死徒来たるⅡ
たまって来たのでちょっとずつ投稿していきます。
ロキではないです
セトナ視点
私は死徒である。
死徒には、生まれが死徒の者と、他のものとして生きたのちに死徒になった者とがいるが、私は前者であり、吸血鬼一派の王女だった。
もう私の一派は人間に狩り尽くされてほとんど残っちゃいないが、気紛れで見初めた男は貴族だった。私の子供に後を継がせる気はないと言ったら私の身辺調査を始め、私の正体を知ってなお手元に置いた、不思議な男だった。
結局その家は私が乗っ取ってやった。というか、こうなるの分かってただろうと問いかければ、これでいいのだとその男は言った。
私は腐りきったその国に辟易していた彼にまんまと利用されたのである。
まあ、彼のおかげでまた一派を築き上げ、彼は私の1番目の夫として、列強には敵わないけれどもそれなりに強い死徒として認められている状態。
何でこの話をするかというと、ロキ君から同じような雰囲気を感じるから。
自分のためというより、守りたいものがあるから何でも利用してやろうとする心意気ね。似てるわ。
ただ、いかんせん彼はまだ青い。前世の話を聞いたときは18歳と言っていたからそこそこの知識はあるようだったけれど、本人曰く、“まだ自分はガキだ”。その言葉には遠慮とか謙遜とかは一切なくて、本当に自分のことをガキだと思っている眼だった。
聡明だと思うが、という旨の言葉を掛ければ、俺たちの時代では18までは基本的にガキなんだ、と返ってきた。甘ったれていられない、頑張らなくてはと言って義務感3割責任感2割趣味5割で毎日走り回っていた。
恐らく、彼の言うとおり、私たちの生きているこの世界はきっと彼の年齢よりも低い年齢の者がもっと高い精神年齢なのだろう。
それを彼は理解したうえで行動している。
私は知っている、そういうものが他に居たことを知っている。
もし、彼にこの子を会わせたらどうなるだろうかといろいろと考えて口元が緩んだ。
それにこの子。
ロキ君は、私が死徒に転生者であることをリークしていると伝えたけれど、それが何だと言わんばかりの反応。
今までクルミちゃんとお茶会で話していた時の会話だって、聞こえていた。そしてロキ君は私が聞いていたことをわかっていて午後からのお茶会に誘ってきた。
死徒に転生者だとバレたということは、それだけ死徒から狙われる可能性が高いということなのに、それを警戒する素振りがない。
正しくは、警戒しても無駄って感じよね。
実際私にも気付かなかったんだし。
こうしていろいろと思い出してみると分かる。
ロキ君は、ロキ君が思っているほどガキじゃない。
♢
「っつーワケで、セトナ・ノクターン」
「うん、知ってた」
「クルミ、もっと早く言ってくれよ!」
クルミちゃん知ってたのかぁ。
「小説に載ってたからね。でも、私にも認識阻害掛かってたんだと思う、全然思い出さなかったもん」
「マジか……」
クッキーを摘まみ、紅茶を飲みながら――ではなく、緑茶だ。そして饅頭だ。
理由は簡単、大陸の向こうの彼、茶葉とお饅頭を用意しろとこの私に向かって言い放った。
別にいいけど、と言って用意したらこれがもう。
3人とも令嬢らしさなんぞそっちのけで、懐かしい、と言って食べてくれた。
特にクルミちゃん、名前の響きが似ていたから、同じ国の出身じゃないかと思っていたんだけれど、当たりだったらしい。
「緑茶とお饅頭とは……わかってますなあ」
「ふふ、よかった。彼も喜ぶわ」
「思ってたんですが、その彼って?」
私が茶会に現れた瞬間の2人の驚愕の表情。2人によれば、私のビジュアルを知っていたそうで、なんでここに居るんじゃというのがソルちゃん、あああなただったんですねという反応がクルミちゃんだった。
「彼は、手違いで死徒になったようなものね。彼の主人が神人にならなきゃ、彼は死徒なんて選ばなかっただろうに。アイツ、ほんと何で神にならなかったのかしら」
話のスケール大きくなったぽよ……とソルちゃんがしょんぼりし始めたので、掻い摘んで話をした。
「彼、本名教えてくれなかったんだけれどね、ソルちゃんとロキ君の前身なのよ」
「神の名前を付けることが許されている、ってやつですか」
「ええ。神人になったやつはルー、今こっちに来てる子はラー」
2人はいろんなところを旅して、挙句の果てに竜帝を神竜帝にしてしまった、この世界の英雄だ。
死徒は英雄に立ちはだかるものと相場が決まっていて、倒されなきゃならんのかねと皆で話し合ったのだけれど、ロードがその必要はないと言い出した。
ロードは神代の人間だった。
ロードと繋がりのある神が3柱ほどいる。彼らはあの子たちと知り合いだった。
だから、私たちは争わない方で話を纏めきった。
だって勝ち目ないもん。
私たちですら手に余る竜帝を、幼体だったとはいえてなづけた。
しかもパーティメンバーに死徒混じってたし!
