鈴蘭
いよいよキャラが増えてまいりました。
そろそろキャラまとめを作ろうかと思います。
あれから数日後、ウチに銀髪、色白、銀眼のモノクロ男がやってきた。
スーツだけ黒くて、ネクタイが赤かった。
その姿だけで、ああこいつ転生者だと分かるようにこのカッコで来たな、とわかった。
理由は単純。
この世界に、スーツはない。
燕尾服はあるが、あくまで燕尾服。
スーツじゃないのだ。
そして何より、この口調。
「ロキ嬢はいるかね」
彼は開口一番この台詞を宣ったという。
「こちらの世界での先輩の助言だ、ありがたく受け取りたまえ」
絶っっっ対弓兵の真似してやがる、だったら肌を黒くして来いやと言いたくなってしまったがそれだとマジで似てたのでやめとこうなんて思ったり。
ちなみに、彼自身はものすごく細身だ。
死徒化した反動だと本人談。
そんな彼の名を呼ぶときは、ラックまたはラーと呼ぶようにとのことだった。
俺は、彼からこの世界のことをいろいろと聞いている。
「しかしまさか、ゲーム舞台の世界とは」
「ラーはそう感じたことはなかったのか?」
「ステータス確認ができていたから、ゲームじみているとは思っていたがな。しかし、シュミレーションゲームか。厄介だな」
ラーはゲームをやっていた世代らしい。シュミレーションゲームは厄介すぎる、と言って頭を抱えてしまった。
「……ま、確かに厄介だけど、何とかするしかないって」
「……私はゲームにはなかった存在なのだったな?」
「ああ。あんたのコンビ……ルーの伝説は轟いてたがな、コンビになってるとは知らなかった」
様々な差異があるのは確かなようだった。
「パラレルワールドなのかもしれないが……いや、そもそも、おそらく神々の戦争から問題があるな」
「そうなのか?」
「ああ。その時に日本で災害が起きてな。その時に死んだ者の一部が神に。私はその後死んだクチだったのでな、関係なくこの身に宿ったわけだが」
ラーは苦笑した。
「神にという話はあったが、ルーが神人になってしまったうえに、人間に一度絶望した私は、彼を蝕む神にしかなれなかった。寿命が無期限というのが同じならば、後はどうにでもなる。そう思って、死徒になった」
思い切りのいい人だ、とは思う。
まあ、本人は同情されたくて語っているわけじゃないし、聞いている分にはすげえなあってので終わる話ではあるけれど。
「あと、聞いていたストーリー中に出てくる魔術だが。あれは確実に欠損魔術だ。使うなよ」
「はいよー。つーか、使い方わかんないし」
「これが無ければいいのに、と強く願うと術が発動する。欠損魔術に術式はない」
ラーから恐ろしい情報が手に入ってしまった。
ストーリーの中で、大団円の友情エンディングの話をしたのだ。
詳細を聞いてみたが、どうやら神子が教会に預けられる原因が、この欠損魔術にあるらしい。
「そもそも、どうしてこんなアルビノのような子供ばかり教会に預けられているのか、だ。明らかにおかしいだろう」
「天使みたいな見た目にでもなるのかと思ってたわ」
「……その線はでっち上げたやつがいたな。向こうの大陸では迫害対象だ。神々のお創りになった理を崩壊させるもの、と言ってな」
ラーから聞いた話を簡単にまとめれば、欠損魔術というのは、世界の理に干渉する魔法で、大元はシヴァ。
理を破壊し、後から作り直しているらしい。
元が神の権能で、うまいこと魔術では解き明かすことができず、魔法のまま残っているのだそうだが、いかんせん強すぎて魔力をごっそり持って行かれ、一般的な人間では使った途端世界から抹消されるくらいだという。
「私は平気だったが、1発撃って吐血なんて神子はザラに居るぞ」
「うえッ!?」
「私は平気だと言っとろうが」
思わず背をさすってやろうかと思ったわ。
「まあ、君は私よりも魔力が少々少ない。倒れることはないだろうが、気をつけたまえ。教会に見つかれば、確実に攫われる。せめて我々からアクセサリの詰め合わせが届くまでは平穏に過ごしてくれ」
「ん、分かった」
俺はラーの言葉にうなずく。
ラーは小さく笑って、任された仕事があるから厨房へ行くと言って姿を消した。
アイツ、攻略対象なんじゃないかと思って、ソルに連絡した。
俺が頑張って開発した電話モドキです。
