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Imitation  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年生 前期編
114/154

魔物とはぐれ

流血表現等注意

「んだよこれ……」

「……」


俺とアウルムは、魔物宿舎の前で立ち尽くしていた。

理由は、そう。

魔物宿舎が、血の海に変わっていたからだ。


酷い臭いだ。

腐敗が使われたのだろうというのは容易に予想できた。

走ってやって来たセトたちが俺たちに声を掛ける。


「お前ら転移したのかよ」

「そっちが早いだろ」


アウルムはそう答えたが、すぐに俺に視線を向けてきた。


「コンゴウの名で飛べたってことは、コンゴウはまだ生きてる」

「僕が行きます」


すっと姿を現したルビーは苦虫をかみつぶしたような表情をしていた。大地の精霊は地に触れていることなら大まかに知ることができる。おそらく大体のことは分かっているのだろう。


「皆さんは防御の準備を。誰か先生へ連絡を」

「セス! お前行け、お前が一番早い」

「はい!」


セスが一番早いということで任せ、俺たちは防御に力を回す。

ルビーは人間の姿から、ルビーのみで構成された骨格だけの人形のような姿になり、魔物宿舎へ歩いて行った。


十中八九死徒である。

来やがったな、と思う。


「アウルム」

「ん」

「これ、ナナシのときにあったやつか?」

「ああ、でも今回は対象が変わったな。本当なら高等部に行く」


あの先輩が死徒化するのは、無くなったということだ。

ならば。


「皆、ゆっくり後退するしかない。向かわせておいて悪いな」

「別にいい。死徒が相手じゃどうしようもねえ」


セトはそう言って皆をゆっくり後退させる。

恐らく今回のもはぐれだろうが、なんでこう、よく湧くんだよ。


「ギャアアアアッ!!」

『―――――!!』


何かの断末魔とルビーの咆哮が聞こえ、魔物宿舎が爆発した。


「【風の(ウォール)】」


飛んでくるレンガを跳ね退けつつルビーを確認する。

何かをその枝のような腕に突き刺していた。


「う……」

「うぇ……」


グロッキーになった子が数名。

俺はルビーの足元を見る。


血まみれのアルミラージ、ヘルハウンド、ケットシーが転がっている。

ゴルフェインのワイバーンは、首と胴が切れていた。


所詮は小さな、自然界では生き残れない卵から孵された個体たちである。

死徒には、敵わなかったのだ。


あんなに懐いて来てくれていた魔物たちだった。

ふつふつと怒りが湧いてくる。

死徒は魔物を食わない。

なのに殺したのかと。


びくりとセトたちが肩を揺らした。


はぐれ死徒の生態なぞ知らん。

ただ、俺たちにとってはかわいい魔物たちを殺したっつぅ事実があるだけだ。


『ロキさん、危険です』


ルビーの制止の声。

俺はゆっくりと足を踏み出していた。

近付いて行くと分かった。


今、死んでいるの魔物は、3匹だけ。

恐らく、一番最初にやられたのであろう、すっかり傷口の乾いたアルミラージ。

そして、同じくもう動かない、青い血をぶちまけている蜘蛛が2匹。


レッサースパイダーたちである。

死徒を見やればその身体は赤かった。

いや、皮の無い人間だろうか。

目はない、ぽっかりと空いた空洞と歯の無い口をこちらに向けていた。

ガリガリに瘦せたその姿を見やる。


背中の一部が溶けているのを見て、レッサースパイダーたちが消化液を攻撃に使ったことを察した。

頑張ったんだなあ。


ルビーが吹き飛ばされて俺の方へ投げつけられてきた。それを俺は受け止め、そのまま後ろへ流す。


『ロキさん!』


ルビーが非難するように声を上げた。

俺はそのまま、死徒と向かい合う。死徒の胸に穴が開いている。

向こうさんとしてはぜひとも目の前にいる魔力溢れる存在を食ってみたいことだろうが。


食われてやる気は全くない。

ついでに一つ言っていいなら俺は非常に貴様に怒りを抱いているぞ。


そんな思いを込めて睨めば死徒が僅かながらに怯んだ。

表情なんてないくせに怯んだのが分かるのも変な話だが、とにかくこいつは焼き焦がしてやろう。そうしよう。人間の肉なんぞうまくないという話ではあるが、死徒の肉もうまくはないだろう。


半分くらい腐ってそうだしな、こいつは特に。

何のためにここに入ってきやがった。

そう考えて、そういえば死徒は人間の感情なんかで生み出される少し質の変わった魔力を食うのがいると聞いたことがある。


なら、こいつに感情を向けてはいけない気がする。

ただ無表情に、無感情にこいつを殴ろう。

こいつらが主を守りたいと、そう思って必死に身体張ったのは、間違いなんかじゃないし、それを伝えることができればと思う。


「ロキ……?」

「……悪いな、皆を頼めるか?」


俺が少し後ろを見て問えば、アウルムが少し表情を歪めて、小さくうなずいた。

俺は何となく理解する。

恐らく、ナナシもこういうことをしたのだろう。


でもこれは、だからって抑えられる感情ではない。


俺は死徒へ視線を戻した。

こいつは、そうだ。

死徒でしかないな。


死体からできた死徒でしかないな。

うん、むしろとっととバラしてしまおう、そっちの方がこんな状態にされた仏のためだ。


死徒が伸ばしてくる手の指先から黒い液体が零れる。それを【反射(リフレクト)】でお返しして死徒の身体が溶け出す。

俺はそのまま死徒のあばら辺りを蹴り飛ばし、地べたに倒れた死徒の胸骨辺りを踏みつける。そのまま体重を掛ければ死徒が暴れる。

叩こうとしてきたので【切断(カッター)】で右腕を切り飛ばし、左腕を踏みつけて動けないようにしてやる。


目を細めれば、うっすらとこいつを死徒にしたであろう魔術の魔力残滓を見つけた。

それを記憶しつつ炎で身体の端から焼いていく。

のたうち回り始めた死徒を放置して魔物たちの死体を蒼い炎で一気に焼いていく。ありがとうの気持ちを込めて、お疲れ様と呟いて。


死徒の身体が炭化してしまった頃、俺は人の気配にやっと気が付いた。

俺の方を見ているリンダ教官やスパルタクス先生、アラン教官、ハインドフット教授やソニア教授。

特に、ハインドフット教授とソニア教授は目を見開いて俺を見ていた。


俺は自分の姿を確認する。

赤と青の血でべったりだった。

皆を驚かせてしまっただろうな。

そんなことを思いつつ、しばらく学校を休むことを教官らに伝え、俺は一旦工房へ飛んだ。


無論、1週間ほどは学校を休んでしまった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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