死徒来たるⅠ
ギャグが、書きたい←(書け
のんべんだらりと過ごしていたら、庭でクフィ草を見つけた。
いや、見つけたのは俺じゃなくて、コレーなのだけれど。
「ロキにぃ」
「ん?」
もはやリョウと呼ぶことも面倒になりロキ呼びですべてが解決しつつある現在、俺は学校ではとりあえず令嬢として通うことになってしまい、男装令嬢で通っている。
9歳の夏休み、俺の部屋にやって来たコレーが持って来たのがクフィ草だった。
「コレー、どうした?」
「あのね、この草から、変な感じがする」
慌てて図鑑で調べた。
コレーの言う変な感じというのは、闇属性の魔力を感知しているためだと思ったからだった。
そして出てきたのが、クフィ草。
俺たちがいろいろと面倒事を回避するために回収しなくてはならない毒草。
「持ってても大丈夫だったか?」
「うん。でも、お庭にいっぱい生えてる」
クフィ草は、あんまりいい感じの草じゃない。
高い魔素の溜まった所に生えるが、通常は死んだ生物から解離した魔素と魔力を糧に生えてくるせいで、生き物の犠牲でしか生えないと思われている。
冬虫夏草みたいな扱いである。
キノコじゃないけどな。
たぶん、俺たち全員の魔力がバカみたいに高いために起きたことだろう。
これなら、いけるかも。
と、メイドが急に声を掛けてきた。
「ロキ様、スクルド様がお呼びです」
「はーい!」
俺はコレーと一緒に、母上が待っているという応接室へと向かった。
♢
「ロキです」
「コレーです」
「ああ、来たのね、入ってちょうだい」
応接室では母上がソファでくつろいでいる。コレーの手にはクフィ草が握られているままだ。おや、父上も来ている。ゼロもいる。
何があったし。
「失礼します」
俺たちはさあ座れと言わんばかりに開けられていたソファに座った。
姉上たちはおろかトールもいない。
母上が小さな座布団に水晶玉を置いた。
あ、これは予知が出たか。
「ロキ」
「はい」
「コレー」
「はい」
「もうわかったと思うけれど、予知を見たわ」
母上は小さく息を吐いた。
「コレー、その手に持っているものを見せてくれるかしら?」
「はい」
コレーはテーブルの上にクフィ草を置いた。父上の表情が一気に険しくなった。
「これは……クフィ草? 何故こんなものが? 誰か死んだか?」
「数日前にそこで3名ほど刺客を始末いたしました」
父上にゼロが答えた。さらっとやっちゃってたわ。
つーか、うちにも刺客来るのな。
「この家は魔素が濃いので生えてきたものかと思ってましたが」
「魔素が濃いだけで生えてくるのか」
「はい」
こっちでは知られてなかったか。
「母上の予知はいったいどのような?」
「あなたがこの草を回収しようとしているのは見えました。その後、あなたは老婆に会いますね」
クフィ草の回収イベント。
名の知れた死徒の1人に、これを欲しがっている者がいる。それが、通称蓑婆、名はエングライア。呪い師の婆さんだ。
「……どうしてクフィ草を集める?」
「……エングライアです。俺の持つ知識だけでは情報が足りません。申し訳ありませんが、ソルとクルミが来るまで待っていただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ、構わない」
今日はウチで私的なお茶会予定だったのだ。
もちろん、そろそろ攻略対象の親がヤバくなるからだけれど。
エングライアは死徒だ。
彼女は呪い師でしかなく、いくら強いといっても人間が好きで、温厚だ。
そして、超一流の錬金術師でもある。
ぜひ教えを――。
……まさか、ゲームのロキも同じこと考えたりしてないよな?
そうじゃなきゃ、どうしてロキの背後に死徒がいたのか甚だ疑問だ!
俺はふとコレーを見る。
コレーって、植物の成長促進できたよね?
栽培してもらえないかなあ。
いや待て、何でそもそもエングライアって動いたんだろう?
エングライアは死徒の中では弱い方の部類に入る。
つまり。
エングライアがクフィ草を欲しいと思っているときにクフィ草がとれない原因――それが、他の死徒にある可能性。
あ、これやばい、詰んだ。
「父上」
「どうした?」
「陛下に、クフィ草の保管許可をいただきたいのですが」
「ああ、奏上してみよう」
頭の中でいろいろとマップを広げてみる。大体の図からして、セーリス男爵領には森があって、そこもクフィ草の群生地だったはず。そんな感じ、としか言えない、俺のマップはイミドラのマップなので。
「それと、ロキ」
「?」
母上が俺に声を掛けてくる。にっこりと笑っているがその笑顔はまっくろけ。
「!?」
「あなた……いつの間に死徒と繋がりを持ったのかしら?」
「!!??」
俺の驚愕がお分かりいただけただろうか?
