合宿Ⅰ
とうとう、やってきました、合宿。
ちなみに俺、あの後本気で金属細工をやったら一度ぶっ倒れた。
倒れるって程じゃなくて、ゆるっと眠っちまう感じだったんだが、アウルムがえらく慌てていた。どうやら、あんな感じで死んだことがあったらしく、言い出しっぺのクセに一番慌ててやがったよ。
その後、肌に斑が出始めたら絶対にそれ以上魔術を行使するなと言われた。
魔力枯渇で魂削っちまうとそのまま死んでしまうから、と。
先に言って欲しかったが、たぶんこいつもその辺を忘れたのだろう。本当に忘れたいことは忘れるようにできているのが人間だ。
カル、セト、セスと俺、ゼロ、アウルムの6人パーティ。
ちなみにソルはクルミ、ルナ、エリス、ロゼ、ナタリアの6人で組み、アルトリアやターニャは別の友人たちと組んだようである。
本当は先輩がいた方が心強いが、俺たちのところはね。
戦力過多なんですよ。
俺は精霊と契約してるし、カルは光の攻撃魔術も持っている。セトも多少闇魔術が行使できるので怖いものなしというわけだ。
足引っ張り要員がセスである。セスはほとんど戦闘力はないので、逃げることに特化していることを加味するとあんまマイナスでもないというね。
合宿では取った獲物をギルドで交換するその換算金額でポイントをつけていくスタイルである。弱い魔物を狩っていけば俺たちは自然と上位に食い込むことになるだろう。
「ちょっと奥までいってみるか?」
「そうだなー」
それぞれスタート地点からバラバラに出発した。ちなみに、班で協力するのもありとのことだったので、さっそくソルたちと合流して向かうことにした。
♢
「いやー、燃やす要因がいないっていいわ」
「そうねー」
森の入り口付近、魔物を狩りつつ進むことにした俺たちと、その剥ぎ取りをメインでやってくれるセスとクルミには感謝である。
火属性の攻撃だと魔物の素材丸ごと焼き払ってしまうので大変だろう。
俺たちは光、闇と風、魔術阻害、土、風、火と水他、と多彩な属性なので問題ない。
ソルたちはソルがメインアタッカーになりそうだったのでちょうどよかったと言っていた。
「まあ、火属性がメインって時点で採集メインにしようと思ってたのよね」
「そっちが無難じゃあるわな」
「でも、捌ける人もいるし、ついて行こうかな?」
ナタリアも群れで向かってくるホーンラビットをゆるりと闇属性で締め上げながら言った。
あれ、俺も使えないかな。便利そうなんだけど。
「ナタリア、それ教えてくれるか?」
「あ、これ? いいよー」
魔術だが魔術じゃないという変なモノらしい。
「魔力を練るでしょ。縄をイメージするでしょ。相手の首に掛けるでしょ。締め上げるの。上に引くといいわ」
「ん」
言われたとおりにやってみるが、最初は上手くいかないものであるらしい。縄、か。
船を繋ぐあれでいいだろうか。
アレだとちょっと太いかな。
太さの調整をしてみたりいろいろしながら群れを丸ごと締め上げてみた。
「もしかしてこれワイヤーできるんじゃね?」
「あ、いいねそれ!」
「お前ら闇属性で何遊んでんだ! 俺も混ぜろよ!」
「一緒に魔力ワイヤー作ろうよ。罠に便利だしセトぐらい動ければ足場にもできるよ」
あいつら仲良さそうやなという言葉を紡いでいるソルたちを無視して、俺たちはワイヤー作りに励んだ。
ワイヤー作って放置してたら大量にホーンラビットが獲れてしまったのだが、気が付いたら全部クルミとセスが解体していた。
「ホーンラビットめっちゃいたな」
「まだその辺にちらほらいるぞ」
「結界どうする?」
「ナタリアと俺で張る。皆は安心して寝ていいぞ」
闇属性の結界だが、範囲防御で闇属性が使えるのって結界なんだよな。アホみたいに強力です。
俺はふとイミドラで類似のイベントがないかどうかを探ってみる。
ハンジはどこにいるんだろうかとも思いつつ。
イミドラとイミラブで人の関係があるのはせいぜいカルとセトくらいのもので、基本的にはどの国も国内の問題は内輪で完結していた。
魔物がやたら多い気がするという旨の報告を記録し始めたカル、その傍で休息の準備を始めたセトとアウルム、セトは武器の手入れを、ゼロは周囲の警戒を。
俺とナタリアが結界を張り始めれば、ソルとクルミ、ロゼが物理トラップを外側に設置し始める。ルナとエリスは皆に傷がないかを確認する。
なかなかバランスのいいメンツであると思う。
結界を張り終わった俺とナタリアがカルの傍に戻って来た時にはたき火を囲んでいる状態だった。
「さーて。ここで1つ確認したいことがありまーす。ナタリアさーん」
「はーい?」
ソルの言葉にナタリアが首を傾げつつ答える。
「いろいろ去年から考えてて放置したんだけどさ。ナタリアって――いえ、ナタリア様は、クローディ家の御令嬢である、という結論に達しました。いかがですか」
「あー」
ナタリアは、やっぱりねー、と苦笑を零した。
「うん。そうだよ。でも、他の人には黙っててね? 私の兄は私が妹であることを知らないのよ」
クローディ家は、双子だったとみるべきだろう。男女の双子、家を継ぐのは息子が望ましい、しかし魔力総量は恐らくナタリアの方が上だ。
空気を読んだセスが静かに俺たちから離れていこうとするのを留め、音が聞こえないようにするコードを渡す。彼はすぐにそれを使用して俺たちに背を向けた。
「そんな設定あったっけ……?」
「ううん、無かったのよ。でも、やたら私が王宮に呼ばれるなんておかしいとは思ったでしょ? あれ、王家が私のことを公爵家の娘と見ているせいなのよ」
ルナの問いにナタリアはそう答えつつ、俺を見て、なんでわかったのかな、と尋ねてきた。
「ケイオスにはちゃんと子供がいる、しかもナタリアと同い年だ。ケイオスの混沌属性は珍しく血筋に出るもの。だから養子になったってこと自体がおかしいって判断」
「そっか、そこで判断したんだね」
「実際この話が出たの、サロン発表の前後だったしな」
「めっちゃ最初の方じゃん!」
ナタリアは笑った。
もうこれは向き合うしかないかしら、と。
「どういうこと?」
「……私は、生き残るって言ったでしょ。戦おうが、何しようが生き残るのよ。その道中にね、あったのよ、公爵家の娘だったんだよ、って分かる事件が。一番最初の転生の時だったんだけどね」
そしてナタリアは、一番最初の転生人生を、語ってくれた。
もう一話いきます