さらっと人刃混じってた!!
「あいつら、自分たちのパーティがどれだけの力を持ってるかこれっぽっちも分かってなかったわ」
「それは……災難だったな」
「いいのよ、いいのよ、転生者2人に転移者1人、その内訳が神子と竜帝とすごい魔力を持った転移者だっただけだもん!」
3人は苦笑した。
「あ、そういやその神子さんの本、読んだかもしれない」
「あ、私も読んだと思うよ。日本語の走り書きが裏にあったからまさかって思ってね」
「同じとこ見てたわ」
3人はどうやらニホンというところから来たらしい。
車に轢かれたって言ってたけど、鉄の車ってどんな車?
つか、めっちゃ痛そう。
彼らの前世の話を絡めながら私はひたすら彼らに渡せる情報を渡していった。
理由はいろいろあるけれど、一番はやっぱり、3人とのお喋りが楽しいからだと思う。
「――じゃあ、ロキ君たちは今おとめげえむの中に居る感じなのね?」
「ああ。しかも、俺ほとんどやってない方だから、攻略対象の顔分からねーんだ」
近付かないっていう選択肢はない、と彼は苦笑した。
けれど、こういうもののことを、彼はなんと言っていたっけな。
「ねえロキ君」
「ん?」
「ロキ君は、自分が死にたくないからその、婚約破棄? それを回避したくて男に戻ろうと思ったの?」
「いいや? 単純に俺が女がいやってだけ。どうせなら傭兵みたいなことしてみたいわ」
ロキ君はからりと笑う。
うん、間違いない。
彼は特に何か変えなくちゃと思っているというよりは、ストーリーから逸脱すればいいと思っている。
「げえむの抑止力、みたいなものを考えたりは?」
「あー。いや、ないと思うわ。だって、このゲーム、そもそもみんな仲良く終わりの道があるからな」
考えられるすべてのルートがある、と彼は言った。
「つまり……?」
「俺から関係を変えようとしなくても、殿下たちの心を変えるだけでいいってことだよ」
彼は余裕そうに笑んだ。
そして、ソルちゃんに問いかけた。
「で、ソル、誰か落としたい人は決まったか?」
「う……えっとね……」
あ、居るんだ。
「アレクセイ様、なんだけど……」
「はい来た侯爵家」
「ちょ、バカにしなくてもいいでしょ!?」
「最初っから側室決定事項じゃねーか。いつ会ったコラ」
「王宮でのパーティの時よ! 悪かったわね!」
いやいや、違うでしょそれ、ソルちゃん。
私には、それ、ロキ君がソルちゃん心配してるように見えるよ。
まあ、いろいろ反撃されそうだからこのままでもいいかなあなんて思って、私は改めてお饅頭に手を伸ばす。
どうせだから、私はこのままロキ君の世話係をしようかな。
そんなことを考えながら、私は、彼らにあげるためにアクセサリを作ることに決めたのだった。
死徒が話をするというだけで王侯貴族は震えあがります。