第六三話
「話はここまで。まずは悪霊の浄化を…」
言いかけた秋ちゃんの背後に霊魂が迫る。
けど襲い掛かる前にたくさんのピンク色の花びらが霊魂を包んで消してしまった。
「合図ありがとーね、秋」
「間に合ったようだな」
「姫咲楽、藤臥」
花びらと共に現れたのは二人の鬼。
姫咲楽と呼ばれたのはお姉さん鬼で、ミニスカ着物を着ている。
足が細くてすごく綺麗。
もちろん足だけじゃなくスタイルも抜群の美人鬼。
まさに大人の女性って感じ。
だけどどこか砕けている感じもする。
藤臥と呼ばれた男性鬼は姫咲楽さんとは正反対そうな印象。
美青年で、姫咲楽さんとのツーショットは絵になるんだけど…。
周囲に星を散らしている姫咲楽さんと違い、とてもまじめそう。
ふざけた事とか許さない教師みたいなタイプじゃないかな。
「どぉも初めましてー☆花妖鬼の姫咲楽でぇす☆あ、こっちは藤臥ね」
「俺はついでか…」
「うちの秋がお世話になってます。これからも仲良くしてあげてねー☆という訳で、はいこれ」
全体にギャルギャルした口調であいさつをすると、姫咲楽さんは秋ちゃんに何かを手渡した。
水晶玉みたいで、大きさはわたしの持っている冬の宝珠と同じくらい。
茜色をしていて、紅葉美しい秋を連想しちゃう。
「夏琉がよろしくいってたわよ☆」
「小春もな」
そういって藤臥さんも水晶玉を差し出す。
藤臥さんのは青色で、澄み渡る夏の海って感じ。
…あれ?
なんでわたし、季節を連想したんだろう?
「冬殿!」
バタバタと血相を変えた宿祢が駆け寄ってくる。
その後ろには同じように血相を変えたお姉さんと怖い顔の迦楼羅丸。
わたしったら秋ちゃんに気をとられて霊魂の中を突っ切ってきちゃったんだっけ。
「突然走り出しては危ないでござるよ!」
『冬!無防備に霊魂の群れに飛び込むなんて危ないでしょ!』
「まったく…不用心にも程があるぞ!」
「ご、ごめんなんさい…」
三者三様の怒りの声に謝る事しかできない。
「まあまあ、怒るのは後にしましょうよ」
再び動き出した霊魂を払いながら木虎様が言う。
誠士郎様も戦闘に参加したようで、向こうから銃声が聞こえてきた。
「ご主人、あとどれくらい時間が必要で?」
「五分もいらないよ。四つ揃ったし、一気に片づける」
「了解でさぁ」
なぜか木虎様は秋ちゃんを「ご主人」と呼び、秋ちゃんはそれにため口で答える。
こんなこと普通じゃない。
この二人って、なにか特別な間柄なのかな?
一体どういう関係なんだろう、すごぉく気になる。
それが顔に出てたみたいで、秋ちゃんは苦笑しながら袖の中からプレートのようなものを出した。
そのプレートには四つのくぼみがあって、姫咲楽さん達から渡された宝珠がすっぽりとはまった。
プレートの端には紐がついていて、もしかしたら首から下げる事が出来るのかもしれない。
秋ちゃんはさらに袖の中から同じサイズの茜色をした宝珠を取り出してはめた。
「冬の持っている冬の宝珠を貸してくれるかな」
「うん、わかった」
宿祢に手伝ってもらって帯の隙間から宝珠を取り出し秋ちゃんに渡す。
秋ちゃんは宝珠を最後の穴にはめると、幽霊のお姉さんにプレートを差し出した。
「制御をお願いします」
『私が?』
「貴女になら、簡単に制御できるはずですから」
「え?秋ちゃん、お姉さんが見えるの?」
「色々あってね。今は霊魂の浄化に集中しようか」
やんわりと誤魔化されちゃった。
お姉さんは少し考えてからプレートを受け取る。
触れるのは霊力を腕に集中させているからなのかな?
そのあたりの仕組みはまだよくわからないわ。
「誠士郎は万が一に備えて霊力の温存を。新さん、七伏、八彦、木虎は不測の事態に備えていつでも動けるように」
「わかった」「あいよ」「言われなくてもやってやるよ」「了解っす」「了解でさぁ」
秋ちゃんの号令に全員が返事をする。
その統率のとれた信頼関係は、なんの違和感もない。
力強い返事を聞き、秋ちゃんはお姉さんが持つプレートに手をかざす。
「春告げる鳥は唄い、夏の星は蛍のように踊り、色づく木の葉が風に舞えば、やがて冬空に大輪が咲く」
秋ちゃんの呪文に応えるように、四つの宝珠が一つずつ輝きだす。
藤臥さんが持っていた青の宝珠は桃色に、姫咲楽さんが持っていた茜の宝珠は青色に、秋ちゃんが持っていた茜の宝珠は茜色に、わたしの冬の宝珠は白銀に。
この感じ、もしかしてあの三つも四季の宝珠?
ふわりと、わたしの周りに雪の結晶が現れた。
それは冬の宝珠が力を貸してくれた時と同じように、でも少しだけゆったりとした動きで。
同じように秋ちゃんの周りには色づいたモミジやイチョウが舞う。
「なに?なんなの?」「これは…?」
結依ちゃんと泰時様が驚きの声を上げる。
見ると二人の周りでも変化が起きていた。
結依ちゃんの周りには色とりどりの花びらが、泰時様の周りには蛍のような柔らかな光が、それぞれ二人を包み込むかのように足元から湧き上っている。
「見つけた」
そう呟いた秋ちゃんの意図はわからない。
けど、この現象を引き起こしたのが秋ちゃんだとすぐにわかった。
『この気配、まさか識織?』
お姉さんが宝珠と秋ちゃんを交互に見る。
なにかに気づいたみたいだけれども確信が持てない、そんな顔。
どういう事かわからなくて、わたしはただ秋ちゃんを黙って見ている事しかできない。




