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Imitation  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年生 前期編
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防御魔術

中等部2年になった時点で、学園に所属している者は皆防御魔術を習い始めることになる。理由は、高等部に上がった時一から教えなくて済むようにするためである。

単純に、高等部に上がってから入学してくる平民の特待生たちにしっかりと時間を割くためでもあるが、貴族というのは既に鎬の削り合いを始めているものなので、先に防御だけでも教えなくてはならない。何せ、決闘制度の解禁が中等部2年後半からである。


学園内では3年になってからと暗黙の了解になっているのだが、そんな規定はどこにもないし、決闘といっても賭けるものは命ではなく別の商品であることがほとんど。

攻撃魔術は俺のように既に家庭教師等の指導によって1つや2つは習得している者がほとんどだし、防御魔術もしかりである。


ただし!


範囲魔術に関してはノータッチである。

理由は、家庭教師がつくような子供の身体でそんな大規模なものを扱えるはずがないからである。


コレーのあれはコレーがおかしいのだ。

いや、俺たちも十分おかしい。

つまり、とりあえず言っておくなら、公爵家と王家の人間、あと一部の特殊な人間以外は、基本的に幼い頃は範囲魔術を使うことはできない。


それ言うなら、空間魔術は全てが範囲魔術なので、アイテムボックスという、リオの親父さんから与えられた祝福以外の空間魔術が使える俺はいよいよおかしいということになる。


で、今まではその理論とかなんやらよくわからん教科書の内容を読み上げられただけだったのだが。


「まあぶっちゃけてしまいますと、こんな教科書の内容は頭の片隅にでも止めておけばよろしい」


ヘンドラ先生はにっこりと笑ってそう言った。ちなみにこの授業、補助の先生としてエレンさんが入っている。エレン・コーヴィ、TS転生仲間であるあの人だ。


いやー、いろいろ話し合って、俺が令息姿になったとき、一番不服そうだった人である。ちなみに、彼女はもう精神的には女性と大差ないらしいので、俺だけ大人しく男になっておくことになったのはいい思い出だ。


「今日から物理攻撃に対する範囲防御魔術を習得してもらいます。こればっかりは時間が必要なので、皆ゆっくりね。ああ、ミスタ・フォンブラウとミスタ・バルフォットは既に習得していましたね」

「「はい」」

「じゃあまずはちょっとやっていただこうかしら」


セトと俺が使える防御魔術は風属性。俺だけだと土属性と水属性も扱えるが。

いやー、騎士団長に吹き飛ばされているとそれだけで魔術の練度が上がるものである。


父上は肉体的には脆弱(ウチの中では)なので、騎士団長の物理攻撃に対する対応とかはうちではなかなかやれないことだった。だって母上ドレスなんだもん。

しかも母上は刺突系なので防御しても一点突破を掛けられてしまう。そういうサシ勝負に対する防御魔術ではないので今回はスルーの方向で。


「範囲攻撃魔術が使える子はいますか?」

「ソルが使えますね」

「クルミじゃ駄目なの?」

「セトは風だっつの」

「ではミス・セーリス、ミス・カイゼル」

「「はい」」


話聞いてた?


結局2人が出て来て、俺たちが防御、ソルとクルミが攻撃に回った。


「威力は弱めでお願いしますね」

「はい」


この世界の基本四属性の関係としては、火は土に、土は風に、風は水に、水は火に強いというおそらく結構メジャーな属性配置を持っている。

ちなみにこれ、魔物で調べたものなので、本来はイミットの使っているいわゆる陰陽五行説に準じたものの方が真理に近いという話がある。

威力によって関係が変わってしまうのはよくある話だ。


たとえば、小さな火ならば風でも消せるし、砂を掛けても消せる。砂のように粒が小さければ強風に巻き上げられてしまうし、火と水が組めば大きな岩だって割れるし、火災はバケツ程度の量の水じゃ消せない。


