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Imitation  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部2年生 前期編
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とある傭兵団

デルちゃん視点です

風が吹いていく。現在、俺は風の精霊の協力を得て、先行している傭兵団の皆の様子を見ているところである。

一応女だがこの口調なのはまあ、許してほしい。兄にもアストにも散々直せと言われたが、何せ元が男勝りで男に転生した経験があればそのまましみついてしまうというものだ。


俺の事情は今は捨て置こう。


俺は風、アストは土というように大まかに司るものが分かれているが、この2属性だけでは今回の騒動を起こした輩を抑えることができない。

理由は、相手が全ての属性を操ることができるためだ。


だからといって兄を連れてくれば間違いなく兄が出現した街は氷漬けになる。

水を司るものを呼べば水中都市と化すだろう。

炎も然り、焼け野原になるか干ばつに見舞われるかといった天変地異と隣接した者ばかりである。


故に、すべての戦力をこの世界に投じることは叶わなかった。

今回傭兵団を連れてきているのだって、かなり戦力を抑えた方であるし、そもそも本当はアンデッドに分類されるこの傭兵団の第一師団は連れて来たくなかった!


中にはドラゴンゾンビを大量に従える類の者だっている。

どっちが魔王だコラ。


見守るために留め置かれているこの世界の冥王たちは俺たちに対して何を言ってくるわけでもなかった。

つまり、おそらくだが、彼らにとっても今回のは手に負えないということなのだろう。


そもそも、力関係的な話をしてしまうと、アウルムは師団長クラスの実力を保有している。ミスリルもオリハルコンも無限に生成するようなやつである。そんなのが負けたら相手は何だという話になるだろう。


だがアウルムは転生の波には逆らえない。

そもそも彼の一番最初は人間である。次に精霊になるなんて可笑しな線路に乗っけられたのだから可哀そうといえばそこまで。


そもそも、アイツ殺され過ぎである。

養母だったこっちに身にもなれってんだ!

全部見えてんだよ俺風だっつってんだろうがコノヤロウ!


――とまあ、アウルムに言いたい文句はたくさんあるけれども、今回俺たちが動く原因になったのは、アウルムが2度、同じような世界を生きているからだ。


あいつの感覚だと、1日ごとに転生すると考えると分かりやすいそうである。

一昨日はメイラと呼ばれていた。昨日はシドとだけ呼ばれていた。今日はアウルムとかシドとか呼ばれている。

そう、あの子は言った。


ここで気付かねばならないのは、本来ならばここは、昨日はメイラ、今日はアウルムやシド、でなければならないということだ。

パラレルワールドというのは、竹箒の穂のように個別に別れている。しかしその竹箒はそれ全体で1本である。その竹箒1本がアウルムの一回分の人生である。


今回は、そんな箒1本分が終わったにもかかわらずもう一度同じような世界を生きているとのことだった。

しかも、ロクでもない世界なのは話を聞いてなんとなくわかったのですぐに介入を実行した。


いざ下りて来てみればロクでもない奴がこの世界に根を張ろうとしていた。

俺たちは圧倒的上位の存在であり、別にこの世界がどうなろうと知ったことではないのだが、アウルムが巻き込まれるのはいただけない。

特に、初めての同じ世界を強くてニューゲーム(・・・・・・・・・・・・・・)である。


やつを倒すにはこの世界のやつがやつの魔法を解かねばならない。

そしてその為の生贄に選ばれたのは、奇しくも、そいつ自身がいろいろいじったが故に生まれた本来いるべきではない人格(・・・・・・・・・・・・)の少女だった。


彼女は此処にいてはいけなかった。

彼がベースである以上決して存在することはありえなかった存在(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。


彼らの中では殺す、という形で決着がついたようだったが、後で教えに行ってやるのもやぶさかではない。

なぜなら、あの子はいつでもアウルムの傍に居た。

それでいてアウルムの力を欲しなかった。


全部ちゃんと見ていたよ。

だから、彼女が一体どうなるのか、その結末を教えてやろう。

君が例え慟哭騎士と同じ道を辿りそうになったとしても。


回想、頭の中を整理して、ゆっくりと息を吐き出した。

隣に立っていたアツシがこちらを見て小さく笑った。


「どうしたんだ?」

「いや、幸せそうな顔してんなあと思ってな?」

「……ふ、はは!」


確かに!

俺はそう言って笑った。


そも、この世界での異変を感じ取ったのは、ハドからである。

ハドという少年は、どうやら俺の神格の一部を許され、この世界から託された、世界に愛されたうちの1人であったらしい。


世界は神の名を冠された者と、神から賜った属性の祖を、愛している、と表現される。

澄み切った魔力に宝石の如き瞳の持ち主であることが多い彼らは、体内に持っている“印章”のために特定の魔物に対して非常に有利である。


ハドは、その中でも俺の印章を持っている。

俺の印章が強力な力を発揮するのは、不死鳥である。

彼は元々生まれが特殊であるから、何もおかしいとは思われずにいるが。


ただ、その属性故に今回の敵の術にかからず、精神崩壊を一度起こした。それが丁度彼にとっての前回だったようである。

そこでようやく気付いた、といえばいいだろうか。


そこまで彼は耐えた、よく頑張ったとハドを褒めてあげたいくらいである。

その時点で準備を俺自身は始めた。俺だけで干渉するつもりだった。

そこにアウルムの報告が来て、皆で動くことになったのである。


「ガキどもは大人におとなしく守られていればいい。俺たちでとっとと終わらすぞ」

「とはいっても、相手が根を一本は張ってからなんだよなァ」

「ま、俺が一撃先に入れたせいでギリギリまで先延ばしにするだろうがな」

「でもあの一撃無かったらヤバかったろ。今回は元凶のあの娘も普通に転生している(・・・・・・・・・・・・・・・・)ようだしな」


アストの言葉に俺は笑みを深める。

ちゃんと調査結果が戻って来たらしい。


「それが分かればもう心配は要らねえな。その娘と契約する精霊を押さえておいてくれ、シルフィード」

『わかりました、フレイライカ様』

「そんなに緊張しなくっていいぞ? あくまで今は、デスカル・ブラックオニキス、略してデルちゃんだからな!」


この世界における風の最上位精霊種であるシルフィードに頼めば、彼女は身体を霧散させて消えていった。


「リオ、皆に通達」


――なんて?


「時間稼ぎは予定通りに。アルグの捜索を早めに始めよう。アウルムの記憶だと転生していたが、今回も同じとは考えにくい。あの子はアウルムと違ってすぐ精霊に戻ってしまうから。――まあ、転生してる可能性が高いようだがな」


――了解。


リガルディアに残るのは俺たち3人で十分だ。他のことは全部、皆に任せるさ。

皆、俺たちが育てた眷属みたいなものだからな。

ああ、そうだ。アイツを、ロキたちの師匠に入れておこう。術の組み方が似ているもの。

そんなことを考えつつ、俺は手入れのために鎌を取り出した。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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