もふもふとお昼寝
魔物学の時間、今日はテイマー適性を見る。
要は魔物同士を戦わせるわけだが、いくつか条件がある。
まず、魔物同士の戦いに人間が入る余地は基本ないということ。まあ要するに、魔物の方が弱い場合はテイマー適性無しである。
こればっかりは、魔物の方がどういう成長をしたかによって変わって来るので何とも言えない。
俺は全員連れてくることになってしまった。
ところで、シオンから手紙が届いた。
卵からヘルが孵ったらしい。
これでシオンの準備は整ったのだそうである。
いつの間に生まれたのかは知らないが、居たものは仕方がない。
ヘルは戦闘でも非常に役立つので連れて行くとロキは言い切った。俺も別に反対はしないよ、俺の魔力で孵した子じゃないし。
で、俺の周りにはスー、ナイト、ミィ、フェンが座っているわけだが、なんでこうなったよ。
見事に白と黒しかいねえわ。
フェンはまだ1メートルくらいなのでかなり小さい方である。スーは150センチは越えた。
ナイトは……もういいや。どうせヨルムンガンドである。
ミィはだいぶころころが取れてきたがまだ短足でヨチヨチ歩きをしている。
そして悲報である。
アレクセイのワイバーンがフロストドレイクと化した。
理由は、春休み中にちょっと実家に連れて帰っていたら寒かったからだそうである。
幼少期の環境って大事だなとか思ったわ俺にはたぶんあんま関係ないけど!
「ダントツでアレクセイのフロストドレイクがでかいな」
「まだ小さい方なんだけどね」
「フロストドレイクって5メートルくらいだよね?」
皆口々にアレクセイのフロストドレイクを見上げて感想を述べている。
ここまで強烈な属性が出てしまうと他の魔物を死なせるので、別の宿舎が用意された。そこの内部の環境を極寒地に変化させたのはいい思い出です。
「変化魔術便利すぎる」
「コードも組んだし補助具も使ったぞ?」
「それすらすべて一から自力で作っているお前には何と言えばいいのかわからないな」
「フォンブラウって三男坊にそんなスペックが必要なのか」
「誤解だ」
ロキ・フォンブラウのスペックが高すぎるだけだと思いたい。
「それって要するに前世からスペック高いってことでしょ」
「涼も基本学年1桁にいたもんね」
「それ関係あるのか」
ソルとクルミのアンフィスバエナとラドンは変温動物なのかフロストドレイクの傍に行くと動きが緩慢になる。
俺のところへわざわざやってきて撫でられたがるあたり、相当俺は好かれているらしい。
「何でロキに懐いたかな……」
「そりゃ、領分ってもんだ。ソルは主、ロキはケアしてくれるやつって感覚だろ」
「アウルムそれどういうこと、私じゃちゃんとケアできてないってこと?」
「属性の問題だよ?」
「へ?」
アウルムとソルの会話に入って来たレスターに俺は視線を向けた。
「どういうことですか、レスター教授?」
「アンフィスバエナというのはね、最低2つ以上の属性を持ってないとちゃんとケアしてあげられないんだ。ご飯を食べているように見えても、片方の頭しか食べない。食べれないんだよ。アンフィスバエナはいくつもの属性を持っていないときちんとはケアできない」
「頭の数だけ属性が必要なのですか?」
「ラドンくらいの多さになるとそうじゃなくなるけれど、双頭のアンフィスバエナ然り、キマイラ然り、ヒュドラなんかもそうだね」
初めて知った。
俺は軽く目を見張った。
そして、俺の手から魔力を吸い上げているアンフィスバエナとラドンを見る。
解析魔術を掛けて魔力の流れだけ見ていると、なるほど、個人的に色分けして属性別にみればどれも食ってる頭と色が違う。
ラドンはかなりの確率で被ってるが。
そして一部食ってない奴もいる。
「それでも、主の魔力が一番だと思ってる頭はいるみたいですね」
