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Imitation  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年生 前期編
127/154

精霊の願い

合宿はつつがなく終了した。

俺はあの後気が付いたら医務室のベッドにいた。

闇精霊が俺に精神汚染を掛けていたようである。俺はそれをレジストし切れずに倒れたらしい。


心配したぞと皆に声を掛けられた。


体調も戻ったので俺は普通に授業に参加している。

ちなみに、合宿の結果は来週発表されるようだ。


「もう大丈夫なんだな」

「ああ」


俺が倒れたと聞いて不安定になっていたらしいトールを慰め、エリオの組手につき合わされ、俺は漸く目的地である中庭にやってきた。

そこにはあらかじめ呼んでいたカルたちがいる。


「何かつかめたか」

「断片的に、ずっと昔の、何世前か分からないような時代の記憶が戻った、とだけ」

「!」


アウルムが俺の肩を掴んだ。


「……ッ」

「アウルム、心配するな。やっと思い出したんだ。俺にとって俺が俺でしかないように、彼らにとっても俺は俺でしかなかっただけだってことを」


アウルムはいろんなことを知っているから、その分俺たちを心配するんだろう。

アウルムはそういうやつだと俺たちは知っているし、それでいいと思う。


「待たせてすまなかった」


俺はもう、精霊の力を借りないと誓った。

その誓いはそのままでも構わないだろう。

いつかその誓いを反故にするだけの覚悟ができた時、彼らの力を借りようと思う。


でも、だからって見えなくする必要はないだろうよ。

それだけかつての俺は、精霊と仲が良かったのだろうけれど。


精霊不可視化の魔法。

それは、呪いに該当するものだ。

自分で自分を呪うなんて、相当参ってたんだな、そん時の俺は。


俺の周りを銀色の風が舞う。

ふわりと姿を現したのは、黒い髪の少女と、若草色の髪の少女だった。


『やっと、やっと見てくれたわ、愛しい子』

『……やっと、解呪してくれた……』


それでも俺は彼女らを縛りたくなかったのだろう、彼女らの名は忘れている。

契約を結ぶこともないだろうし、問題はない。それにしても、精霊の力を借りないと言いつつ闇精霊の力を借りてるんじゃねーか俺の馬鹿野郎。


――いや、その子人工精霊だよ。君が作ったの。その子は精霊に転生したみたいだ。


マジですか。


『パパ!』


黒い髪の精霊が俺に跳び付いてきた。俺はそれを受け止めた。

彼女らに願われるなら何だってやろう。

――契約以外の方向でお願いします。


カルたちが俺の傍に寄ってくる。


「精霊が見えるようになったんだな」

「ああ。俺のエゴで随分と傷付けた。彼女らに恩が返せるなら、やるよ――契約以外は」

「そこで契約以外って言ったら話にならんと思うが」


不服そうに闇精霊と風精霊が頬を膨らませている。

2人とも美人さんである。これが人外級ってやつか。


『契約ダメ? なんで、パパ!?』

『そうよ愛しい子! なんでこの期に及んで契約ダメなんて言うの?』


精霊2人が俺に詰め寄ってくる。


「……流石に、あの言葉は。あんなの言ったのでは、な。俺、契約なんて結べない。契約したことを後悔してるんじゃないんだ。あなたたちのような存在を、あなたたちの意に反した形で力を行使させるのが怖い。俺だって人間だ、エゴで動くことだってある」


だってあの言葉は。

きっと、その先、故に出た言葉で。


『でも! 今契約を結ばないと、愛しい子! 私たちの手が届かなくなってしまうわ! だってもうあんな悲しいあなたを見たくはない!』


風精霊は自由気ままだ。

そんな彼女にここまで言わせるとは、この時の俺、一体何をしたんだ……。いや、この、悲しいあなたってのは、たぶん、ナナシのことだな。


『パパ、契約。してくれなきゃ、自爆するもん』

「ストーップ!」


不穏な単語が聞こえました!


「ちょっと落ち着け、闇精霊に自爆なんてないから!」

『あるもん、重力最大にしたら自爆できるもん』

「周りの被害が甚大だ!」

『自爆してほしくなかったら契約するの!』

「なんで契約1つで皆を人質にされにゃならんのだ!」


しかも契約しろって言ってるの精霊側。

本来逆じゃない?

無理矢理契約結ばれそうになって嫌だから自爆するっているのが普通じゃない?


