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Imitation  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年生 前期編
108/154

可愛げのない生徒達

教員サイド目線


スパルタクス先生視点です


たとえば、才能溢れる少年少女。

たとえば、我々では手の届かなかったところに手を掛けている若者たち。


そんなモノを見ていると、なんともむず痒くなってくるものである。

私からしてみれば、一瞬で駆け抜けてしまうのだからもっと羽を伸ばしてもよいと、思うことがある。


私は、スキル持ちである。しかも、常時発動型のもの。

体質であるので仕方がない。

私には子供たちの背中に何かが見える。


ここに来る子供たちの背に見える羽はいつも縮こまっている。

今年は、縮こまっていない子が数人いたので目を引いた。


ソル・セーリスがまずそれである。

彼女は、真っ赤な羽を持っている。

鳥の羽の形をした炎、実に美しい。


似たような色を持っているのがロゼ・ロッティである。

ある意味彼女が一番のびのびしているかもしれないが、彼女は羽というよりも、背に大輪の花を背負っているように見える。大成するであろうことの表れか、実に大きな薔薇色の蕾だ。


クルミ・カイゼル。

彼女は変わった見え方をする。

彼女が立ち止まるとたちどころに森に囲まれるのだ。


そして、ロキ・フォンブラウ。

彼は、1年の最初の授業は令嬢として、途中から令息の姿を現すようになったが、男女で戦い方を分けるのは悪くないし、そちらの方が都合もよい。

彼の背には、氷のように透き通った、しかしそれでいてはっきりと存在感のある羽が見える。色が無くてもここまで煌くものかと、初めて見たときは嘆息した。


しかし、そんな彼らの羽は最近、少しばかり縮こまっている。

何故だろうかと思っていたのだが、最近になって、ロキがドッペルゲンガーを抱えているという話が舞い込んできた。


いつも転移魔術を使って移動していたロキが転移を使わなくなっているのを不審に思ったハインドフット教授が問うたところ、少々複雑な事情があり転移魔術を封印している、と返って来たとのこと。


その後、女子寮にロキの令嬢姿の魔導人形(オートマタ)があったことが分かり、事情を聴くと、どうやらロキの込み入った事情はこの魔導人形(オートマタ)の中に入っているものが絡んでいるらしいことが発覚。ハインドフット教授の見立てではまず確実にドッペルゲンガーの出現による殺衝動を抑えようとしているだろうということだった。


そして恐らく、その魔導人形(オートマタ)の中身が彼らの羽を縮こまらせていると見て間違いなかろう。

そう思って話を聞くことにした。





呼び出した彼女は黒猫の姿で私の研究室へやってきた。変化魔術で散歩のために姿を変えたのだと嬉しそうに語った。


『それで、お話とは、何でしょうか、スパルタクス先生』


黒猫に座布団を出してやり話を聞く。


「うむ……私は、スキル持ちだ。皆の背中に、羽が見える」

『まあ』


黒猫は驚いた顔をして、少し目を伏せる。人間が入っていると分かっているにしても、ずいぶんと人間臭い仕草である。


「それでな。最近、フォンブラウやセーリス、カイゼル、ロッティの羽が縮こまっているのだ。元はのびのびとしていたのに」

『ああ……それでですか』


彼女は何か心当たりがあるのだと分かり、ふと、彼女のことも問うてみたくなった。


「その前に。シオンと君は呼ばれているそうだが、君は、どこの誰なのかな?」


そう問いかければ、彼女は答えにくそうに少し逡巡した後、口を開いた。


『転生者です。こことよく似た世界を何度か繰り返し生きてきました』

「では、君の身体はどこに?」

『私は本来、ここにいてはいけないのです。この世界の私は、ロキなのですから』


彼女はそう言って、ぽつりぽつりと零し始めた。


自分が事の言い出しっぺであったはずなのに、いつの間にか他の人間に頼りきりになっていること。

本能的に切り離した方がいいと判断したロキが最終的に苦しんでいること。

そのことを伝えられた者たちも苦しんでいること。


頼る先が傭兵であることも不安の原因。

事情を全て知っているはずの者は積極的には語りたがらず、今の皆に任せようとしていて意見が合わない。


『皆を苦しめたかったわけではなかったのに』


黒猫は言った。


ここで、ロキ・フォンブラウの話をしよう。

彼は、実に成績優秀である。

が、しかし、彼は転生者であるという点によってスルーされがちだが、無表情である。


我々教員側からも、表情が読めない。

激怒すればそれこそ怒髪天の勢いでがなり立てるのでわかる。

特に実戦訓練に入った途端その傾向が強くなり、我々も気が付いた。


彼は、心配性なのだ。

今ここでさめざめと泣いている黒猫の背に見える羽は、スズの背に見えている羽と同じもの。つまり、彼と彼女は同じ、同一人物である。


なんとなくだが、それが正しいのだと思う。

私にとってはそれが真実のように感じた。


彼は彼女を心配している。彼女は彼らを心配している。

似ているのに、壁がぶ厚く感じる。


そして、その壁に辿り着くことすらできないのが我々かと、一瞬考えた。そしてすぐにその考えを頭の隅へと追いやった。

これだから転生者は嫌いなのだ。

可愛げのない者ばかりだ。


もっと大人を頼ればいいのにと、思う。

君たちは奴隷ではないのだからと、言ってしまいたい。

私は奴隷であった。

剣闘士と呼ばれる類の、奴隷であった。


故に周りに頼ることなど知らなかった。

いつからか解放され、この国の国民として受け入れられ、孤児院の経営も始めた。無論、そちらは妻に任せている部分が多いのだが。


「まったく可愛げのない生徒ばかりだ」

『……ふふ、スパルタクス先生は私を見ていつもそう仰っていました』

「そうだろう。本当に可愛げがない」


私は黒猫に告げる。


「この世界にいてはいけないのであれば、別の世界へ行けばいいだろう。ここのロキ・フォンブラウがロキだというのであれば、君には君の世界があったはずだ」


転生者というのは皆、何かを抱えているモノなのだろうか。

今はまだいい。

まだ頼っていていいのだから。





いつの間にか増えていた生徒の名を、私は勝手に決めた。

黒猫に入っていたので、ネロ。

彼女の名を生徒名簿に書いて、とっておくことにする。

もしかしたらいつか彼女はこの世界から姿を消すかもしれない。

その時、私はこの名を覚えていないかもしれない。

だから、残しておきたいのだ。


どこかの世界のロキ・フォンブラウ。

黒猫の姿で私と話した君に、私が会っていたことを。

君が確かにいたことを。

少しでも残してみたいと、私は思った。


大人を頼れない、可愛げのない生徒達へ


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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