表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Justice Noise  作者: 華野宮緋来
第一章『雑音の鐘』
3/30

黒衣の死神

続けて更新します。明日か明々後日も更新するかもしれません。

《   2   》

 中心の塔、最下層。そこには絢爛な教会が建造されていた。三つの建物に囲まれ、巨大な門が来る生徒達を迎えている。その上部に古い装飾文字で教会の名が示されていた。

 ――上位七大神設立、カーディナル魔道騎士学院。

 上位七大神とは、この国に顕現する神の中で最高峰に位置する存在だ。悪の魔神がこの世にむさぼる世界。その中で正義を背負い、偉大な神々は人々を守る。

 その結果の一つが、魔獣を浄化する“神音”だ。

 並行して、戦力の増大を図る作戦も神々に行われている。その一つとして、通称騎士学院があった。この教会は騎士を育てる学院として機能していた。

 学院の中も教会の如き装飾であった。所々に光を浴びるステンドグラスが設置してある。敷地は広大。教会というにはあまりにも広い場所だ。

 そんな学院の名物である長い廊下を歩く二人組がいる。隣りあって歩く、若い少年と少女。彼らは食堂から出てきたところだった。

「ふ~、食べた食べた」

 膨れた腹を押さえながら、アーシェは満ち足りた声を出した。

「……よくそんなに食べられるな」

 一方のラウネはそれを聞いて、呆れたように声を漏らした。

 二人は真紅色の制服を着ている。騎士学院の生徒だ。

「ラウネの方が食べなさ過ぎるんだよ」

「はあ」

 隣で歩きながら、小さく嘆息を吐く。不満がある様子だった。一拍おいて、いきなりラウネは隣を振り向いた。

「アーシェが異常だ! パン六個は食いすぎだろ。見ているこっちまで気分悪くなったぞ。いいか。どんなに食べたって、お前の貧相な胸は――ぐっ!?」

「セクハラだよ?」

 力説の途中でラウネの表情が苦悶に染まった。二人の足元を見れば、少女が強くラウネの足を踏んでいた。力の具合は相当なものだ。しかし、踏んでいる本人は涼しげである。

「す、す、……すいませんでしたっ!」

「よろしい」

 アーシェの足が離れた。特に気にした様子も見せず、悠々と先を進んでいく。足を引きずるラウネを振り返る気配もしばらくはなかった。

「……ああ、そうだ」

 痛覚に手間取るラウネの名を、アーシェは急に呼んだ。ラウネがそれに応じると、目の前で緩やかに赤茶色の髪が翻った。ラウネとアーシェが正面から向かい合う。

「何だよ」

 何故かアーシェの顔は少し赤く染まっていた。態度も何処かしおらしい。ラウネは訝しげに用件を訊き出した。

「あのさ。……これから、一緒に買い物に行かない?」

「買い物?」

「うん。ほら、今日はもう授業がないじゃないか。だから、久しぶりに第二層へと行こうと思うんだ。……ラウネに用事がなければ……、一緒に行かないかな?」

 魔獣が大量発生した為、今日は午前中で授業が終わっていた。ラウネ達も授業の途中で魔獣退治へと出向いていたのだ。

 短く間を空けて、ラウネが返事を述べる。

「悪い」

 ラウネは視線を逸らし、唇を噛んで断った。返答を聞いた少女の顔が、視界の隅でちらつく。落胆に近い、泣きそうな顔だった。

「あ、……そっか。うん、ごめんね。いきなり誘ったボクが悪かったよね」

 そうじゃない、とラウネの本心が叫ぶ。しかし、唇には強く封がされており、言葉となってアーシェに届くことはなかった。

「じゃ、ボクはもう行くね。ま、またね!」

「あ、おい!」

 逃げるように駆け出すアーシェ。その後ろ姿をラウネは見ることしか出来なかった。

 誰もいなくなった廊下で、一人自虐的な笑みで呟く。

「……本当は予定なんかないんだけどな」

 ――負い目。それが彼女の誘いに乗らなかった理由だ。ラウネにはアーシェとレノンに話していない秘密がある。

 その隠し事は、いつも自分と他人との距離を隔てていた。魔獣退治などの緊急時は問題ないが、先ほどのような日常には支障が出てしまう。

 ステンドグラスが昼間の光に照らされて輝く。長い廊下に少年の影が生まれた。ラウネはそれを踏むようにして歩き出す。

「教室に……戻るか」

 ラウネとアーシェ、レノンが通う教室。そこには一人の男性が居た。一見、目立ちにくい男であったが、その態度はどこかふてぶてしい。

 灰色のローブを羽織った、灰色の髪をした男性。二十代後半近く、鋭い目つきが印象的だ。想像されるのは乱雑な性格であるが、以外にも言葉使いは礼儀正しい。

「やあ、私の授業を真っ先に飛び出していったラウネ君じゃないか」

「うわ、いるし」

「忘れ物でもしたのかな? ああ、熱心だねえ。今度、私から問題をプレゼントしよう」

