結界
中等部に死徒が入り込んだ事件の後、王城に呼ばれていた俺たちを除いて、中等部は他の皆でかなり大騒ぎをしていたらしい。
何で死徒が入り込んだんだ、とか、結界はどうなってんだとか、防衛上の問題点についていろいろと会議に上がって、生徒会もてんやわんやだったらしい。
何で生徒会がそこで出てくんのかというと、生徒会は実力主義で選ばれているのだ。俺たちの知っているようなものではなくて、生徒会というのは名ばかりの、先生たちのお手伝いさんである。
生徒会に入るイコール実力がある、なので入りたがるやつは多いらしいが、それではスーたちと過ごす時間が無くなってしまうので俺はパスである。
もうすぐ更新される。
でも、俺の連れて行ける魔物がスレイプニルにヨルムンガンドにフェンリルと大物揃いであるため、彼らも使って調査を手伝ってほしいと言われてしまった。
まあ、いいかと、その程度の感覚で軽く引き受けたのだが。
♢
「……」
なんてこった、の一言である。
6人班で行動させられているのだが、俺の周りにいらっしゃる貴族令息たち3人ははっきり言ってお荷物である。
よっぽど回復しかできないエリスやルナの方が荷物の価値がある。
とにかく、喋るし手伝わないしウザいったらありゃしない。
オドオドした青い髪の先輩だけが救いである。いや、この人も見ててイライラするんだが、集中する環境を作ってくれるだけマシってものである。
というか、この先輩さらっと範囲魔術使ってんだよな。魔力の練りはまだ甘い部類だと思うが、罠を張るのが得意そうだ。
レイド・サレスという。サレス侯爵家の次男だったはず。
目の下に隈があるのを見る限り、研究職っぽい人である。
ちなみに俺たちが調べているのは、魔術学園中等部の結界の一角である。
任された場所を回って調べているのだが、なかなかこれが骨の折れる作業で。
学園に張ってある結界魔術は全て闇属性。
光属性って、闇を払うとか魔物に強いとか言われているが、実際は真逆である。
学園は重要な場所である。いざって時にはシェルターの役割も果たす。
そんなところに光属性の貧弱な結界張ったって意味がないのだ。
光属性に存在する結界というのは、単純に光の線を走らせただけのものである。簡単に言うと、触ったらちょっと温かいかな、程度のものであると言っておこう。
俺がこれを知ってるのは、まあ、アレである。
――去年の夏休みのことなんて思い出したくない。
ともかく、光属性というのは回復と攻撃、両極端な属性なのだ。
闇属性は幅広く攻撃、防御、精神汚染、デバフと揃っているので使い勝手がいいのだ。
まあ、宗教上の問題でよろしく扱われないが、イミットの本来持っている属性は闇なので、ガルガーテだった3国は基本闇属性の有用性を知っている。
リーヴァは闇を扱えず悔しい思いをしたのだと語ってくれた。その為、公表こそされていなかったが彼は元々王位継承権が低かったそうである。
今のアル殿下たちに通じるところを見つけたな。
――そして結局、闇属性の結界が張られていることで一つ問題がある。
死徒は闇属性なのである。
恐らく、その為にあの死徒は通って来たと考えられる。
しかし、結界には腐敗効果が付与してあったとのこと。
つまり、確実にあの、皮膚の無かった死徒は、結界を通り抜けてきているのだ。
そういや、目とか口の中身も無かったな、あの死徒。
ネクロマンサーの線が濃いってことで、カルとアル殿下が対応に追われている。エリオは完全に攻撃タイプ扱いを受けていたので俺が引っこ抜いて借りてきた。
「ロキ、あいつら吹っ飛ばしていいか」
「やめとけ」
それと、陛下からお手紙で下された俺への命令があった。
王族への敬語の使用禁止。
それは同時に、俺の立場をドラクルと同等に扱うというもの。
ドラクルの現当主は死徒列強の一角を担っているが、それと同じ扱いをするというのである。
王族への敬語使用禁止とはまた変な命令だと思っていたが、どうやらエリオの願いだったらしい。カルのことを俺はカルとしか呼ばない。それに憧れたのだろうという理由が書かれていた。
それと、中等部卒業と同時に俺を“暗黒騎士”に任命するとのことである。
リガルディアにおいて暗黒騎士に任じられた者は基本的にある人物以外にいない。
それは、初代ドラクル公。
ドラクル家の初代当主であるヴラド・ドラクル公以外、今までに暗黒騎士がいたことはない。
暗黒騎士というのは、いざって時は王族の首を撥ねてでも、この国を守ってくれと王族に願われた、王族と同等の権利を持ちながら、自分の意思で臣下についている者を示している。
ゲームの暗黒騎士と違うんだなとか思っていたら、身に着ける鎧が、基本黒いそうである。
恐らく、それ、イミットの鱗が黒いことに由来するだろう。
ちなみに服の指定はないが、できれば黒を着用してくれとのことである。
黒い服?
上等だ。金銀の刺繍が映えるので嫌いじゃないんだよ。
そんなことを思って手紙を読んでいたなあと。
ぼんやりと刻まれているコードに目を通し、ふと俺は思い出す。
そういや、去年入寮したときにシェロブが湧いてたな、と。
考えてみりゃあれもおかしな話だが、シェロブも闇属性の魔物である。
どこかに必ず綻びがあるというのは疑いようがないのだが。
コードをじっと眺めていて、異常がないことを確かめる。
キラキラと光っている石、使われているのは水晶だろうか。
ナイトたちも辺りを見ているようだが、何か変わったことがあればすぐ知らせるように言っているので、今のところ異常はないとみていいだろう。
ここが最後だったんだけどな。
立ち上がって、ふと空を見上げた。
授業終わってから始めたので、もう夕方である。
そろそろ皆ももうコードの確認ができなくなっている頃だろう。
キラキラと光る石を見て、気が付いた。
なんでこのコードこんなに光ってんだ?
「……エリオ、いままでのコードって、キラキラしてたよな」
「? ああ」
「……このコード、偽装されてる」
「「!!」」
先輩が顔を上げてコードを食い入るように見つめ始めた。
「この石、新しいです。しかも、光属性で作ってある」
「破れたのはここ、しかも人為的に破られたと見て間違いないですね」
「裏切者がいるってことか?」
「案外操られた死体かもしれんぞ」
俺たちは結論を出し、その場で教員たちを呼ぶために決められていた魔術で合図を送った。
しばらくしてやってきたヘンドラ教授は俺たちの報告を聞き、すぐに俺たちを寮に帰した。
翌日聞いた時にはもうそこは修復されていたようだが、変化魔術で属性の偽装がされていたとのことである。
♢
「で、どうなったんだ結局」
「何かよくわからんけど、死徒の炙り出し中みたいだよ」
「本当に死徒だったのか?」
「そこがよくわかんないらしいぞ」
「は?」
「何でも、【魅了】が掛かってる人が何人かいたらしくてさ――」
ここまで読んでいただきありがとうございます。