「そりゃそうですよ。なんたって、自分を孵してくれた魔力ですからね」
恐らくいま食べていないアンフィスバエナの片割れとラドンの10の頭はそれぞれ火属性と土属性を食べるのだろう。
「ってことは、オルトロスもですか!?」
「うん、そうだね。あ、そっか」
オルトロス1頭いたな、そういや。
無論こやつも俺に向かってくるわけで。
「……」
「キャイン!」
フェンがいるのでとびついては来なかった。
うん、お前の巨体に押されたら潰れるわ。
尻尾巻いて伏せっております。こいつ3メートルはあるのにフェンには絶対敵わないと感じているらしい。
「もー、ダメじゃん急に飛び出してっちゃ」
「クーン……」
「フェンってつい1ヶ月前に生まれたばかりのはずなのに何この貫禄」
フェンはあまり鳴かない。生まれてすぐはクーンクーン言ってて可愛かったが、今ではすっかり立派なオオカミである。
ちなみに、既に進化条件を満たしている状態らしい。スーが教えてくれた。
魔物は進化先が選べるというのは何となく分かっていたのだが、今のフェンはまだフェンリルの成体ではないためフェンリル街道を走るか他の種族に行ってみるかで悩んでいるとのことだ。
というのも、フェンは既に記憶を取り戻しているらしく、特にナナシの記憶が強いらしかった。俺を守ろうとするのも、俺が勝手に出歩くのを嫌がるのも、すべてはあの慟哭騎士に通じる。つまり、彼が俺の出る授業についてきたがるのはそれだけの理由があるということだ。
で、ナナシはフェンリル種では守れなかったから、ということで悩んでいるらしい。
そのままフェンリル街道行っていいのよ。俺戦場に出ないから。
ちなみにだが。
俺の足元で毛玉がミィと戦っている。
この毛玉、ヨシュアの孵した卵から出現した。
「もふもふ~? どこー?」
ヨシュア、お前のもふもふは此処にいるぞ。
もふもふというのは、名前ではない。
こんな名前困るわ。
このもふもふというのは、種族名である。どんな種族だと言いたくなるが、他にもちもちだのふわふわだのがいるので仕方ないと思うことにした。
ちなみにこやつら、総じてドラゴンである。
ヨシュアは比較的卵を孵すのが早かったので2つ目を渡されたのだ。その中から出たのがこいつ。
実は、もふもふは極寒の地に住む鳥竜種の幼竜である。飛ぶのである。
こやつになったのは十中八九フロストドレイクのせいだと思われる。
皆も防寒仕様になり始めているし。
ナイトとスーはもう、ね。
我関せずというか、関係ないわって感じである。
ケットシーたちめっちゃ震えてるから俺は擦り寄ってくる魔物たちを集めて抱っこして団子にしているのだが、それに嫉妬する始末である。やめろや。
夏のはずなのに極寒地。ナンテコッタイ。
「それにしても、皆すごい進化街道行ってますねー」
「そりゃ、ドラゴン系のヨルムンガンド、牙獣系のフェンリル、人型のヘルまでいりゃこうもなるだろ」
シオンのヘルが出てきた卵はこの授業でハインドフット教授にシオンの存在がばれて、もらったのを渡したものである。
ヘルなんて孵したら普通は破壊神とか死神とか言われるので公表できない立場であることに感謝するほかなかった。
「ちょ、それ食べちゃダメ!」
「何食べてんのよ吐き出しなさい!」
「いった! 噛むなよ、痛いだろ!」
「ぎゃあ! 走んなコノヤロウ!」
周辺がカオスなんですが。まあ、バトルなんてこの環境じゃ無理だと思う。
「うーん、やっぱり場所を変えた方がいいかな?」
「ハインドフット教授、闘技場がいいと思います。あそこなら回復魔術の掛かりもいいですし」
「うーん、そうだね。行こうか」
急に予定が変わるなんて当然で、俺たちは大人しくハインドフット教授の後を追っていくことになった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。