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Imitation  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年生 前期編
115/154

死徒に魅入られた

セト視点

授業外の時間でまさかの状況に遭遇してしまった俺たちは、ただひたすら震えていた。

俺たちは、ロキ・フォンブラウという存在への認識を改めねばならないと強く感じた。


後輩たちもいた中で、俺たちはロキの本性の一部を垣間見た。いや、アレがあいつの本性だなんて思いたくない。

だってあいつはひどく優しい奴なのだ。


それが、怒りを露わにした。魔物たちのために。

恐らくそれは、アイツの魔物たちが関わっていたこともあるのだろう。

けれど、それだけですべてが済んでいたらロキはあんなに暴れなかったと思うのだ。


以前、あんな感じのロキを見たことがある。

それは、グリフォンの巣を襲った大人たちを捕らえたときだ。

娘がいるかどうかなんて知らないはずなのに、なぜかそのことで男を脅していた。


あの時と同じ雰囲気を纏っていた。

あのときよりももっと明確な敵意があったが。

たぶん、あの時は単純な同情で動いていて、今回はさらに明確な怒りで動いたのだろう。


自分の感情をきっちりとコントロールしている奴に限って、爆発するときはヤバい爆発を起こすもので。

恐らく、ロキの今回のは爆発なのだろう。


ロキのあの冷たい目を思い出すと、どうにも身体の震えが収まらない。


カル殿下から詳細を聞かれてもうまく答えられなかった。

だってなんて説明すればいいのかわからなかったんだ。

カル殿下になんと言えばいい?


ロキから、死徒列強ばりの威圧感を感じてしまったなんて。


そうだ。

あれは、昔会ったことのあるイミットやエングライアに匹敵する魔力量での威圧だったのだ。

俺にとってはいい思い出の無い威圧感である。


「くっそ……」


俺の横で悪態を吐いたのはアウルムだった。

こいつは確実に何か事情を知っていると見ていいが、転生を繰り返しているとの言から、俺たちはあまり彼に頼らぬ方法を探り探りここまで1年間付き合って来たのだ。

ここで頼るのはどうかと思いつつも俺は彼に話を振った。


「なあアウルム、あれ、ほんとにロキだよな?」

「……ああ、アレはロキで間違いねえよ。でも、よりにもよってナナシのルートに近い。分かっちゃいたがよ」


アウルムはもう隠したって無駄だ、と言わんばかりに開け広げて話をしだす。


「なあ皆、巻き込まれちゃくれねえか? ロキが今一番歩みそうな未来を語って聞かせてしまいたいんだが」


本人にさえ伝えなきゃ平気だと言い出したアウルムに、カルが飛びつかないわけがなかった。


「教えてくれ。俺は聞くぞ」


そう言われて俺たちが引けるはずもない。トールにだけは伝えるなと念を押されて、アウルムに伝えられた内容は、こうである。





彼らの前世では、ロキという名の令嬢がいた。

彼女は、転生者だった。自分が乙女ゲームのライバル令嬢で、第2王子カルの婚約者であり、ヒロインによってその座を追い落とされるのであると知っていた。

そこで彼女は、追い落とされる云々よりも、とにかくその先――戦争を、止めるためにと、剣術を磨き始めた。


そんな彼女の前には死徒たちが現れ、次々と彼女と仲良くなっていった。

彼女は国にとってもとても重要な立場を築くとともに、戦争回避のために必死に働いた。

婚約者同士の仲もそんなに悪くはなく、彼女を囲む状況はいたって平和だった。


しかしそんな彼女を裏切る展開が訪れる。

ヒロインの登場である。

沢山いたヒロインの中でも、特に、最も高貴な身分の少女。

その少女がカル殿下の心をロキから奪った。


ロキからすれば特になんて思っていたわけではないが、自分が貶され始めたことに感付き、その否定をしなくてはならなくなった。

無論彼女は頑張ったが、結果的には婚約破棄され、国外追放の憂き目にあったという。


その先、ロキとして生きることを諦め、彼女は“彼”に戻った。

しかし、名前はない。

前世の名を使いたくもない。

ならば、と。


名付けたのだ、自分を。

“ナナシ”と。


そしてナナシは傭兵となった。傭兵となって国内に戻って来た。

そして、ロキは死んだと思われた。

死徒と人間は、開戦間近に迫っていた。


戦争が始まった。

件の原因となった少女は最初に前線に送られて戦死した。

途中で判明した黒幕との戦いにそのままなだれ込み、カル殿下も、騎士団長の令息も、公爵家の令嬢たちも、皆亡くなった。


国が滅び、守りたかったものを全て奪われた彼は、ただもはや死を待つのみとなっていた。しかしそれでも、彼の死をよく思わぬ者はいるもので、死徒列強が一角、ロード・カルマが彼を、皆の死体を継ぎはいで永らえさせた。