 言葉は清潔だったが、皮肉がきつく利いていた。その対象となる少年、ラウネは教室の入り口で小さくため息をついている。

「要りませんよ……。鞄を取りに来ただけです。そういうフェルム先生こそ、教室で何しているんですか?」

「ああ! 良くぞ聞いてくれた。実はお前に授業の続きをしてやろうと思ってな。さあ、早く席に着け。妻という存在がどれだけ素晴らしいか、話の続きを早速してやる」

 頭痛を堪えるように、ラウネが額に手を当てる。頭を横に振って、矛盾点を指摘した。

「午前中どころか、今までそんな授業をした覚えはありませんが」

「問題だ。私が妻をどれくらい愛している?」

 フェルムと呼ばれた教師。彼にはラウネの言葉を聴くつもりはないらしく、いきなり問題を出してきた。もちろん、ラウネは答えないつもりだ。

「……っと、はい! 神よりも愛しています!」

「正解だ」

「言ってしまったー!」

「これぞ教育の賜物だな」

「笑顔で言わないで下さいよ! これは単なる条件反射だあああ!」

「ふっ。これで単位がまた一つ増えたぞ」

「これで!?」

 灰色の男は愉快そうに笑った。彼は新婚である。その為、授業に自分の妻について語る機会が多いのだ。調子に乗って、フェルムは冗談交じりに宣言する。

「来週はテストだからな!」

「はいはい」

「本気だぞ?」

 ラウネ達の担任教師、フェルム。元は凄腕騎士だったが、数年前に学院の教師になった。今でも騎士の風貌は漂っている。ラウネの慌てる姿を見ながら、一切隙を作っていない。

「俺、もう帰りますね」

 ラウネが自分の机から鞄を取った。視線を合わせないまま、再び入り口とへと向かう。その足取りは速く、危険な動物から逃げるような動きでもあった。

「おいおい。待てよ。特に用事もないくせに、女の子からの誘いを断ったラウネ君?」

「――っ」

 ラウネは表情を険しくして、辛辣な表情でフェルムを睨む。

「……立ち聞きですか。趣味が悪いですよ」

「立ち聞きも何も、お前たちが勝手に教室の前で話していただけだろ」

 否定するように手を振る教師。彼の表情が真剣になるのは直後のことだった。

「やっぱり、まだ人と関わるのは辛いか?」

「……」

 急に真面目な目つきになったフェルムに押されて、ラウネが辛そうに声を出す。

「そう……ですね」

 ラウネは短く息を吐くと、誰とも知らない机に腰掛けた。話が長引くことを察したのだ。暖かな光によって、机はほのかな温度に包まれている。

「俺は、アーシェやレノンのような普通の人間ではないですからね」

 ラウネは自分の襟元を強く握った。特に鎖骨の辺りを強く掴む。また、唇を同じぐらい強く噛んでいた。

 フェルムはやれやれと、頭を掻く。ラウネにかける言葉を模索しているようだ。当てはまる単語をつなぎ合わせ、教師は生徒に告げる。

「今は出来なくても、いつかは必要な時が来る。それはお前も分かっているよな?」

 以外にも優しい言葉だった。ラウネは微笑を浮かべて、自信をもって答える。

「ええ。フェルム先生には感謝していますよ。だから、先生の為にも俺は強くなって見せます。そして……」

 言葉の途中で、ラウネが天井を見上げた。それは何もない、無機質な天井だ。

ラウネの瞳はその天井を越えて、遥か高い頂上を見つめる。そこにあるのは神の領域。人々の最高権威の場所だった。

「第四層へ駆け上ってみせる、……か」

 フェルムがその先を紡いだ。同じようにして、天井を見上げる。

二人の視線がある一点で交差した。そこでフェルムが口を開いた。

「黒衣の死神だっけか? お前が探しているの」

「……はい」

 ――黒衣の死神。それは八年前の『神名殺し』から広まった噂だ。正体不明の怪物、神か魔神かも知れない存在である。

 ラウネは一旦首を真正面に据えて、語りだした。

「自分でも探している理由はよく分からないんですけど、ただ、どうしても会いたい、もう一度」

「両親を殺した奴かも分からないのに?」

「ええ。だけど、無関係ではないと思います。あの場所に……居たから」

 脳裏に灼熱の広場が浮かんだ。中心には黒い人物が立っている。ラウネが八年前に見た、黒衣の死神だ。今はもう風貌をほぼ覚えていない為、曖昧な黒い輪郭しか思い出せない。

「そうか…………」

 フェルムが静かに口を閉じた。やがて、重い何かを吐き出すように、長く息を吐いた。

「なあ、ラウネ。お前にある依頼を受けて貰いたいんだ」

 誰もいない昼間の教室。そこで持ちかけられた一つの依頼。それが、ラウネ・ユースティティアの運命を大きく変えることになる。

文章力はあまり気にしないで欲しいです。現在はエクステンデッド・ドリームかAIRLINEを読んで判断してください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