは慣れたから。日本人だったし。
何で音だけ苦手だったのかはわからないらしいが、そりゃ恐らく死徒の咆哮のせいだと思われる。あの耳障りな音は何度聞いても気味が悪い。
直接間近で2度ほど死徒とは対面している。1度目は幼少期だったのでその為ではないだろうか。
……フォンブラウに置いてきたナイトやスー、フェン、ミィはちゃんとソルの言うことを聞いて大人しくしているだろうか。
あと骨っ子……あのボーンドラゴン全く俺の前に姿を見せてくれなくてちょっと寂しかったんだけどどうなってんだ。
不安である。
俺はさっさと着替え始める。
今日もあまり激しく動かない方がいいとのことだったので、動かずにできる魔力操作を重点的にすることにする。
外に出て、ベンチに座って。
魔力を少しずつ固めて、火で鳥を作ってみる。
水で魚を。
足元には土で亀でも作ろうか。
光で蝶を作ってみれば、いつの間に来たのかヴェンとドゥーが追いかけ始めた。
『パパ! これ綺麗!』
『愛しい子、すごいわ!』
「ありがとう」
お褒めの言葉に礼を言って、そのまま全部同時進行で動かしていく。
――いやー、流石。
ドルバロム?
――これだけ並列できる人って、あんまりいないんだよ。上限解放された感じみたいだね。
上限解放、と聞いてなるほどと思った。
今の俺は、器を何段も重ねて、魔力を上から流し込んでいる状態らしい。
今までは一番上の段までしかなかったので、いっぱいに貯めるためにドルバロムから魔力供給を受けている状態だ。
細い細い先の方にまで魔力を浸透させるために、安静にしておいて、身体を魔力が巡る補助をしていくほうが効率が良いのだとか。
感覚としては、神経でも血管でもいいが、そう言った全身を巡っているものの中に魔力が含まれているということ、魔力は意識的に回さないと全身の末端を巡らないということ、これらを重ねて考え、全身に回す。
そうすることで強化などの魔術は効率も威力も段違いに上がる。
それと、自然と触れ合った方がいいと、指摘を受けた。
なので、こちらにいる間はメルヴァーチ領にある“カルカの森”へ行くことが決まっている。従兄弟たちも一緒に。
そこの芝生に寝転びたいなあと思う。
公園なんかでよく寝転んでいたのを思い出してしまったのだ。
小さい頃からそういうものに触れていなければ、あまり魔術は上達しないとヘイムダル曾御爺様が言った。
俺は前世の記憶上、田舎で生まれ育ち、祖父に山や海や川へ連れ回されていた経験があったため、元々土属性と水属性の魔術の威力は高い傾向があったらしい。
だから今年の夏休みはその経験を生かしてこの身体に覚えさせてはどうかと。
父上が一緒に行くと言い出した。御休みを取って暇なのでと言っていたので、おそらくヘイムダル曾御爺様から何か言われたものと思われる。
朝食の時間ですよとメイドが呼びに来るまで俺はぼんやりと魔力を行使し続けた。
♢
「魔力操作はどんな感じだい?」
フレイ兄上が問いかけてきた。
一先ず食事を終え、席を立ったところ。
「……順調、だと思います。まだ、指先にまでは魔力を流せていないのですが」
「あ、教師要る?」
フレイ兄上がやったとばかりに目をキラキラさせながら問いかけてくる。
なんか断り辛いぞ、兄上。
「……はい、お願いします」
「うん!」
フレイ兄上ズルいです、とスカジ姉上とトールが言い出して4人で一緒に庭で魔力操作をすることになる。
「というか、スカジは教えられるのか……?」
「私の名を舐めないでもらおうか、フレイ兄様」
「ちょ、名前で言ったら一番教えるの下手なの俺になりませんかスカジ姉上!?」
スカジ姉上とトールが言い合いを始め、俺はそれを少し微笑ましく見ていた。
俺の魔力は含まれる属性が多いため、このきょうだいたちと同じように扱えるものではないのだが、そこはもうドルバロムに特訓付けてもらうしかないわけである。
「じゃあ、とりあえず何か防御コードでも組んでみようか。簡単なやつ」
「えーと」
庭について早速フレイ兄上が言う。
コードは魔法陣のことであり、詠唱がいらない魔術のタイプを言う。
いっつも漢字当てはめて詠唱してるのと何ら変わらない状態になってるのでコードをチマチマと組んでいくのが面倒である。
防御系はそこまで細々していないので平気だが。
コードを組んでいくと途中で魔力で描いたコードが崩壊した。
「……(-_-;)」
「え、今の何」
「……魔力量にコードが耐えきれずに崩壊したのか?」
「まともにコードが組めないとか、ちょっと問題あるな……」
もう一度同じコードを刻んでいく。
また崩壊。
「……? 崩壊の兆しも分からない……」
今までできていたことが急にできなくなってちょっと混乱し始めた。
もう一度。
また壊れる。
一度深呼吸した。
「……」
少し、荒い方を組んでみる。
崩壊した。
「……あ」
「……まさか、」
俺とスカジ姉上が同じことに気付いたようで。
顔を上げると、姉上と視線がかち合った。
「属性で押しつぶしてるのか?」
「たぶん。……フレイ兄上、魔力の属性を選り分けるところから始める必要がありそうです」
「そんなに酷いのか……?」
コードにもそれぞれ属している魔力属性というものが存在するが、防御系は土属性と力属性、ちょっと幅は広いが物理属性といった人間の種族属性ではない属性の塊だ。
恐らく現在、ドルバロムの魔力が俺に混じっている状態のため、防御コードは使えない可能性が高い。
「ドルバロム、お前防御することってあるか?」
『ないよー。槍で流すか放置?』
「ですよね」
ドルバロムの中に防御するという概念がそもそも存在していない可能性について。
「ちょっと待っててください、用意するので」
「ホントに便利だね」
アイテムボックスから適当に宝石を掴み出し、目の前に置いていく。
系統が近ければ魔力容量はそこそこのものになるのだが、やはり一番魔力を含んでも平気なのは金である。
インゴットにもいくつか出てきてもらった。
「いくつ属性があるのかだけ聞いていいかい……?」
「認識してるのは火、水、土、風、光、闇、変化、金属、闘、病、死、破壊ですね」
「消滅はないね?」
「分かりません。あるかもしれないし、ないかもしれない」
たぶんない。
あったら俺、ラスボスを最初っから消しにかかってると思うんだ。
「なんで? 病と死と破壊ってサッタレッカじゃ……?」
「加護がついてるらしいから、そこで付与されたものかもしれない」
「……謎が深い」
スカジ姉上はそう言いつつ、俺の手を取った。
「これから魔力を流す。その感覚で、指先から魔力を宝石に流し込め。だいぶ魔力回路が開くはずだ」
「はい」
スカジ姉上が手を重ね、ダイヤモンドの1つに俺の指先を置かせた。
ゆっくりと魔力を流し込んでいけば、じきにダイヤモンドは赤い光を帯びる。
火属性の魔力を流し込んだらしい。
やべー、属性が何だったのか全く分からなかった。
スカジ姉上の掌から俺の手を通って指先へ魔力が流れたのだけは感じ取れた。
今の感じを忘れないうちに別の石で試す。
ダイヤモンドに魔力を流し込んでみる。
いや、これ割っちまうな。
そう思ったら、ダイヤモンドにひびが入った。
「おい、ロキ……?」
「属性が全く感じ取れません」
「何でだ、こないだまでできてたのに」
こっちが聞きたい。ドルバロムに問いかけようとしたら、見越していたらしく先にドルバロムが姿を現したところだった。