お久しぶりです
おや、章の切り方を間違えたようだ
転移と馬車を繰り返しながらメルヴァーチ領へ3日掛けて移動した。
ちなみに転移で俺たちみたいな大所帯家族が一発で転移できるのには理由がある。
俺の魔力量である。
俺の魔力量が段違いに多いことには変わりなく、転移のコードを起動させ、行使するのにそこまで苦がないというものだ。
「……改めて思うけれど、ロキの魔力量っておかしくないかな」
「確かに、バカみたいに高い自覚はあります」
プルトス兄上の言葉にそう返すと、プルトスも多い方なんだがなあとフレイ兄上が愚痴をこぼす。
フレイ兄上は俺たちの中では最も魔術適性が低いためにこんなことを愚痴っているんだが、はっきり言おう。
う ち は お か し い 。
ただでさえ剣聖の再来なんて言われていた同級生を下すフレイ兄上、魔導王の再来扱いを受けるプルトス兄上を悠々と魔術でいなすコレー、雷の発電量が明らかにおかしいトール、そして自他共に認める脳筋姉妹(魔術使えないとは言ってない)スカジ姉上とロキ、つまり俺。
「……つくづく、うちは頭おかしいのしかいないというか」
「一番魔力量がイカれてるやつに言われたくないなぁ」
今回はゼロとアウルムも連れて来た。
荷物持ち役だけども、アウルムの方は余裕で土属性精霊ですよってのを周りに示す服装をしている。
鉄色の服を着ているのだ。
これは金属精霊であることを表す。
ちなみに、金属精霊は回復系が使えない、根っからの戦闘特化タイプである。
「しかし、アウルムって金属精霊だったんですね」
「しかもメタリカだろう? なんでこう上位の存在ばかり引き寄せるんだ、愛されているのか?」
トールとスカジ姉上が言う。うん、たぶんそうなんだよ。
たとえ俺が覚えていなくても、彼らが経験してきたことはなくなるわけではないし、であるから俺たちに力を貸してくれているのだとすれば、運命的なモノを感じなくもない。
メルヴァーチ家の屋敷に着き、中に入れば前と変わらずアインスとツヴァイが母上を迎えにやってきていた。
エルフというのは長命なうえに魔術も魔法も使い、弓に長けた種族である。
しかしアインスとツヴァイはその生い立ち故に本来のエルフとはだいぶ違う印象を抱かせる。
子供っぽいのは実際赤子同然なので仕方ないが。
「スクルド様~!」
「スクルド様お帰り~!」
「ただいま、アインス、ツヴァイ」
俺たちへの出迎えではなく母上だけに向けたお迎えであるところに笑ってしまうが、まあ、微笑ましいので俺的には放置の方向である。
屋敷の中に入った瞬間に俺の視界を光が覆い尽くした。
「ッ!?」
『まあ!』
『わあ!』
『気付いた!』
『わあい』
俺がぴしりと固まったのを見たらしい精霊たちらしき声が飛び交う。
何だこの家、こんなに精霊がいたのか。
「ああ、ロキ、精霊見えるようになったんだったな」
「ま、前が見えない……」
ナタリアが陥ったのはこれだったかと納得した。
目の前を光がめまぐるしく動き回るうえに、赤、緑、白、青、黄とカラフルだ。
これは辛い。
酔いそうだ。
『だめー』
『愛しい子が酔っちゃうわ! ほらほら、離れて離れて!』
ドゥーとヴェンが群がってきていたらしい精霊たちを払ってくれて、視界が開けた。
俺は情けなくその場にへたり込みそうになって、父上に支えられた。
「す、すみません……」
「いや、精霊の光はめまぐるしく動き回るからな。屋内でこれだけ居ては酔うのも当然だ」
「魔力量が多い子ほど酔いやすいから」
つまり俺、この先もっと酔いやすくなるっちゅうことですか、母上。
まさかこんなことになるとは自分でも思っていなかったので呻くことしかできない。
精霊学の基礎知識こそ頭に入れていたが、本番は後期なのだ、仕方がないだろう、と自分に言い訳をして、父上の支えの元、歩を進めた。
「それにしても、ここまで酔う人間を見たのは初めてだぞ、ロキ」
「うぐ……鑑定スキル持ちの後輩が言うには、カル殿下の3倍くらいだとのことでしたので、そりゃもう酔いやすいのではないかと」
ヨシュアの驚愕の表情を思い出したらそんなことしか言えなかった。
俺が精霊が見えていなかったと知った時、ヨシュアはすぐに酔い止めを準備することを提案していた。うん、気遣ってくれてありがとう、できた後輩だお前は。
しかしカル殿下の3倍というのは具体的にどれくらいなのかというと、まあ、平均的な貴族の魔力量のおよそ15倍である。
王宮の魔術師たちでもカル殿下の魔力量を下回るものがいるというのに、その3倍が半分ってどうなんだ、俺。
精霊が見えるラインが平均的な貴族の魔力量の3倍が最低ラインであり、そうポンポン生まれるものでもないのだが、闇属性の魔力を持っていると逆に精霊を探知しやすいらしい。元々の魔力量が多い上に闇属性も持っている俺やナタリアはその影響で精霊の光が鮮烈に見えているのだという。
ちなみに、セトも魔力量が少ない割には精霊が見えている節があるので、闇属性推して図るべし。
去年と同じく応接間まで通された俺たちは中に入って礼をする。
「お久しぶりでごさいます」
「ああ、久しぶり」
「お待ちしておりましたわ」
「さ、早くお掛けになって」
そこには、優しい表情のメルヴァーチ家の皆様がいた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。