まあ、音を伝えるだけなので、同じ波長の魔石を作り出して、それを補助する術式を組んで、ブレスレットにしただけなんだけれど。
ピアスはちょっとな……痛いの嫌。
♢
「――っつーワケだ」
『あー。その人のフルネーム分からないかな?』
「分からん。ラーかラックって呼べって言ってくるからたぶんラックなんとかなんだろうけど」
『うーん。それだと、ラックゼートって名前ね。でも、狂神だったはずなんだけど』
それだ、と思う。
もしかすると、彼も転生者だったから本来あるべき、というか、ゲームで描かれたのと違うルートを辿っているのではなかろうか。
「で、そいつはどんなポジション?」
『イミドラのネットで配信された方のゲームね、思いっきり課金ゲームの』
「ああ、あっちか」
『アレの第2部で隣の大陸に渡る手筈が整って、第3部で向こうの大陸に行く。その時に会う、狂乱の神様』
「もはやこっち来とるがな」
ツッコミを入れつつソルの話を聞いて、大体分かったことがある。
「恋愛ゲームに絡みはない?」
『うん、ない』
「本当に? アイツやたら見目整ってたんですが?」
『判断基準ソコ!?』
ここ以外に何がある。
『うーん。その人のパートナー……ルークウェルトの方だと、主人公が男の時だけ絡みがあるって話だけど』
「あ、そういうキャラですか」
『うん、たぶんそういうことだと思うよ』
解決したわ。
ついでなので後からラーに恋人はいるかと問いかけたら、こちらを向いて、くすっと笑った。
「ああ、いるとも。調べたのだな」
「アンタがあんま見目がいいから、学校の教員として攻略対象に居るんじゃないかって不安になっただけだよ」
「……はて、私の見目はいいのか?」
「それ本気で言ってる?」
本人曰く、真っ白すぎて皆から気持ち悪がられたらしい。
「男が白いのは非常に厄介なものだよ。君も、せっかく変化が使えるんだ、好みの色に肌の色を変えておきなさい」
「わかった」
本人が苦労してたということなので事実だろう、女なら雪のように白くて美しいお子様ですね、で済むけど、男だと虚弱に見られがちだ。
「……ところで、その恋人って野郎?」
「……何故そんなキラキラした目で見るのかね」
「いや、なんとなく」
「……はぁ。ああ、男だとも。調べたのだろう? ルーの話など、少し探せばゴロゴロ出てくるぞ」
うん、知ってる。
調べた。
どこのケルト神話ですか状態の男の武勇伝がまことしやかに書かれていました。信じられません。
てか、ケルト神話より酷いわ!
「……あれ、どこまで本当?」
「どこまで、とは?」
「ダンジョンを60階ぐらいまでノンストップ踏破とか」
「160階の間違いだな」
「ドラゴンを弓でぶち抜いたとか」
「それは私だ」
「竜帝に乗ったとか」
「私も同乗させてもらったぞ」
「そもそも半神だとか」
「ルーはケルト神話のルグの子だが?」
「ところで彼に子供はいたのか」
「息子が1人娘が2人、実質私の子供もいたので9人で暮らしたよ」
「日本の倫理観はどこにやった」
「幼い頃親からまでも村八分にされた時に捨てた」
ジーザス。
「……俺でよければお友達になりませんか……」
「何故君がそんな死にそうな顔をしているのかね!?」
お前の人生一瞬想像しただけだ。
とにかく、おそらくこれらすべて事実であると思われる。
「ダンジョンってあるんだな」
「向こうにしかない。こちらのダンジョンは全て死徒が狩り尽くしてしまったようでな」
「生き物なんだ……」
「ダンジョンコアという魔物だ」
俺が苦笑を零すと、ああそうだ、とラーは言った。
「君に与える名が決まったよ」
「えっ?」
「死徒は気に入った相手に名と紋章を贈る。今回は私が打ち解けやすかろうという判断でな」
ラーが俺にくれたのはスクロール。
スクロールに描いてあるのは、鈴蘭だろうか。
「……鈴蘭?」
「ああ。そして君の名はスズだ」
俺は目を見開いた。
スズ。
それだけではなんと呼ばれているのかわからない。なのに俺には分かった。
涼。
それが、俺の名前。
「は、はは」
「どうした」
「いいや! なんでもねえわ!」
ずっとカタカナにしてた理由がこれでした。
ちなみに3人の名前は、
高村涼
高村明
松橋久留実
です。