また次が来る、と。

そこでこの負の連鎖を断ち切れ、と。

そしてナナシとなった彼は、魔道具を作った。

全てを、次のロキに伝えるために。


そして、次のロキはその情報を受け取った。

ここに彼の思いは継がれた。


彼のいた世界はもう、崩壊して、消滅した。


これにて、おしまい。





「めっちゃ簡潔に述べたけど最後の魔道具ってこないだロキがぶっ倒れたやつだな?」

「おう」

「……」


俺の問いに普通に肯定を返してきたアウルムに殺意を覚えた。

そんなこと隠してやがったのかと。

いや、カル殿下の方が怒り心頭だろう。


「アウルム。そのことを、理解していたのは、ロキとお前だけなのか」

「あー、死徒連中はほとんど知ってるぞ。あと、おそらくだが、ドラクルの息子も知ってる。ナタリアと、シオンも察してるだろ」


俺たちだけが、つまはじきにされていた気さえしてくる。

握った拳にさらに力がこもっていく。


「そんなことがあっていたのに、お前たちはあんなに変わらず笑っていられるのか……!」

「婚約破棄がえらく後引いてんな。アイツ見てりゃわかんだろ? まったく! 平気なんかじゃねえ! 俺はロキのことを、変わらないって言ってるがな、ほんとはめちゃくちゃ変わってんだよ!! アイツはループ転生してるんだろうよ! その証拠なら提示してやる! アイツは笑わない! 泣かない! 表情が無くなってってんだよ!! 記憶整理して時系列に並べたらよくわかるんだ! 今のお前には関係ないけどな、俺が何度殺そうと思ったか! 毎度毎度あのクソビッチ王女に攻略されやがって! だから学生時代から男の姿になることをアイツが決めたと知った時、俺がどれだけ安心したかなんて、分からねえだろう!? お前がそういう優しい人間だってことをロキは知ってんだよ! だからあいつはリガルディアを裏切らねえ!! 死徒側に就けって言われても首を縦に振らなかった!」


前世を知らない俺たちにそれを言うのが酷だと分かっていても、やめられなかったのだろう。アウルムは、泣き出していた。


「今までお前らに頼らなかった、話してこなかった、だったらもういいだろう、巻き込まれてくれよ、助けてくれよ、今回やっとリョウが、違う形を取り始めたんだよ。戦場に行かないって言ってくれたんだよ。学校で大人しくしとくって言ったんだよ。戦うの全部ネイヴァス傭兵団に任せるって言ったんだよ! ここでいいやじゃねえ、まだ変えてしまおう、お前らを撒き込めばきっともっと変わる。あのくそムカつくヤロウをこの世界から追い出せる」


アウルムは、最終決戦間近までしか行かないのだという。だから、最後にどうなるのか、ぼんやりとしか分からない。

だから、打てる布石はすべて打っておきたい。

それが、こいつなりの、ロキ――リョウへの、忠誠なのだろう。


「……リョウがそんなことになってたなんて、私だって知らなかったわ。水臭いわね」

「でも、ソルも死んでしまうのよ。そりゃあ、伝えたくなくなると思わない?」

「でも、私が突っ込んでいくの分かってたから、もうお前らの死に顔なんて見たくないって私たちに言ったんでしょうに」


ソル嬢と、クルミ嬢の会話を聞いて、俺は思い出す。

そうだ、俺たちのことを酷く、切ない光を向けて見ていることがあるのを知っている。


今回の魔物のことは、予定にはなかったことだという。

ズレの結果こんなことになったのだとしたら、悲しいことだけれども。

でも、いい方向へ変えるために努力した結果だとすれば。


向き合わねばならない。


「……単体の力で世界は変わらない」


カルが、口を開いた。


「……アウルム。話してくれて、ありがとう」


そして、俺たちの方を見る。


「皆、聞いたな? 聞いたからにはもう逃がさんぞ」


そして、誓約書作成の魔術を使用して1人1人の署名を集めていった。そしてそれを、アウルムに渡した。

ここまで一気に団結してやりきったこのクラスはおかしいと思う。


「はは、こりゃ、ロキが知ったら仰天するぞ」


アウルムは半分泣きそうな顔で笑った。

きっとこいつも、怖かったのだろう。




―――【不破の制約】が発動しました


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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