壁
魔物についての報告を上げろ、と生徒会からお声が掛かった。
ちなみに、今年の生徒会はものすごく天狗さんだらけだという。
これは、生徒会に誘われて蹴ったアレクセイとユリウスからの情報。
ソルたちも声を掛けられたらしいが、蹴ったとのことである。
俺には誘いではなく、命令が来ているあたり、嫌なものを感じる。
今回の結界の綻び、作られたと断定されたので、その穴を埋めるために、凶暴な魔物を放つことにしたようである。
だが。
「絶対こいつ魔物学まともに受けてねェな」
「やっぱそう思うか」
アウルムに、俺に来た依頼の書かれた紙を見せればそんな答えが返ってきた。
俺もそう思うよ。
魔物学をまともに受けていれば、魔物についての報告を上げろはないだろうよ。
それに、これ、たぶん本当の意味だと、俺たちの魔物を使おうとしている。
たぶん、コスト云々の話でこちらの方がいいという話になったのだろうが、バカ言うなという話だ。
俺たちは既に育てていた魔物を3体やられて神経が尖っているのだ。
警備しろ、盾になれ、戦えなどと言われればブチ切れるに決まっている。
今年は18人がきちんと魔物学基礎を受けている。
俺とロゼ、あとはゴルフェインの令息。
公爵家3つは確実に敵に回すことになるんだが、平気なのだろうか。
いや、こんなもん気にしたって仕方ない。
俺は中等部3年卒業、つまり成人する年になったら確実にフォンブラウの姓を捨てることになる。まだ表面上はフォンブラウでいろとのことだ。
なんかね、先日のアホ3人組といい、この命令を下したやつといい、頭緩いんかね。
イライラが募る中、アウルムとゼロが紅茶とクッキーを出してくれた。
「ありがとう」
「糖分は大事だぜ?」
「スパーリングなら付き合うぞ?」
こいつら、ほんと的確に俺の心情読んでくるよな。
紅茶を啜ってクッキーを口に入れた。ほんのり甘い。うまうま。
「……物食う時の幸せそうな表情は変わってねえなあ」
「……俺にはわからん」
「お前の親父さんは表情筋がよく働いてらっしゃるからな」
アウルムたちの会話を聞いていてふと思った。
そういや、俺、無表情だって最近めっちゃ言われるようになったんですが。
なんで?
「なあ、アウルム」
「ん?」
「俺、元々表情筋薄かった自覚あるが、最近やたら無表情だって言われる」
「誰から」
「ソルとクルミだな。あとお前にも言われた。最初に言い出したのはハンジだが」
俺が名を並べていけば、アウルムはなっとくしたようにあー、と小さく声を上げた。
「そりゃ、そうだろうよ。お前、お前自身が自覚してる前世から考えると、めちゃくちゃ表情死んだからな」
「……どういうことだ?」
「何度もエグイもん見て、その都度転生繰り返して表情が死んでいっちまってんだよ。俺が自覚したのはソルが死んだ時だが、たぶんクルミが死んでもフォンブラウの人間が死んでもゼロが死んでも同じ反応だと思うぞ」
あくまでもパラレルワールドとして聞いていたが、今の話さ、俺たちもナタリアやロキと同じ転生の方法取ってるって言ってません?
