鉱物学基礎
鉱物学。
鉱物について研究するのかと思ってしまうネーミングだがそうじゃない。
これは、魔術における触媒としての鉱物についての学問である。
うん。
自分で何言ってんのかよくわかってないんだが、要するにどんな魔術にはどんな鉱物が相性いいですっていう授業である。
土属性の子が取っている確率が高く、周りが茶色のスカートとズボンでいっぱいである。
今までこの授業を語らなかったのには理由がある。
理由。
それは。
アウルムを追いかけ回す教員約1名のせいである。
うん、まともに授業進んだことないわ。
「だーもういい加減にしてほしいんスけど!」
「1回でいいから錬成を見せておくれ! ぜひ!」
「いやあああああ!!」
アウルムがあそこまで拒絶反応を見せる人間もそういないのだが、どうやらあの先生は鉱物学を専門にしている先生らしいので、アウルムやルビーたちメタリカを至高の存在と見ている節があるようだ。
「もうヤダ……」
「それはこっちの台詞だわ」
突っ伏した俺にそるが横からすかさずツッコミを入れてくる。
「何で見せてあげないのか」と思うかもしれないが、アウルムが生成するのは金、ミスリル、オリハルコン、ヒヒイロカネとそれ以上の上位金属。
つまり、際限がないに決まっているのだ。実験動物にこそされないが、生きた鉱山扱いを受けるのは目に見えている。
だからといって俺が出ていくと皆を委縮させてしまうのである。
なんせ単独で死徒列強とパイプを持った人間だ。怖くないはずがない。学校ではほとんどバッジを隠すようにストールをつけているためあまり知られてはいないが。
「……なんでこうなったよ」
「私に聞かれても困るわ」
アウルムがとうとう教員を蹴り飛ばして静かになったところで授業が始まった。
「毎度大変ですね」
「もう嫌!」
「それでも五大宝石組を生贄にしないとことか俺は好きだぞ、アウルム」
「頼れる人がいない!」
アウルムが席に戻ってきて、他の教員が授業を進め始める。
今まではひたすら魔術におけるそれぞれの鉱物の性質を説明されて実践を繰り返していただけだ。
今日からは宝石に入る。
「本日のメインは、水晶です。やっと宝石ですよ、皆さん」
この教授の名はサンダーソニア・ノッカー。ノッカーの血筋の御方で、背は低い。
ノッカーはこの世界においてはドワーフの系列にあり、皆様背が低い。ちなみに名で予測できると思うが、女性である。
ソニア教授と親しみを込めて呼ばれている。
「水晶は。最も魔力を通しやすく、加工もしやすい宝石の一種です。属性クリスタルと呼び分けるためにクォーツという言い方をする方々もいますね」
控えていたレスターが皆に水晶を配り始める。ちなみに俺にはない。
毎度のことだが。
「……レスター教授、こういうのはよくないと思います」
「……だってロキ君の魔力の質に耐えられそうな水晶無かったんだ……」
「水晶は低い魔力でも弄れますからねえ」
ソニア教授が笑った。
俺、毎度こんな感じなのである。
「センセー3つくらい貰っていいスか」
「ええ、お願いしますね」
毎度アウルムが俺の分を後から錬成するという状態である。
これを毎度されていると、アウルムを追いかけてのされている教授も黙ってれば見れるのになあと思う。
「ほい」
「さんきゅ」
アウルムが錬成してくれた水晶は曇りも傷もない美しい大粒の結晶。
宝石にもランク付けがされるのだが、そのランクの中でも今は低い方をやっている状態だ。低いランクの宝石はその分、弄りやすいが上質の魔力に対して弱い。俺の魔力は総じて上等なものであるらしく、毎度の如く砂にしていた。いや、だって金を砂金に変えるレベルよ。金を割るんだぞ俺。
ちなみにソニア教授曰く「やっぱりアーノルドの子」だそうである。
父上もかなり割っていたようである。
「アーノルドはムーンストーンまでは割ってたんだよねえ。ちなみにプルトス君はシトリンまで、フレイ君も水晶は割っていたよ。スカジちゃんは――ダイヤモンドは、割らなかったねえ」
「ヤダもう……!」
俺、スカジ姉上より魔力多いんですが?
