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四季の姫巫女  作者: 襟川竜
冬の章 第四幕・愉比拿蛇
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第五二話

「それで、お前の本当の目的はなんだね」

「いやですねぇ、充実様。その言い方じゃあまるで私が何かを企んでいるかのようじゃないですか」

冬の姿が見えなくなるのを待ってから充実は口を開く。

どこか疑いの眼差しで自身を見る充実に、木虎はにこにこと笑顔を浮かべたまま返した。

微かに険悪になる二人を虎丸が交互に見る。

さすがの泰時もただ事ではないと感じ取るが、口を挟むわけにもいかずただ二人のやり取りを黙って見ていた。

「ただチョコレートを渡しに来た訳ではないだろう」

「そりゃそうですよ。それは虎の用事ですから」

「まさか、『弟の付き添い』がお前の用事ではないだろうな?」

「もちろん。ちょっとした報告と確認をしに来たんですよ」

「ほう?」

すぅ、と充実の目が細められる。

その行為に恐れをなしたのか、虎丸は木虎の背後に隠れた。

だが木虎はそんな虎丸を前に押し出す。

「今回、泰時君の護衛は虎が担当します」

「え?…えええええええ!?」

充実や泰時が驚くよりも先に虎丸が声を上げた。

本来、注魂の儀式のような大事な儀式では参加する啼々家の人間を啼々蔭家の人間が護衛する。

今まではずっと啼々家当主の充実を啼々蔭家当主の虎次郎(木虎と虎丸の父)が護衛し、次期当主の泰時を木虎が護衛してきた。

専属で護衛する対象がいない啼々蔭家の人間は全体の警備に参加し、影から守るのである。

今回も自分は一般警護に回ると思っていた虎丸が驚くのも無理はなかった。

「あああ兄貴!あっし、そんな事一言も聞いてないでやんすよ!」

「うん、だって今初めて言ったし」

「そ、そんなぁ…」

泣きそうになる虎丸を見て泰時はため息をつく。

仮にも啼々蔭家の人間が、こんな事で動揺してどうするのだと、頭が痛くなる。

「それで、お前はどうするのだ?」

「誠士郎側に加わります」

「……」

断言した木虎に、何の話だ?と泰時と虎丸は疑問の眼差しを向ける。

だが充実は黙ったまま、ただ眉を寄せただけだった。

「そういう事でして、七伏の件についての返答をいただきに参りました」

「…どうしても必要かね?」

「もちろん。俊介が居ないのは痛いし、今の姫巫女達には絶対に無理。なにより、秋祇の力を必要とするのは充実様達の方でしょう?」

含みを持った木虎の発言に、充実の眉がぴくりと跳ね上がる。

ピリピリとした空気が辺りに溢れ出し、泰時と虎丸を冷や汗が流れる程の緊張感が襲う。

「まあ、正午まではまだ時間があります。ゆっくり考えてください。では」

くすりと笑うと木虎はそのまま背を向けて歩き出した。

その背を虎丸は呆然と見送る。

このまま後を追ってもいいのかわからない、と顔に書かれていた。

「紅椿、後の指示を頼む。泰時、虎丸に流れを説明してやれ」

不機嫌そうに告げ、充実はさっさと歩き出した。

後に残された泰時は、自分を不安そうに見る虎丸にため息をつく。

一つしか違わないというのにこの情けなさはなんなのだろうと、すぐに泣きそうになる虎丸を見るたびにそう思う。

「兄貴、なんかいつもと違うでやんす。どうしたんでやしょう?」

「さあな。七伏とか秋祇とか、そういうのが関係しているんだろ」

「それ、なんなんでやしょうかね」

「人名かなんかじゃないのか?」

「泰時は知らないんでやすかい?」

「知っていたらこんなに不安には…」

「不安?」

「な、なんでもない。それより、お前ちゃんとボクの護衛が出来るんだろうな?」

「え?えーと…」

自分が不安になっているなどと虎丸にだけは知られたくない。

そう思って慌てて誤魔化す泰時だったが、急に目を逸らしてだらだらと脂汗をかき始めた虎丸にますます不安が募った。

「大丈夫、だよな?」

「あっしの戦闘力の低さ、泰時はよく知ってやすよね?」

えへっ、と笑った虎丸を見て、泰時は盛大にため息をついた。

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