俺は何もしとらんわ。
予知で何があった、母上。
「今会ってる死徒なんて、ゼロぐらいなものです。どうなさったのですか」
「いえね、屋敷に死徒が入っていたみたいで」
「……外見は?」
「ラベンダーの髪、金色の瞳、ショートヘア」
セトナ・ノクターンだわ。
そして――
「……嘘だろ、アリア……」
俺付きのメイド・アリア。
彼女がどうやら、母上が怒っている原因の死徒らしい。
「やっぱり知っているんですね?」
「絶対認識阻害掛けられてました今の! アリアを呼べ!」
執事のセバスが下がって行って、しばらくしたらアリア……もとい、セトナを連れてきた。
アリアはに俺が何の外見的特徴も思い起こさなかったのは、俺に魔術が掛かっていたせいだろう。
セトナ・ノクターン。
彼女は気まぐれな死徒で、気が向けば人間の下で働くし、気が向けば人間と結婚もする。気が向けば人を殺し、気が向けば国を亡ぼす。
精神干渉系の魔術が得意、スレンダーボディ。
今はメイド服を着ている。違和感ねえええ。
「アリアです」
「あら、もう魔術は切ってあるのね」
「はい、気付かれたら分かるようになっておりましたから」
まあ、もういいんですけどね。
セトナはそう言って笑った。
「では、アリア、いえ、吸血姫セトナ・ノクターン。お話を聞かせていただけますか?」
「いいわよ」
メイドとしての口調ではなく、死徒としての口調に切り替えたセトナは俺が少し席を空けたので、そちらに座る。コレーの横にでもよかったけど、ね?
「うふふ、まずは何から話そうかしら?」
「どうしてこの家に来たの?」
「あら、それはただの気紛れ。実際、人間の通貨が欲しかったってだけ!」
セトナは確か若い吸血鬼擬きを飼っているはずだ。まだ生きてんのかな。
「じゃあ、ウチに来たのは偶然かしら?」
「いいえ。この家に来たのは、他の死徒たちが騒いでいるからよ」
「?」
セトナ曰く、人間の思い上がりが激しいため、罰したいという意見が出たのだそうである。
これ、イミドラの本編の序章部分だわ。
イミドラでラスボスに設定されている死徒は、元々どこぞの王様だった人物だ。
だから、民にとても気を配っている。
王と呼び慕われるのは、今も変わらない。
彼の国に住む死徒は皆、元は人間だった。
「ロキ君が転生者だってのは、皆に既に伝えてあるわ。だから、ちょっと遠いけど、向こうから、まったく同じ境遇だった子を呼んである」
「へっ?」
「だって、1人じゃなくても心細いでしょ? アイツ馬鹿みたいに強いし、神子筆頭だから頼りまくっていいわよ、神にもツテあるし」
「どんな大物呼んでんの!?」
セトナたちは現在、穏健派と過激派に分かれているとのことで、イミドラのラスボス、通称魔王は穏健派。まさかの。
セトナは中立、穏健派寄り。
呼ばれている死徒も穏健派だとか。
ちなみに、死徒列強18名中穏健派15名、過激派3名だそうである。
バランス悪ッ!
「めっちゃバランス悪い……」
「仕方ないじゃない、ロードとロルディアちゃんが穏健派なのに逆らえる子なんてそう居ないわ」
「ああ……その2人穏健派なんだ……」
分からなくはないけどさ。
ロードと呼ばれたのはロード・カルマ、通称人形師。ロルディアは蟲の女王が通り名になっている。
だが、2人とも元々人間だ。
ロードは確か、神代の人間だったと思う。
「まあ、いいのいいの、そんなことより、今度会いたいって言ってる子がいてね」
「……それ、リーヴァでは」
「うん。分かってるなら話は早いね! 1週間後でどう?」
あれよあれよという間に俺の来週の予定が決まってしまった。仕方ないのでこいつもお茶会に一緒に誘ってしまおう。
だいたい、今までのだって聞いてたはずだ。
「セトナ殿」
「セトナでいいわよ」
「では、セトナと。俺の事もロキでいい」
「それで?」
「午後の茶会に出ろ」
「はいはーい♪」
向こう、というのはもう一つの大陸ということです。
こいつ気が付いたらいつの間にか来ることになっていた件←