「安心しろロキ、トパーズ以上は五大宝石組がいるから大丈夫だ!」
「何の安心をすればいいのか分かんねえ!」
アウルムの謎の励ましにツッコミを入れて、俺たちは授業に戻る。
「水晶は透明なので、特に何かに相性が良い悪いがあるわけではありません。割っちゃっても平気ですよ、水晶は低級の魔物の中には食べる子もいますので」
そう言いつつ瓶詰めしていた淡い黄色のスライムを床にポイするソニア教授。皆の魔力が籠るので水晶も格別おいしく感じるのではなかろうか。
土属性を持つ精霊や魔物は総じて宝石やらなんやらの鉱物を食べる。
「水晶はお守りとしても使われます。魔除けですね」
ソニア教授はそう言いつつ水晶に魔力を流し込み始めた。俺たちもそれに倣って魔力を流し込んでいく。
自分の手を離れたからといってコントロール下から外してはいけない。魔力を込め、いきわたらせる。そして、一気に何か別の形をイメージするのだ。
何にしようかな。
隣のソルも悩んでいるようだが、クルミはあっという間に白鳥を作っていた。
俺は、何にしようかな。
ペンデュラムとか、どうだろうか。
ダウジングに使うあれ。
ダイヤ型の振り子がいい。
バキバキと音がして、水晶のチップと思い描いた通りのダイヤ型の水晶が出来上がった。
皆が盛大に水晶を割る音がしたり、後ろから水晶の欠片が飛んできたりして教室内がカオスになってくる。
「うわ、割れた」
「くそっ」
「きゃ!」
スライムは1匹ではなかったようで、沢山のスライムが教室を這い回っている。
そんなうちの1匹が俺のところへやってくる。
そいつはじっと俺を見た後、そっと水晶のチップに手を伸ばした。
「何そのダイヤ型」
「ペンデュラムでもどうだろうと思ってな」
ソルに尋ねられたので答える。ソルの方を見ると、魚が出来上がっていた。エンゼルフィッシュだ。
「ロキにあげるの?」
「……ああ。お守りに、と」
「教授言ってたもんね」
俺は小さく息を吐いた。ペンデュラム、透明な水晶だったはずなのになぜ今青く光っているのが激しく問いただしたい。
「え、青くなってる!」
「なんですかこれ!?」
レスターとソニア教授が俺のところへ寄ってきた。
ちなみに、ブルークリスタル、ではない。
あれは確か中に入っている鉱物のせいで青くなっているはずだ。
これは、透明感のある青。
何ですかねこれ。
「ちょ、解析掛けるよ!」
「は、はい」
ソニア教授が解析魔術を掛けてギャー、と声を上げた。
「どうしました?」
「解析できない! ちょ、何作っちゃったの!?」
「はっ?」
俺はアウルムを見た。アウルムは目を丸くしている。
そして俺が見ているのに気付いて口を開いた。
「それ、メタリカブルーだぞ」
「……は?」
「いや、だから。この世界にそもそも無い」
「いやあああああなんかやっちまった感が半端ねえんですけど!?」
俺たちはひとしきり騒いで、アウルムからこのメタリカブルーの説明を受けた。
メタリカブルーというのは、メタリカが死ぬときにしか生成しない特殊な宝石だそうである。効果としては危険察知、先導。魔除け効果もあるのだとか。
「何に変化させてんだよ」
「変化魔術使ってない! 断じて!」
結局もう1度水晶貰って作り直しました。
今度はクジラ作った!
そしたら勝手に動き出してもう何も言わないって決めた。うん。
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