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Imitation  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年生 前期編
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召喚された

久しぶりに学校に出ていったら何やら皆が怖い笑顔でこっちを見てきたので逃げ出そうとしたらアウルムに捕まり皆に宴会状態で食堂へ引っ張っていかれてどんちゃん騒ぎをし、アウルムがナナシの話を語って聞かせたと聞いて締め上げて現在に至る。


「で、この馬鹿が皆を巻き込んだ、と。本当にすまない。こいつも工房に閉じ込めておけばよかったか?」

「何よ、ほんとに水臭いわね。そんなことしたってじきにエングライアから聞き出してたかもしれないわよ?」


ソルにそれを言われると何とも言えないので俺は口をつぐんだ。


ちなみに、今日俺が出てきたのは、単純に皆に知らせなくてはならないことが出て来てしまったためである。


それは、工房から偶然ちょっとこちらに戻って来た時に起きたことだったのだが――【不破の誓約】という呪いが掛かったのである。


一体なんなのかはわからないが、リオから教えられた以外に特に何か変化があるわけではない。

ただ、このことを実家に報告したら、今日、学校終わったら王城へ一緒に行くぞと父上から言われてしまったのだ。


どうやら、何やらヤバいものだったらしい。

リオが教えてくるくらいだからロクなモノじゃないとは思っていたが。


そもそも、一体何を“誓約”したのか、皆目見当もつかない。


魔物学の授業に出て放課後ちょっと時間くれと言われて無理だと断り、じゃあ時間あるときに来てくれと言われ分かりましたと返事をして、昼食を食べてすぐに魔物宿舎の様子を見に行った。


近くに墓が3つある。

アルミラージとレッサースパイダー2匹の墓である。

俺があの後すぐに来た時には既にちゃんとした墓の形になっていた。


血まみれで皆の目に入るのが嫌で、俺は逃げた。

精神的にかなりやられてたのもあったけれど、やっぱり、皆に怖がられるのが怖かった。

1週間姿を現さなかったのは体調を整えるため。


実は、体調を崩した。

病気知らずだったから何なんだとかなり混乱したものだが、当然の結果だった。

今思えば、死徒を焼き殺すだけの魔力を消費したのである。魔力切れによる体調不良だった。


1週間、リオに頼りっきりになってしまっていた。

理由は、俺がアウルムの出入りを禁じてしまったからだ。俺が禁じようと思って禁じたのではなくて、精神的に、あの場にいた皆に見られたくなくて、そこにアウルムも入っていたらしい。


そのせいで俺は自分で食べ物を調達するのも難しいほどに衰弱している状態で、殻に籠る形になってしまったのだった。

今度からは籠る場所、気を付けます。


この3匹のうち、1匹、レッサースパイダーの片割れ。

実は、進化間近まで来ていたのを、死徒にやられてしまったのだという。最初は嫌っていたのに、令嬢の方は泣いてレッサースパイダーを焼いた灰に縋っていたらしい。


この国には、炎というのは、浄化の意味がある。死徒に殺された者は焼くのが習わしで、火葬が一般化しているというわけではない。

炎は昇るもの。

どうか、縛られることなく、自由になれるようにと。


宗教には後付けで入ったもののようだが、元は民衆が持っていた文化だったとか。おそらく、最初の発端自体は、ありきたりな、疫病の流行を食い止めるためとかその辺だろうが、今は、これでよかったと思う。





父上が乗った馬車が俺を迎えに来たのでそれに乗って王城へ向かった。

カルとエリオ殿下、トールとロゼ、ナタリアも一緒に召されたので、ようはそういう重要案件なのだとなんとなく悟った。


王城へ着くなり謁見の間へ通され、挨拶もそこそこに陛下が口を開いた。


「――お前たちを此処に召した理由は、分かっているか?」


俺は何も言えない。十中八九俺のせいである。

なぜなら、俺が事情を父上にリンクストーンで伝えた際、明らかに父上は動揺したからだ。

俺たちが知らない、しかし公爵家までは知っていなくてはならない事情が、俺に絡んだ、と見るのが正しいだろう。


嫌な事ばかり重なるもんだなと思っていると、視線を彷徨わせたロゼとナタリアが困惑気味に俺を見てきた。

俺にもよくは分かってないので、肩をすくめる。


「詳しい事情は伝えておりません。連れてきただけです」

「……お前にしては、ずいぶんと焦った対応だな」

「……一刻も早く御耳に入れておかねばと思ったためです。御手間を取らせることを、お許しください」

「よい」


父上と国王の雰囲気は厳しいままだ。

顔を上げろと言われ、俺たちは顔を上げた。


「ロキ・フォンブラウ。其方が報告してくれた“不破の誓約”についてだが」


俺は身を固くした。

何だろう、嫌な感じがする。


「それは、君が死徒になる一歩を踏み出したことを示すものだ」

「――」


俺は、国王を見上げた。

何を言ってるんだこの人は、と。


俺は、死徒になろうとしたことなどない。


「発言をよろしいでしょうか、国王陛下」

「許す」


カルが手を上げ、許される。


「“不破の誓約”とは、なんですか」

「……不破の誓約というのは、けして破られることのない誓約のことだ。上位精霊級の者が手を貸さねば結ばれることのないものだ。だが本来は、掛けられた者を死徒にしようとする力が働かない限り、表出することはない」

