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四季の姫巫女  作者: 襟川竜
冬の章 第四幕・愉比拿蛇
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第五四話

雪は降らず、久々に太陽が顔を出して周囲を照らしている。

いすゞの里を囲むようにして次々と上がる光の柱は、冬が無事に結界を作動させたという証拠だ。

里全体を光の結界がドーム状に包みこんだ。

これで霊体の良し悪しに関わらず、一切の出入りが禁じられた。

傍目には透明で結界が張られているようには見えないが、よく見ると結界の向こう側が若干色()せて見える。

里の各地に散らばった啼々蔭(ななかげ)達が結界の漏れがないかをチェックし、充実に報告する。

それを受け、充実は儀式の開始を指示した。


封印の勾玉に祈りを捧げる。

何重にもかけられた古い封印の上から、さらに封印をかけて強化する為の呪文をことりが唱える。

ことりから一歩下がった位置に姫守の三人が控え、同じように呪文を唱える。

その様を当主達が黙って見守っていた。

万が一結界の隙間をついて妖気が漏れ出さないようにと、周囲にはさらに結界を施してある。

それでも油断はできない。

緊張感に包まれつつも、(おごそ)かに儀式は進行した。

愉比拿蛇(ゆひなじゃ)を封ずる結界が次々と強化され、張り直されていく。

後一つで儀式は終了するというところまできた。

油断していたわけではない、むしろ最後だからとさらに緊張感を高めて結界を張り直そうとした。

だが、張り直しの一瞬の隙をつき、勾玉から勢いよく邪気が吹き出した。

突風のように邪気がことり達を襲う。

背筋に悪寒が走るが、今が一番大事なところだ。

強風の中で話をするのが難しいように、強烈な邪気の中で呪文を唱えるのはかなり難しい。

息苦しさに耐えながら姫巫女達は儀式を続けた。


ふと、誠士郎と弥生が何かに気づいた。

啼々一族の中で特に強い霊力を持っているからだろう、微かな邪気の変化に気づけたのだ。

「「ことり!」」

二人が同時に叫ぶ。

だが、一足遅かった。

勾玉から長い何かが現れ、ことりを薙ぎ飛ばした。

悲鳴を上げる間もなくことりは飛ばされ、近くの木に体を打ち付ける。

勾玉から現れたのは半透明な長いもの。

鱗のような物が見えることから蛇のしっぽである可能性が高い。

「こ、ことり!?」

「なに?どういうこと!?」

突然の事態に美園と月子が狼狽(うろた)え、呪文が止まる。

封力が弱まった瞬間を見逃すはずもなく、霊魂が次々と沸き出した。

数え切れない霊魂は愉比拿蛇の手下と考えて間違いないだろう。

木に打ち付けられ気を失っていることりを狙って襲いかかろうとする。

「はっ」

間一髪のところで誠士郎の結界がことりを包んだ。

結界に弾かれた霊魂達はすぐさま標的を変え、近くにいた月子と美園へと襲いかかる。

パニックを起こしかけている二人はどうすることもできずに悲鳴を上げている。

すぐさま誠士郎が二人を包む結界を張り、弥生が霊具で追い払う。

だが、数が多い。

当主達も霊具は使えるし、啼々一族のトップ充実を守る為に啼々蔭虎次郎も戦列に加わるが、多勢に無勢というものだ。

次から次へと溢れ出す霊魂は近くにいる者に襲いかかったり、物を壊したりと里中に散らばっていく。

誠士郎の結界は強力ではあるが、張る為にはそれなりの集中力が必要になる。

四方八方から霊魂が襲い来るこの状況では、うまく集中できない。

里全体を包むような大きい結界には集中力が、個人にかける小さい結界には対象を視界に入れる必要がある。

誠士郎は自身に制限を掛ける事で、結界の強度と精度を上げているのだ。

あまりの数に及び腰になっている当主達に個人結界を掛けつつ、誠士郎は背後からの攻撃を交わす。

すかさず隠し持っていた拳銃で霊魂を撃つ。

声なのか悲鳴なのかよくわからない音をあげ、霊魂は光の粒子となり消えていった。

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