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Imitation  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年生 前期編
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合宿4

合宿最終日、そろそろ戻るかー、という話になったので荷を纏めて帰路についた。最短距離で森の入り口付近へと戻ろうとしていた俺たち。

カルが突然足を止めたので皆カルの様子を窺ったのだが、ばっとカルが俺を振り返った。


「?」

「……皆、ここにいる精霊が見えるか?」


俺たちはあたりを見回し、ソルが小さくうなずいた。


「見えるわ。かなり魔力を集めてくれてるみたいね」

「え、もしかしてエリスちゃん目の前真っ白なんじゃ」

「うん、歩けない」


恐らくカルも歩けないのだろう。精霊が見えるのか。

俺には全く見えてませんがね。

何でだろう。ミィは見えるのに。

そういえば俺、上位の精霊しか見たことなくね?


「俺にも見える」

「セトが見えるなら相当だな」


魔力量が低い人間に精霊は見えない。それでセトが見ることができるのなら相当だろう。

でも、俺には見えない。


「ロキは?」

「まったく見えん」

「えっ、それおかしくない? 明らかにここで最大魔力量持ってんのロキだよね?」


ロゼにもちゃんと精霊が見えているとのことなので、俺だけ見えてないってことになる。

ちょっと切ないかな。

でも、精霊が見えないことに何か、ほっとしているんだよな。


「……マジか、それマジで後引いてんのか」

「アウルム、何を知ってるの?」


アウルムは本当に辞典状態だな。


「駄目だ、言えねーよ。これはダメだ、俺は言わねえ」

「何それ」

「何故言えない?」

「そんなの、ロキが掛けた誓約に決まってんだろ。ちょっと待ってろ」


アウルムが虚空に顔を向けた。


「おい、お前ら。ロキに気付いてほしいなら、それだけのことをしなくてはならない。お前たちの姿をロキがシカトできなくなるくらいの魔力量でぶつかって来い。猶予は合宿終了までだな、王都は魔素が薄い」


「ああ、だから早めに仕掛けろ。俺たちは一切手伝わない。これは精霊の問題じゃねー。お前たち下位精霊の問題に過ぎないんだからな。さあ、行け。俺たちはもう戻る。道を開けろ、カルとエリスが歩けんのでは話にならんからな」


アウルムがそう言ったら、カルとエリスがほっと息を吐いた。


「やっと物が見えるようになった」

「あー、びっくりしました……」


そっか、エリスもソルもルナも精霊がつくくらいだったんだから、相当魔力は持ってるってことだったのか。

もうだいぶゲームの知識も薄れてきている。

それでいいと思っている節があるのでもう放置の方で行こうか。


俺たちはそこからはゆっくりとスタート地点へと戻った。

精霊がちょくちょくちょっかいを掛けてきたようだが、俺には全く分からなかった。





スタート地点に戻ってきた俺は、身体の怠さを感じた。魔力だけ見てみると闇属性がまとわりついていたので、闇属性の精霊が俺に付きまとっていると考えるべきだろう。

他の帰ってきている生徒が俺を見て目を見開く。くそ、見える奴らはいいよな。


「ロキ、まだ見えないの? 結構闇精霊積み重なってるけど」

「怠いだけだ」


ソルの問いに素直に答えると、そっか、とだけ返ってきた。


「……そこまで頑なに拒むなよ……」


アウルムの呟きを聞いて、俺が拒んでいる側であるとの認識を深めることになる。

俺が拒んでいる、かつ精霊が寄ってくるということは、何かしら前世というか、パラレルワールド、ナナシのような俺が何かしら後悔して自分に制約を掛けているというのが正しいのではないだろうか。


「ちょ、フォンブラウがえらいことになってる!」

「闇の精霊様~それ以上やったらフォンブラウが潰れませんか~」


教員たちがなんぞ騒いでいる。

怠いなーと思っていた程度だったのが今明らかにきつくなった。


そういえば、ナナシは精霊見えてたんだよな。

最初は見えなかったようだが。

何かヒントはないかとナナシの記録をあさる。


死徒、というものは、精霊の力をあまり借りることができない。

ナナシが精霊を見ることができるようになったのは、死徒になった所からのようだ。


精霊たちがやたら寄って来るけれど、死徒というものは精霊とは真逆の存在、生きている物ほどキラキラしているわけではない。精霊のような美しい清らかなマナを持っているわけでもない。

なぜこんなに好かれているのか、彼には理解できなかったようだ。


ただ、精霊たちが慈しんでくれるのだけは分かって、守りたいと願った。

死徒は、精霊よりも上位の存在だ。

下級神と精霊は違う。


死徒は下級神である。精霊では手の届かないところまで彼は行ってしまった。

精霊の力を借りなくてもいいくらいの高みへ昇ったというべきだろうか。


なら、キーワードは――力を借りる。


これだろうか。

精霊魔法は精霊に魔力を分け与える代わりに魔法を行使してもらうという、今現在最も身近に魔法を行使する方法であり、才能の有無がものをいう。

俺はその才があったとする。


俺はナタリアを呼んだ。


「ナタリア」

「はーい?」

「ちょっと聞きたいことがある」


ナタリアは俺の傍へ来てくれたので単刀直入に尋ねる。


「ナタリアが会った一番最初の俺は、精霊が見えていたか?」

「あー、うん、たぶん精霊と話してたんだと思う。今もたまにリオと喋ってるから同じように見えるけど、あの時はちゃんと魔力見えてたし」


と、いうことは、だ。

ナタリアが最初に会った俺の段階ではまだ精霊の力を借りていたとみるべきだろう。

そのころの俺はまだ魔力量が今の倍はあったようだが。


「――魔力量が減ったから精霊の力を借りた……?」

「どうしたの……?」


もしかして、俺、魔法をガンガン行使してたんじゃないか?

それができなくなって精霊の力を借りた?


「精霊って、何か嫌がることあるのか?」

「えっ、えっと……自然の破壊は嫌がるかな。そこにいられなくなっちゃうから」


あれだけの戦争をすると考えると、ちょっと飛躍した考えでも範疇に入ってそうな気がしてきた。

大陸丸ごと吹っ飛ばすとかでさえなけりゃ割と何でもありな気がする。


「……もしかして、精霊魔法で何か吹っ飛ばしたのか、俺」


そうつぶやくと同時に、見えはしなくても感じていた精霊の気配が、少し、変わった。

何か、そわそわしているような、ああ、擦り寄ってきてんのかな?

さっきまでよりずいぶんと精霊たちをはっきり感じるようになった。


ツキリ、少し頭痛がした。


『――い』


遠く、声が聞こえる。


『――め……さい』


横でナタリアが何か異変を感じ取ってか騒ぎだした。肩を揺すられても、俺はその顔を見上げることしかできず、焦点は定まらなかった。


『――なはずじゃ……た』


心配そうに俺を見ている黒髪の少女。

他にもたくさんいるなあ、赤、青、緑、茶色、黄色、それぞれの属性の精霊たちだろうなあとぼんやり考える。


『あなた……利用した……じゃ、なか……のに』


遠く、自分の声らしき声の謝罪文。

少しずつ、はっきりと。


『もう……と、あなたたちの……借りないと……誓い……』


『さようなら、ごめんなさい』


その謝罪文の全文をはっきりと聞き取った俺は、そのまま意識を失った。


もう一話いきます

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