そのことを考えつつ魔術は使わねばならないようだ。

ちなみに、他の属性によってはその関係を絶対的なモノにする属性や、反転させる属性も存在するので、ちゃんとその線も視野に入れなくてはならない。


ソルは火、クルミは土、セトは風、俺は何でもありなのでとりあえず、セトに消せそうにない物は俺が処理するかな。


それぞれ指定位置に立つ。ここから動くことは禁止。

条件はそれだけだ。セトの場合は剣で受けるのもありとされた。


「それでいいのですか?」

「ミスタ・バルフォットは魔力量が低いですからね。こうでもしないと怪我をしてしまいます」


ちなみに余談なのだが。

この4人の中で一番魔術の威力が低いのがセトである。

理由は単純。

俺たちの魔術発動速度に合わせて魔術を使用するとなると、こいつは詠唱を破棄せねばならない。


詠唱は祝詞であったといった。

呪文とか言われるこれは、自分の中で意識を集中して魔力を操作し、練り上げていくために必要な過程だ。

それを破棄している俺たちの方が異常だが、俺たちは別に破棄しているわけじゃない。

俺たちは、その意味を漢字に表しているだけなのだ。


セトはまだ漢字をちゃんとは覚えていない。俺が、ゼロと一緒に教え始めたのだが、まだ“壁”という漢字の字体すらまともに覚えちゃいない。


「セト、俺が単発、お前ちゃんと詠唱しろ」

「いいのか?」

「ソルは威力調整が微妙だし、クルミのは完全に物理だ。焦るなよ」


何でロゼが出て来てくれないのかと思って目を走らせると、ロゼが苦笑したので、おそらく彼女も調整中ということだろう。


「では、お願いします」

「はい。火属性行きます! 【火の(ファイアボール)】!」

「いきなり範囲かよ……」


ソルが展開したのは一番習得難易度の低い火属性攻撃魔術である【ファイアボール】を漢字にあてはめたものだ。

漢字にあてはめただけで通常の5秒くらい唱えねばならない詠唱が全破棄できる。


「水属性行きます! 【水の(アクアガン)】!」


俺も詠唱は全破棄の方向で行く。

火の球を全て水の球で迎え撃った。


「土属性行きます! 【石乱打(ストン)(サークル)】!」

「チッ、打撃属性行きます、【破砕(ブレイク)】!」


クルミの方がウザい。

土属性の魔術は基本足元から飛んでくるのだ。いやらしいったらありゃしない。


「クルミ!」

「うん!」

「――あ、やべ」


ソルとクルミの魔力がいつの間にかしっかりと混ぜられている状態で2人の手元にあった。

あれは、ルビーが見せていたものである。

つまり。


「セト、【爆砕(イラプション)】くるぞ!」

「――【ヴォウト・パレッタ】!」


一瞬で周りの空気が変わった。

セトは両親の国の言葉で詠唱を行ってるので俺には何と言ってるのかよくわからない。

今回発動した【ヴォウト・パレッタ】は訳すると【真空壁】となる。【風壁(ウィンドウォール)】の上級版だ。詠唱に3分ほどかかるので普通は使わない。

恐らくソルとクルミがなんとなく詠唱が終わる時間に合わせた形なのだろう。


目の前を鮮烈な光が包み、俺は目元を庇った。爆炎と礫が飛んできて、真空壁ですべて掻き消されていくのが見えた。


光が消え去って俺が体勢を立て直すと、そこまで、とヘンドラ先生が言った。

セトが俺に寄りかかって来たので支えてやる。

ソルとクルミがこちらへ走り寄ってきた。


「セト、平気?」

「ん、一応は」

「風の最上級使うとは思わなかったわ」

「いや、なんとなく火と土って嫌な予感しかしなくて」


ルビーのせいだな。


「今のはとんでもないのを使いましたね……とにかく。今のが、範囲防御魔術です。今のは風属性だったので少し分かりにくかったですが、ああやって大規模な魔術から皆を守るのが範囲防御魔術になります」

「範囲魔術を使える者同士で組み合わせればもっと強力なものにすることができますよ」


エレンさんもきっちり補足説明等を行って、授業の時間は過ぎていった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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