「……俺らの前世もやっぱパラレルワールドの方なわけ?」
「だと思うぞ。お前の表情の消え方追っていったらめっちゃ綺麗に記憶並んだし」
「何で時間経過の指標にされてんだよ」
「そのツッコミ待ってた( ´∀` )」
ああ、あんま重くならねえような話の振り方考えてくれたのか。
アウルムに抱き着きに行けば抱き留められた。
ゼロが被さって来たので野郎3人で団子になる。
「まあ、アレだな。傷付いた時間が長すぎたっつーの? お前が本来持ってた力は、いくつもお前自身が切り捨てちまってるんだ。これから、死徒列強もネイヴァスも、労力押しまずお前を本気で上位種に上げに来るぞ」
「マジかよ」
「上位種になるにはちょっと、お前の魔力量は頼りないんだ。最悪ドルバロムとの契約もあるかもな」
精霊契約を既に7つこなしている人間への台詞とはとても思えません助けてください。
精霊契約には、自分の魔力の一部を精霊側に与え、代わりに精霊側の膨大な魔力を自分の中に受け入れるというものが存在する。
これ、非常に負担がかかる。
俺が今しているのは、同等量の魔力を行使してもらえる権利を得る、というもの。
本当はこっちがお願いできる権利を得る、程度でよかったんだが、かたくなにアウルムやルビーに拒まれた。
ミィは俺が育てることになっているのでいくらでも魔力を融通できる関係にある。本当はこれを6人ともやりたがっているのだが、無茶言わないでほしい。
いくら俺が全属性使えるとはいえ、彼らは土以外の片割れの属性が異なっているのだから、そんな危険は犯さないでほしいものだ。
合わない魔力を無理に受け入れると暴走するので命の保証はしないよ、という話。
「今の上位種ってので思い出したんだが、元々ランクの高い魔物って、あんまり伸びしろないよな?」
「ああ。スーとナイトは元々スレイプニルとヨルムンガンドだったが、フェンはフェンリルで出てきたのはまだ数回だ。フェンは記憶戻ってるからな、上位種目指してると思った方がいいぞ」
「ファッ!?」
何気なくアウルムに疑問をぶつけたらとんでもない反応返ってきましたけど。
「あいつらも上位種目指してる?」
「どう考えてもそうだろ。ああ、ドルバロム、アイツナイトを闇竜に上げる下地作り始めてるぞ」
「ちょ、ダメだろただの災害じゃねーか!」
「人間に転身すりゃいいんだよ。ああ、転身って、変身魔法の上位版な?」
そっか、上位世界には普通に存在するのか。
俺がこの世界では一番であったとしても、ってやつか。
「まあ、上位世界って、あんまり自分の領分云々言うやついないからさ。俺が全部の属性扱えるのもそのせいだぜ?」
「マジかよ」
「使えねーのは消滅だな。女将たちしか持ってねーはずだ。ああ、族長は持ってねーぞ」
アストが持ってなくてデルちゃんが持ってるって、デルちゃんどんだけ高位な存在なんだよ!?
いや、破壊神とか言ってたな。そりゃ技術よりは破壊の方が上になるか。根本的なモノだもんな。
「あいつらの進化、手伝った方がいいよな」
「だな。所詮はこんなちっこい卵から生まれた弱者だからな」
アウルムが、俺たちが孵した、懐かしい大きさの卵を模してみせた。
そう。
今がどれだけ大きかろうと、ナイトですら、自然界に放り込んでしまえば、圧倒的弱者なのである。
「どういうことだ?」
「ゼロはリオのサイズって聞いたことあるか?」
「いや」
「あいつ、この世界を腹の中に抱えてるんだと」
「はっ?」
ゼロですら驚愕するサイズだったようだ。まあ、こいつらの場合、竜帝が最も巨大な竜であることは間違いないので。
「ナイトは、そんなモノの下位種だと?」
「ああ」
「……なるほど。小さすぎるな」
「そういうことだ」
そう。
ナイトが今いくら100メートルほどあろうが、映画に出てくるアナコンダばりに巨体を誇っていようが、小さいのだ。
本来のヨルムンガンドならば、1年。
1年あったら、とっくに、国一つ程度ならば囲めるサイズになっているはずなのである。リガルディアがいくらでかいとはいえ、大陸ほどはないのだから!
うん、これについて文章をまとめるかな。
俺は身体を起こして2人から離れる。
「あ……」
「どうした?」
「生徒会を黙らすのにちょうどいい資料なら今アウルムとゼロがくれたじゃねーか。とっととまとめて提出してくる。終わったら、久しぶりに俺が何か作るよ」
「お、楽しみだな!」
「ロキの料理……! 久しぶりに食べれるッ……!」
何やらテンション上がってきた2人。好きなもの作ってやるから材料買って来いと言えば、元気に2人で飛び出していった。
まあ、文章書くんだから邪魔にならねーようにってのも考えてんだろうけどな。夕飯の時間まではまだあと2時間以上ある。
……まあ、2人は好みが真逆なので、うまく意見がまとまるかどうかが怪しいのだが。
そこは、年の功ってことで、アウルムにお任せしようかね。
ここまで読んでいただきありがとうございます。