「つまり、ロキを死徒にしたい者がいるということですね」

「ああ」


俺は基本死徒列強と間接であれ直接であれ、全員とコンタクトを取っている。

誰の名が出てもおかしくないが、何故か。

そこでは、ない気がした。

死徒よりも上位の存在がしゃしゃり出てくる感覚があった。


上位の精霊といえば、アウルムたちだ。

彼らならば何か知っているだろうか。


「発動条件は、術を掛けられる本人の知らないところで、何かしらその人物についての内容で誓約を交わすこと。その承認を上位精霊が行うことで発動する」

「「「「え――」」」」


カルとロゼ、ナタリアが目を丸くして声を上げた。

そして、顔を見合わせた。


「……不破というのですから、解けないのですよね……?」

「ああ、二度と解くことはできん。不破が発動したということは、光属性が使われている」


カルは俺を見た。混乱がありありと顔に出ている。

しかしそれはロゼやナタリアも同じである。


「何を知っている、3人とも? すべて話しなさい」


国王陛下の言葉で、カルたちが語ったのは、俺に語ってくれたのとほとんど内容は同じだった。


そう、つまり。


俺の知らないところで(・・・・・・・・・・)、アウルムの語りに乗って勢いでそのまま皆の分の誓約書をカルが作って(・・・・・・・・・・)、署名したものをアウルムに預けた(・・・・・・・・)。


これが、俺に【不破の誓約】が発動したトリガーだったらしい。


本当に解けないのかとかいろいろ考えていると、父上が口を開いた。


「おそらくですが、アウルム。彼の仕込みでしょう。今のを聞いて確信すら持った」


確かに、そうなのだ。

俺も、確信している。あいつは、そういうことをすると。


「不破である以上お前はもう死なない。だが、死にそうになることはある。死にそうになったら、別の誰かがその身代わりになる。それが、不破の誓約の持つ不破の意味だ」


父上の言葉に、俺はしばし考える。

アウルムがやったとして、解くことを考えるよりも、なぜこんなもんをアウルムがやらせようとしたのかという点を考える。


俺が戦場に行かないと言っただけでは足りなかったのだろうかと思うが、ふと、ナナシの記憶を記した本のようなものを思い出した。


「――」


ああ、そうか。

アウルムは。


アウルムはただ、守りたいもののために戦って、その結果何も守れなかった俺を嘆いたのだ。

俺を守りたいと言ったのだ。


アウルムは言った、俺を何度も殺したと。

ナナシについて以外も考えればわかる。

アウルムは、俺を、生かしたいのだ。


ん?

待てよ?


リオがこの呪いについて教えてきたのだ。

と、言うことは。


「発言を、よろしいでしょうか」

「許す」


俺は手を上げ、許可をいただいてから口を開いた。


「確認したいことがございます」

「なんだ」

「近頃のネイヴァス傭兵団の動きです」


デルちゃんたちのことを尋ねておかねばならない。


「……ネイヴァス傭兵団。彼らは現在、死徒列強と組んで何かの捜索にあたっている」


何か、ってのは、アウルムたちの言葉の端々に出てくる“ヤロウ”のことだろう。

でも、俺はこいつとは戦わない。

デルちゃんたちはシオンを連れて行くと手紙をくれたが、ではその先は。

分からないことだらけだし、情報はほとんどないし、こればっかりはアウルムも教えてくれない。


「……分からないことが多すぎて、何も分かりませんね」


俺は自嘲気味に笑うほかなかった。

だって本当に何も分からない。

沢山調べたけれど手掛かりなんてなかった。


その時、リオが口を開いた。


「まあ、分かるわけないんだよねえ。だって、皆が隠しているんだもの」

「何者だ!?」


リオに視線を向ける。警戒を露わにした国王陛下、姿を見てリオであることに気付いて警戒を解いた父上。


「リオ、と名乗ってるけれど、真名の方がいいかな?」


リオは笑って言う。


「俺の名前はドルバロム。ロキのお目付け役だと思ってもらえると助かるよ」


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