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Imitation  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年生 夏季休暇編
131/154

ヘイムダルの憂鬱

ヘイムダル曾御爺様視点です


1年前。

この家にようやく連れてこられた曾孫4人。そのうち2人は初めて見る顔で、スクルドはこんなに子宝に恵まれたかと微笑ましく思っていた。


しかしそのうちの1人には問題があった。

銀の髪を持つ、ロキ。

男の姿になっていて、スズと死徒から名を与えられていたが、それくらいはこの瞳で見通している。


元は女児として生まれ、しかし精神は男のものであり、転生者。

これは厄介なことになったと思うと同時に、その銀色の髪と見比べて、魔力量が少ないことに気が付いた。


私の髪は暗く深い青である。

しかし、魔力量はけた違いに多い自覚もある。だが、それに匹敵する程度の魔力量を誇るロキが銀髪なのが、おかしい、と思い、つい口に出ていた。


どういうことを言いたいのかというと。


私と同等の魔力量では、銀髪になぞならんというのが本音である。

たかが4代でそんなにこの血が薄くなるとは思えなかった。


そしてロキの少しばかり足の浮いているような精神状態に危うさを覚えた。

人間として見られていない感覚があったのだ。

彼が自覚していないだけなのだろうが、この類のモノに碌なものはいない。

ちと惜しいが、いざとなれば私が斬り捨てようと思うほどには、彼は驚異的な存在であった。


それが、今年やってきたロキは、ずいぶんと落ち着いていた。足が地面についているというか、危うさはなくなっていた。

代わりに、精霊酔いを起こしかけて現在もソファでぐったりしている。


去年全く平気だったのはどうやら彼自身がかつてかけた誓約のためだったらしいと彼の契約精霊から簡単な話を伺うことができた。

転生者とは、難儀なものだ。


「お父様、御爺様、少し私たちだけで話したいことがあるのですが」


スクルドの声に視線を向けた。人払いせよということであろう。

片手を上げれば静かにメイドたちが部屋から出ていった。

防音障壁をアーノルドが掛けたところでスクルドが苦笑した。


「あのですね、いくつも報告を持って来たので、簡潔にお伝えします」

「ああ」


スクルドが苦笑するということは、ロクでもないことだとこちらからすれば分かりきっている。

さあ早う言えと言わんばかりのディーンにアーノルドも苦笑を零した。


「実は、ロキはどうにも、死徒になり始めたようでして」

「……は?」

「詳しいことはアウルムの方がよく知っています」


アウルム、と呼ばれて前に出てきたのは、上位精霊の半精霊と思しき、金色の瞳と黒い髪を持つ少年だった。

その瞳に十字線が入っているのを見て、ディーンが声を上げた。


「メタリカ……!」

「ええ、ちょいと縁あってロキに拾われたしがない平民出身の半精霊っスよ」


彼は私たちの前のソファに座り込んだ。

つまり、対等に話すことになるという意思表示である。


「……ロキは、本当に死徒になるのか」

「死徒止まりにするわけにゃいかねーが、俺らの上は上位種まで持って行く気だ。アスティウェイギア、サッタレッカが噛んでる。もう誰も止められねェよ」


私は考え込んだ。

技巧神アスティウェイギアも破壊神サッタレッカも、どちらも人間に友好的な存在ではなかったはずだが、と思っていると、ふと、このアウルムという少年のことが垣間見えた。


なるほど、この少年も転生者か。


「――今、少しばかり見えました」

「そうかい。んじゃ分かったと思うが、俺が気に入ってるってのも含めてロキは今回召し上げが決まった」


ディーンが呆然として何も言えなくなっている。

妻たちも何か思案するように考え込んでしまった。


死徒化する、上位種に進化する、ということは、権力から離れるということを言っているのと同じである。

これだけの強い者を跡取りにできないのはフォンブラウとしては悔しいことだろう。


「おい、アウルム……」

「どちみちお前の鍛錬はしなきゃなんねえ、お前は戦場にこそ出ねえが、ネイヴァスがより有利に戦うにはやっぱりお前の魔力量がないと話にならん」


ネイヴァス傭兵団の名が出たことで大体掴めてきたが、おそらくこのアウルムという少年、ネイヴァスのメンバーなのだろう。

しかし、今のロキの魔力量でも足りないと聞こえたのは私だけだろうか?


