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Justice Noise  作者: 華野宮緋来
第二章『竜と少女』
5/30

絶対

一日おきに投稿していきます。

《   1   》

 中心の塔、第四層。その最上階。

 ――ドフッ。

 重い荷物が下ろされたような音がした。

「大丈夫ですか? ラウネさん」

 巨大な鐘の真下で、案内人が起き上がる少年に声をかけた。ラウネは重圧で痛めた体を抑えながら、大丈夫です、と返事をした。

 その隣には、黒で身を包んだ少女が座っていた。先ほどの重い荷物が下ろされたような音は、彼女がラウネから降りた音である。

「…………」

 少女は無言を保った。眠気を堪えるみたいに半開きの瞳は、ラウネを見ず、自分の手元を見ている。

「……竜…………?」

 少女の掌には、小さな生物が居た。青い鱗に、蝙蝠に似た両翼。長い首の先にある、蜥蜴に似た頭部は、正に竜だ。しかし、全長が小さすぎる。おそらくまだ子供なのだろう。

「アギャ」

 喘ぐような小さな声を竜の子供が発した。首を、ラウネの方と伸ばしていた。あわせて少女も姿勢をラウネに向ける。

「……では、紹介しましょう。この子が、貴方に護衛してもらうセレナです」

 案内人がセレナを示した。セレナと呼ばれた少女は、無表情で唇を固く閉ざしたままだ。指先だけ竜を弄くるのに使用している。

 仕方なく、ラウネから声をかけた。

「初めまして。ラウネ・ユースティティアです」

 セレナの眉がピクリと、僅かながら反応した。黒い瞳がラウネを睨む。無表情でありながら、何故だか不機嫌そうにも見えた。ラウネは思わず身を引いた。二人のやり取りを見ていた案内人は、間に割り込むようにして、少女の頭に手を置いた。

「護衛の期間ですけど、今は不明です。ただ、数日間必ずセレナの傍にいてください。次に私があなたのところに来た時が終了の合図です」

「分かりました。……宿はどうすればいいんですか?」

「そうですね。騎士学院には確か寮がありましたよね? そこの貴方の部屋で充分ですよ」

 ラウネはその言葉を聞いて、しばらく呆然とした。やがて慌てふためきながら言葉を返す。

「お、俺の部屋ですか……? あの、いくら彼女が小さいといっても、男女が一部屋で一緒に……」

「何か問題でも? まさか、騎士学院の生徒さんが、この子を襲うなんてことは、ありませんよね?」

「いいえ! 大丈夫です! 任してください!」

 試すような案内人の口調に、ラウネは思わず承認してしまった。

 口に出してしまっては後の祭り。しまった、と呟いては激しく後悔した。

「良かったわね、セレナ。…………後、ラウネさんに注意が一つ。フェルムさんに言われたと思いますが、なるべく周囲に知られないようにしてください」

「あ、それは分かっています」

 深く帽子をかぶった女性は、セレナの傍へと歩み、その小さな双肩を優しく握った。

「この子は第三層の貴族在住です。家柄から、命を狙われています。それを表ざたにされてもまた、周囲に危険が及ぶだけですから」

 ラウネは重々しく頷いた。

「よろしいですね。それでは、セレナ、良い子にするのですよ」

「……はい、お婆様」

 セレナが抑揚のない声で言った。

 お婆様と呼ばれた女性が立ち上がり、ラウネの後方へと歩んでいく。

「あ、あの」

 ラウネが振り向いて声をかけた。まだ訊きたいことがあったのだ。だが、そこに案内人の姿はなかった。足音もなく、女性は掻き消えてしまった。

「行ったのか……? …………何?」

 後ろを振り返るラウネの制服の裾を、少女が弱々しく握っていた。その表情はどこか不安げだ。

「……大丈夫、だからな。絶対に俺が守るから」

 ラウネは優しく微笑んで見せた。セレナに不安を覚えさせない為だ。黒髪の少女は暗い表情を和らげ、口の中で騎士の言葉を繰り返す。

「ぜったいに……」

 ラウネは力強く頷き、少女の手を引いて立ち上がった。

次回は日曜日の午前零時に更新する予定です。

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