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Imitation  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年生 前期編
112/154

金人との契約

アウルム視点


リョウが転生していた。

それを知ってすぐに俺は会いたいと願った。

女将はすぐに俺をアイツに会わせてくれた。


俺にとってリョウは、守りたい人だった。

それは、前世の記憶を思い出してしまってからは特に強く感じるようになったことだった。


俺は、転生するたびに守りたいものが増えていく厄介者であるらしい。

皆はそんな感覚は分からないと言った。

俺だって精霊っぽくねえってのはよく知ってるよ。


アイツと過ごした記憶は随分と鮮やかなもので、考えてみれば、普通の男子高生やってたなって感じである。

そんなやつが転生したらいきなり公爵家の令嬢になってたらそりゃあ驚くだろうよ。


俺は何度だってアイツに会いに行った。

必ず会うことになったから余計に嬉しくて、これで近くで守っていけると、そう思った。

けれど無論現実はそんなに甘くねえ。


高校時代はそんなに直接の交流がなかった俺たち。

けれど、アイツは俺が事情を話せば理解を示して俺を受け入れてくれて。

そして何より――俺なんかいなくても、アイツは強かった。


リョウを守るなんておこがましいほどに、リョウは強かった!

チート上等のハイスペック令嬢として生きていった。

俺はその傍らで従者としての仕事をしつつ俺は佇んでいるだけでよかった。戦闘はほとんどゼロがやってくれた。リョウ自身――つまり、ロキという令嬢は、ゼロよりも強かった!


もう俺にはどうしようもなくて、彼が彼女として生きていくのを見守ることしかできなくて、しかし俺には俺の立場というものがあるわけで、どこかの世界の俺はアイツを殺して泣いた。


親友と呼べる仲になってなお殺し合うことがあった。

ズタボロになってもフォンブラウの名を穢すことは許されないと言って毅然と立っている、転生した記憶の無い令嬢の時があった。


どれもこれもがたった1度きりの転生した彼との記憶。

俺だからこそ覚えていることができるのであって、アイツにその記憶はきっとないのだと、そう思っていた。


実際、アイツはアイツなのだ。

アイツは決して自分を曲げたりしないし、いつもアイツは言葉こそ違えど同じニュアンスのことを言ってくるのである。


変わらないその姿に俺はいつだって救われていた。

俺の相棒と呼ぶべき存在である“銀”が近くにいない時、俺にとっての背中を預けられる相方は彼だけだった。


俺は今まで、自分の立場を隠すために契約の話なんぞは一切してこなかった。

その路線を変えたのは、女将たちが居るからである。

アイツとは今まで契約なんてしたことなかったし、他の人間とも契約なんてしたことない。


けれど、それでは守れないのだ。

前世の友人や姉を喪い、今世の親友や仕えるべき主を喪い、何もかも守れなくてただ泣き叫ぶ声を響かせていた、名前さえも失くした騎士。


ロキを、あの姿になどしたくない。


あんな、命を取り留めるのもやっとの状況で、皆の身体をつぎはぎして永らえるなど、彼からすれば本末転倒だろうからな。


慟哭騎士と呼ばれた彼を、再現させるわけにはいかない。


ならば、前と、ナナシとは違う道を歩むために何かしなくてはならないだろう。

そう考えて俺にできる一歩、それが、俺との契約だった。


もちろん、ナナシの時だってルビーたちはいなかったが、ズレはどうせなら大きい方がいいと女将は言った。転生者が沢山いるこの状況でこれ以上のズレを起こしてももう何も変わらんだろうと。


だからそれに賭けることにした。


なのに、ロキはなかなか俺の契約を受けてくれなかった。

理由は、縛ってしまうから。

縛ってしまうから、自由にしてやれなくなるから、頼り切ってしまうのが怖いから。

だから、まだ契約はできないと。


優しい奴だなと思う。

前世ではあまり触れなかったこいつのこういうところ。

相手が望んでいると知ってなお、自分のワガママのために受けることができないと苦しむところ。

全部ひっくるめて、好きだな、と思う。


好ましいって意味だぞ。


そして、そんなロキがとうとう、契約しよう、と言い出した。

シオンを切り捨てる決断を下したロキは、どこかいつも憂えた光を湛えた瞳をしていて、楽しい時間を沢山作ってやりたいと思うようになっていた。

けれど契約の話を持ち出したとき、ロキの目にはぎらついた炎が見えた。


「やっと契約してくれる気になったんだな」

「ああ。随分待たせた」


使えるものは全て使っていくスタイルで行く気なのだろう。

なのに温かいから、大事にされる未来など簡単に予想できる。

俺の目の前でそのピアスをつけてくれるところとか、本当に、こちらにとって従属したい、力になりたい、そう思わせるツボってのをよく踏んでいくやつだ。

もちろん、分かっててやってるわけじゃない分タチが悪い。


右耳のピアスを自分でつけたロキ。わざわざこのために嫌がってたピアス穴開けてくれたんだから、ほんと優しい。

イヤリングよりもピアスの方が繋がりができやすい。外されにくいってのもある。


「ん」

「?」


ロキが俺にピアスを渡してきた。ロキは小さく笑った。


「つけてくれ」

「!」


俺はピアスを受け取る。なんでこう、的確にこっちの心をくすぐって来るかね。

俺は息を吐いた。

ピアスはもちろん、片方つけられただけで繋がりを形成したのも分かる。

それだけで随分気分が高揚してくる。

それなのにそれ以上をくるから困る!


「っとによォ……」

「ん?」

「……何でもねェ」


受け取ったピアスをロキの左耳につけてやる。

繋がりが一段と濃くなった気がした。


「う、あ」


それと同時に、急激にロキの魔力が流れ込んできた。

簡単に言うと、激流。

俺が金じゃなかったら流されてるレベル。ヤバい。

意識が持ってかれそうな感じがする。半精霊には辛いぞこれ。


「平気か?」

「おう……」


呼吸が上がってしまったのでロキが慌てた。

問題はない。それを伝えると、それでも心配そうなロキと目が合う。


「すげえ量の魔力だな。俺らの弱い奴らには匹敵するぞ」

「そりゃどうも。ほら、休め」


俺の方が契約持ちかけてんのにこんなに俺に負担がかかるとは思ってなかった。

まあ、そこは仕方ないと思う。

ゆっくり休んだら、またいろんな話をしよう。


このためだけに今日の予定をすべて空けてくれちゃった優しい御主人様に、これから精一杯仕えていこうと思う。

きっとアルグはこいつを気に入るだろう。

考え方が結構似てるからな。


アルグに早く会いたい。

アイツとなら、俺はどこまでだって戦えるんだ。

アイツとなら、もう二度と、ロキをナナシにしなくて済むはずだから。


同じ轍は踏みたくない。

疲弊してしまった俺をベッドに寝かせてくれたロキの目が、優しく細められたのを見て、俺は目を閉じた。


願わくば、お前が上位種へ昇らんことを。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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