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四季の姫巫女  作者: 襟川竜
冬の章 第四幕・愉比拿蛇
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第五六話

そんな紅葉風の中から、人が現れ着地する。

高く一本に結われた若草色の髪。

使用人用ではない男性物の着物。

中性的な顔立ちもあり、顔見知りでも男と認識してしまう可能性があるほどに凛々しい。

だがしかし、その姿に似つかわしくない子供向けの髪飾りが、この人物が誰なのかを教えてくれている。

「秋君!」

焦りの表情から一転、安堵の笑みを浮かべた誠士郎に微笑み、秋は充実に向き直った。

「七伏の使用許可、当然()りますよね」

「…仕方あるまい」

含み笑いを浮かべた秋に充実は渋々承諾する。

啼々一族の恥とは言え、今は一人でも多く戦力が欲しい。

返答を聞いた秋はすぐさま空を仰ぎ声を張り上げた。

「だそうだよ、七伏」

「事後承諾かよ!」

ツッコミの声と共に空から塊が降ってくる。

ずしんという軽い地響きをならして着地したのは、たった今許可が下りたばかりの啼々竈七伏だった。

体重百キロを越える巨体を揺らし、七伏は右の拳を大きく振りかざして地に打ち付けた。

また少しの地響きをたてた拳は、周囲に円形状に広がる衝撃波を飛ばす。

人体に影響はないが、衝撃波に触れた霊体の霊力(もしくは妖力)を奪い無力化してしまうのが啼々竈の力だ。

低級霊魂の力を奪い無力化させるなど、七伏には朝飯前。

力を奪われた霊魂達はふらふらと宙に浮かんでいる。

飛ぶ力さえ出せない霊魂も数多く見受けられた。

「ほらよ」

「ありがとう」

ふんと鼻を鳴らした七伏に応え、秋は手にしていた刀を掲げる。

刀身に稲妻が走るその武器は秋の霊具だ。

雷電光波(らいでんこうは)建御雷(たけみかづち)

秋が叫ぶと同時に刀身に纏わりついていた稲妻が周囲の霊魂を直撃する。

バチィ、という雷鳴が少し遅れて耳に届いた。

雷の直撃を受けた霊魂は一斉に浄化されこの場から姿を消した。

それまでパニック状態だった当主達はぽかんと口を開け、呆けた顔で秋を見る。

半透明な蛇は姿を消していた。

浄化された痕跡はなく、稲妻に撃たれて怯んだのだろうか。

「誠士郎、銃貸して」

「うん」

呆けた当主達を無視し、秋は何食わぬ顔で霊具をしまうと誠士郎から銃を受け取る。

回転式拳銃(リボルバー)握り手(グリップ)の底部分に、何やら穴が開いている。

そこに一方が腕輪に繋がっている(コード)を差し込んだ。

「霊力弾は数が限られているから、緊急事態はこうして使えって」

「これは?」

「その腕輪をはめれば、誠士郎の霊力を動力源にして無限に撃てるようになるらしい」

「へぇ、俊さん凄いね」

秋から拳銃を受け取り、誠士郎は臆することなく腕輪をはめる。

「まあ、誠士郎の霊力が切れた時が弾切れって事にはなるけども」

「僕も戦力になれるなら十分だよ」

「最初から戦力として見てるから」

「本当に?」

「もちろん」

「よかった」

秋の答えに嬉しそうに笑う誠士郎を見て七伏が舌打ちをする。

今はそんな事している場合じゃないだろう、そう顔に書かれていた。

「充実様、封印はもう役に立たないとみて間違いないでしょう。僕達は里に散らばった霊魂全てを浄化します。これで愉比拿蛇の戦力を削る事が出来るはずです。充実様達は姫巫女達と協力して人々を秋桜館まで避難させてください」

「秋桜館に?」

「ええ。この結界は里を包むものですが、秋桜館は範囲外です。霊体を一切通しませんから霊魂は追ってこれません」

「なるほど、里の外は安全という事か」

「すでに紅椿さんにお願いして避難誘導を開始しています。木虎達が護衛についていますので、交代してください」

「し、使用人風情が我々に命令するのかね!」

当主の一人が震える声で訴えた。

腰が引けているにもかかわらず、妙なプライドがあるらしい。

その訴えにプライドの高い他の当主達も賛同する。

「ま、まったくだ。第一、お前にそんな権限はないはずだ!」

「充実様に頂いた権利を僕が秋君に譲ったのです。…あれ?報告していませんでしたか?」

「なっ」

しれっと言った誠士郎に、当主達が絶句する。

充実だけはそんな事だろうと思っていたのだろう。

やれやれと溜息をつき、当主達を促す。

「お前達の好きにしろ。その代り、必ず霊魂をすべて浄化するのだ。愉比拿蛇の件は落ちついてから策を練り直す」

「かしこまりました」

使用人らしく深々と頭を下げた秋を見て、充実は苦虫を噛み潰したような顔になる。

先手を打ってくる秋に対してどう思ったのかが手に取るように分かった。

「七伏、新さんのフォローに回って」

「新左エ門のフォローだぁ?」

「新さんにも誠士郎と同じ銃を渡してあるから、変換してあげて」

「あー、あいつ霊力ゼロだもんな。まったく、世話が焼けるぜ」

そういうと七伏は大きく跳躍した。

あの巨体からは想像できない速さで里の出口へと向かう。

説明しなくても新左エ門が避難の護衛についている事を察したのだろう。

「誠士郎は…」

「僕は一人でも大丈夫だよ。手分けした方が効率いいでしょう」

「話が早くて助かるよ。じゃあ、ここは任せるね」

「気を付けてね」

登場した時と同じように紅葉風に乗ってこの場を去る秋を見送り、誠士郎は呆然と成り行きを見守っていた弥生達に視線を向ける。

「話は理解できた?」

「少しは。あの人、何者なの?」

「説明は後だよ。動けそうかい?」

「ことりがまだだから…。目を覚ましたらすぐにここを離れるわ。あたし達はいいから、お兄様は行って」

「わかった。弥生、気を付けるんだよ。美園様と月子様も」

「は、はい」

「誠士郎様もお気を付けて」

歩き出した誠士郎をようやく我に返った美園と月子が見送る。

弥生は警戒しつつも少し安心したようで、誠士郎達がきっと何とかしてくれるだろうと、根拠はないがそう思った。

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