「わ、分かった、契約するから、その重力魔法を破棄しろー!!」





「……なぜこうなった」

「誰もアンタの無駄にカッコイイとこなんて望んでないってことじゃない?」


俺のつぶやきにソルからそんな返答があった。

シリアスシーンをぶっ壊す勢いで突っ込んできた2人、俺的には闇精霊の方だけに言ったつもりだったんだけども、風精霊の方も便乗してきた。言質取ったもんと言われ、その手に圧力魔法を出して来たのでもう俺にはどうしようもなかったですハイ。


「ところで、あの言葉、って、何だったの?」

「……」


ソルの問いに俺は苦笑を返す。

アレを言ってもいいものだろうかと、思ってしまうのだ。


あれはナナシを彷彿とさせるものだった。

あれは慟哭に近かった。

きっと、その手で全てを破壊した俺の末路。


「……『ごめんなさい』」


ソルが目を見開いた。


『ごめんなさい。こんなはずじゃなかった』


『あなたたちを利用したかったわけじゃ、なかったのに』


『もう二度と、あなたたちの力を借りないとここに誓います』


『さようなら、ごめんなさい』


そらんじてみせれば、ソルに抱きしめられた。

こちらをギョッとした顔で見ている風精霊のヴェンと闇精霊のドゥー。


「ごめん、なんでもない顔で言い出すから気付くの遅れたわ」


ソルに謝られている理由が分からなくて首を傾げる。するとソルがハンカチで俺の目元を拭った。


「……俺、泣いて……」

「アンタ、寂しかったのよ。ずっとそうだったんだわ。もう大丈夫だから。ほら、泣きたいだけ泣いてればいいわ」


ホント、彼女には敵わない。

時折リョウとして顔を出す自分が、少しばかり羨ましい。

アキラという頼れる姉がいたのだ。前世と呼べるもののはずなのに少しばかり嫉妬する。


「ねーねーちょっとそこのお二人さん、シリアスブレイクしていいですか」

「「?」」


何故そんなことを聞くのかと思ってふと声のした方を見る。

ルナである。


「いいわよ?」

「構わないぞ」

「……じゃあ、遠慮なく」


ルナが近付いて来て、ナタリアとエリスも面白がってついてきたようだが、俺らの目の前で立ち止まったルナが、とんでもない発言をした。


「ソルお姉ちゃんおめでとう、あなたはナナシを攻略しました」

「「……はあああああ――――っ!?」」


そこではたと俺は気付いた。

今、ルナが、はっきりと、俺をナナシだと言ったことに。


いや、おそらくそれは正しくて、俺は実際ナナシが俺であったことを確かめたわけで、けれど、俺は成長しきったナナシになど会ったことはなくて。


「え、ちょっと待て、やっぱマジで俺がナナシだったのか?」

「うん。ナナシがいる世界軸を選択してしまうと出てくるよ。設定では、とある国から追い出されて、傭兵として身を立てた姿。心に多大な傷を負っていて、自分自身でもそれに気が付いてない。頼れる人が本当は欲しくて、でもそれに気が付けなかった」


さっきちらっと感じた俺じゃね。


「……ロキくーん?」

「うわああああああ俺が攻略対象だなんて嘘だああああああ」

「いや、ロキも好感度パラメータあるっつの」


そんなゲームの仕様なぞ知らん。


「ちなみにこの場合どうなるんだろ?」

「無理、きょうだいっぽすぎる」

「俺も、さっき感じたの、こんな姉貴がいた涼が羨ましいって」

「スカジさんに言いつけるわよ」

「それだけは勘弁してくれ」


ふわりと俺に絡みついてきたヴェンとドゥーが嬉しそうにきゃらきゃらと声を上げた。


「?」

『愛しい子が、やっとこの世界の住人になった気がしたんだもの』

『パパ、触れるよ』


俺はソルと顔を見合わせた。


「……そうだな。ソルに……アキラへ、告げる。俺はもう、リョウではないらしい」

「……そうね。姉弟のように感じている、赤の他人だわ」


ソルは、俺の言いたいことが分かっているようだ。

本当に、頼もしい人。


「ソルと、ロキだかスズだかとして、生きていこうと思う」

「私も賛成よ。だってもう、アキラって呼ばれてもあんまり自覚ないんだもの」


なんだか、胸がすっとした。


手の平サイズのサファイアに、2人の魔力で文字を刻む。

さようなら、高村涼。

さようなら、高村明。


俺はロキ・フォンブラウとして。

彼女はソル・セーリスとして。


この世界を生きていくことにする。


これまでの誓いを俺が守る必要なんてどこにもないし、俺たちはやりたいようにやればいい。精霊の悪用は無論これからも自分に許す気はないが。


こちらの暦で数えれば。

奇しくも、高村涼らの命日と重なったのだった。


ここまで読んでいただきありがとうございます

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