「今のロキの魔力量でも足りないのか?」

「元はといえばこの倍はあったんだ。それを半分も、ヤロウの封印に回してる」

「!?」


驚いたのはロキが一番だったようで、声を上げた。


「なんだそれっ、聞いてないぞ!?」

「言ってねえもんよ。お前が本格的に魔術を使い始める前に何とかしたいってのが本音だよ。野郎の封印してんのがお前、お前が押し切られたら必然的にヤロウが全快状態で解放されちまうんだからな」


アウルムの言うヤロウというのが何なのかはわかりかねるが、どうやらネイヴァスは面倒事を片付けるために降りて来ているらしい。

それは皆も理解しているのか、次のアウルムの言葉を待つ。


「で、そんなこんなでいろいろあるんだが、こちらで全て戦闘は請け負う。代わりに、この家に居る間に、ロキの魔力コントロールを鍛える場を貸してほしい。こいつが膨大な魔力を、しかも精霊から与えられる魔力を扱えないと、魔力枯渇で死ぬからな」

「!?」

「それだけの魔力量を一気に消費しないと倒せないような敵が相手だというのか!?」

「近いな。実体はもうちょい複雑だが」


アウルムの言葉に私たちは固まった。

いや、一番固まっているのはロキのきょうだいたちである。


「なっ、そんな危険な話だなんて聞いてない!」

「ロキでなければならないのか!? 分散させればもっと楽になるだろ!?」


言い返す兄たちを見つつ、ロキが口を開く。


「いや、おそらく、俺の魔力でしか倒せない。その為に“アイツ”もネイヴァスに預けることになるんだ。覚悟くらいしてたさ」

「でもそれじゃ、兄上……!」

「だー、まだ死ぬと決まってないだろう! それにそこで死ぬ云々の話が出る以前に、“不破の誓約”が出ているという話はしたはずだ! 俺は死にたくても死ねないし、彼らが傍にいる限りは問題ない!」


ロキはそう言い切って身体を起こした。ふらつく彼を支えたのはゼロと呼ばれる方の黒髪の少年で、ロキのために彼らは動いているのだと強く感じることとなった。


「……ここに居られるのだろう、闇精霊ドルバロム。御身を現せ」


私が告げれば、存外あっさりと姿を現した上位竜種の黒い竜人が笑って言葉を紡いだ。


「何を問う?」

「ロキの状況だ。おそらくではあるが、ただの封印とは言い切れん。魔力量の上限は成長とともに多少は伸びる。この子はそれがない。一定量を封印に回していると言っても、これはおかしいだろう」

「あー、うん。これ、言っていいかな?」


ドルバロム張本人の姿なぞ基本見れるものではないのだが、何故かあっさり姿を現したことから見ても、確実にこの方もロキに肩入れしている。


「封印の一部が解かれて、ロキから相手を維持する魔力が流れてる状態なんだよね、今」

「おい、俺が全部ややこしくしてないか」

「いや、これ変えちゃったのプラムとかいう女だし」

「マジかよ」


つまり、ロキは今虐げられていると?

そういうことでいいな?


「相手はロキを何が何でも精神的に潰しに来るよ。だって精神崩壊すれば封印の維持はできないだろう?」

「じゃあなんだよ、それのためにナナシたちはあんな目に遭って来たっていうのか」

「その通りだ。そしてそれでも守り切った。守り切ったからここにロキがいる」

「……ッ」


何らかの犠牲の上にこの世界が成り立っていると、そういう理解でいいのだろう。

彼ら転生者がどこから来るのかなぞ、分からない。

しかし、彼らはとにかく必死で相手を食い止めようとしているらしい。


「……ロキ。もう、慟哭騎士はいないんだ」

「……なってたまるか、くそっ」


口が悪い、なんて注意する気も起きない。

これが彼らにとっての現実。

現実に足を着けたと思ったら、今度はこんな事件の中心にいるなんて。

ロキは、運がないのか、素晴らしい悪運を持っていると皮肉ってやるべきなのか。


ともかく、協力を惜しむことはない。


「我々はできることならば何でも協力しよう。具体的に何をする気かね」

「まず第一段階は俺とロキが契約して、多少無理矢理だけど今より魔力総量の上限を上げる効率を上げておくよ。大丈夫、空間さえあればすべてが思うままだ」


これは、屋敷は壊さないから静かに場所を提供しろと言っているようである。

その程度ならいくらでもできるぞ。


「次は?」

「細かい魔力制御の訓練をさせるから、それを見てあげてほしい」


それは暇人の私がすればよかろう。


「他は?」

「どっかの鍛冶工房を貸して。アツシ……じゃなかった、アスティウェイギアが直々にロキのために刀を打つと言っていたから」

「分かった。して、材料は?」

「名前の無い金属なのでお答えできません」

「ヒヒイロカネだかアダマンタイトだかの上だな」


それだけのものとなると、どこの鍛冶工房を提供すればいいのやら、分からないが、とにかくドワーフたちを当たってみるか。


「話の規模が一気にでかくなったんですけど?」

「ガキが動くのも限度があるんだよ」

「で、名前の無い金属はどこから?」

「俺以外に誰がいるよ?」

「なんでそんなもん使わせる気になった」

「野郎の魔法が効かねーのって今んとこ上位世界のものだからな。だったらいちいちこっちで金出すより俺が生成できるもん最初っからぶっ込んだが早いだろ」


メタリカ族を連れたものがどれほど強力な存在であるかを多少理解しているらしく、ロキの表情は引きつっている。が、気にしていては負けである。


大人しくもう少しの間は守られててくれ、とアーノルドが呟いたのを聞いて、全くだな、と零した。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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