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Justice Noise  作者: 華野宮緋来
第三章『人ならざる証』
8/30

翌日

最新話です。

《   1   》

 地の塔の日。ラウネ・ユースティティアが最初に感じた違和感は窮屈さだった。

 窓の外から小鳥のさえずりが聞こえる。陽光がラウネの顔へと差し込んでいた。いつの間にか朝を迎えていたのだ。

 目元を照らす光を腕で遮るラウネ。彼は脳内で状況整理を行った。

「何でベッドの上に……?」

 寝ぼけた頭では考えられないので、ラウネは窮屈の原因から探ることにした。自分を壁際まで追い詰めている何かの側へ転がる。

 真っ白な鎖骨部分の肌が、鼻先に触れた。視界の上部では黒くて無骨な首輪が横たわっている。その先には幾本の鎖までもが伸びていた。

「…………は?」

 状況を飲み込めず、ラウネは眉を顰めた。寝ぼけているせいか、鈍感なせいか、ラウネは首を上に向けるまで全く気付かなかった。

 自分が、少女に抱かれて眠っていたことに――。ラウネの頭部は、絶世の美少女であるセレナの胸元に寄り添っていたのだ。

「――――――っ!?」

 状況を飲み込み、ラウネは即座に跳ね上がる。

 壁際だということを忘れ、後頭部を思いきりぶつけた。しばらく痛みを堪えるように頭を押さえこむ。

「……ふわ…………」

 セレナがゆっくりと瞼を開いた。上半身には首輪で大胆に開いた胸元が覗いており、ラウネの視線を幾度となく誘った。

 ラウネは視線を逸らすのに苦労しつつ、ベッドから飛び降りた。着地の際、足首を捻ったが気にする余裕はなかった。半身を起こしたセレナに指を向けて叫ぶ。

「な、な、な! 何でお前が俺の隣で寝てるんだよ!?」

「…………?」

 セレナが半眼でラウネを睨む。未だ寝ぼけているのだろうか、どことなく虚ろな表情だ。

 やがて、眼を擦りながら一声呟く。

「……おは……よう……」

 何処となく間延びした声で、セレナはラウネへと声をかけた。一方のラウネはその反応を受け、騒々しく騒ぎ立てた。

「そうじゃない! どうしてお前が俺の隣にいるんだよ!? 昨日、俺はテーブルで、お前はベッドで…………。……あれぇ!?」

 混乱で頭を抱えるラウネ。彼の話があっていれば、ベッドの上にいておかしいのは自分自身であった。つまり、自分がベッドの上に上がった可能性がある。

「いやいやいや。そんなはずは……」

「おなか、すいた。あさごはん、まだ……?」

 セレナが美しい二本の素足を床に下ろした。また自分のお腹を押さえている。その瞳も、何処となく懇願するかのような眼だった。

「……おはよう。朝食の要求だな。それ以外は何もないな。……よし!」

 ラウネが小さく拳を握った。表情に安堵と歓喜が入り混じっていた。自分が一緒に寝ていたことを問題にされずに済んで安堵したのだ。

「……まず、その服を着替えろ。昨日着ていた黒い服はどこだ?」

 ラウネは部屋を見回した。セレナの着衣は部屋の隅に追いやられてあり、微塵も畳まれていなかった。

「ほら」

 ラウネが衣服を手渡した。

「――っ」

セレナは膝元に置いたそれを一瞥すると、急に息を詰めた。ラウネは背中を向け、台所へと進もうとしていたので、彼女の異変には気付ていない。

朝食の準備を始めかけるラウネの耳に、思いも寄らない言葉が届いた。

「ふくがほしい。……かって」

「はあ?」

 セレナの方へ振り返り、ラウネは思わず首を傾げた。

「何を言い出すかと思ったら……。とにかく、着替えろ」

 セレナを説得できないと知っているラウネは、一心に受け流すことにした。予想通り、不動な態度を見て、セレナはいじけた様に身をかがめる。それ以上の言葉は些細だった。

「……けち」

「けちでもいいから着替えろ。早くワイシャツを脱げ。着替えている間に朝食にするから」

 ラウネは憮然と言い放ち、部屋の奥にあるキッチンへと向かう。

「――――っ」

 ラウネの聴覚にある音が飛び込んできたのは、朝食用のパンを手に取った時だった。

 部屋の外から足音が聞こえるのだ。どこか騒々しい歩調である。その人物に心当たりがつくと同時に、ラウネは青ざめた。

「やば! 早く着替えろ!」

「……どうしたの」

「アーシェだ! お前がいるところを見つかったら、俺の命が消える!!」

 一人暮らしの男の部屋に、ワイシャツを着た小さな少女一人。翌日から改善できない噂が回ってしまうのは当然だ、とラウネは思った。せめて、妙な趣味の撤廃だけは努めようとする。

 部屋のドアを激しく叩くノック音が鳴った。次いで、少女の声が響く。ラウネにとって聞き覚えのある声だった。共に戦う仲間、アーシェの声だ。

『ラウネー! いるんでしょ! 昨日の第二層での乱闘騒ぎは何なの!?』

 昨日の乱闘。ラウネが思い当たったのは、セレナを狙ってきたゴロツキとの戦闘だ。

「脱げ! 一刻も早く脱ぐんだ!」

『ちょっと! 無視しないでよ、ラウネ』

 ラウネは心底焦った。しかし、同時に昨夜のことを思い返し、安心した。

 ドアには鍵が掛かっている。ラウネは、アーシェが無理にドアを開けたりしないと知っていた。その為、不審な時間を作らないことに徹する。

「おい、早くしてくれ!」

「アーシェって、だれ?」

「今はいいから、そんなこと!」

 危機的状況かを全身で訴えるが、セレナは中々気にしてはくれなかった。

「む……」

 それどころか、不機嫌そうに頬を小さく膨らませたのだ。ラウネから視線を逸らし、引き連れていた水竜を目線で探し出す。

「だあああ! やばいぃぃぃ!」

 ラウネが自棄を起こし、セレナの細い肩を掴む。小柄な彼女は怯えたように身体を震わせたが、無理に退け払う事はしなかった。「悪い」と叫びながら、ラウネは胸元のボタンへと手を伸ばしていく。

 その時だった。前触れもなく、部屋のドアが開いたのだ。

「あ、開いた…………」

 部屋の向こうに立っていたのは赤茶色の髪をした少女だった。アーシェは抵抗なく開いたドアを意外そうに見つめる。そして、部屋内の状況にすぐに気づいた。

「早く脱……げ…………」

 ラウネの声が萎んでゆく。視線をセレナから横にずらし、同級生である少女と合わせた。

 痛い程の沈黙が流れる。

「…………」

「…………」

 しばらくは部屋の光景を見て呆然としていたアーシェだが、突如、顔一面を真っ赤に染めた。そして、勢いよく部屋に上がりこむ。発する言葉も怒声混じりだ。

「……っの! 変態!!」

 アーシェが鋭い蹴りをラウネに叩き込んだ。少女のつま先がラウネの腹部に突き刺さるぐらいの威力だった。

「がはっ!」

 九の字に折れ曲がりながら、ラウネは床に倒れこむ。以降も攻撃はやむことなく、アーシェは罵声を幾つも浴びせ続けた。

「む、無実だ……!」

 小さな呟きを一つ残して、少年は意識を失う。倒れこんだ視界の横で、セレナはリウと戯れていた。

日曜日にもう一度更新します。そして、それ以降はちょっと更新が難しくなると思われます。後書きの場を借りて、謝罪します。

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