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四季の姫巫女  作者: 襟川竜
冬の章 第二幕・宿祢
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第拾九話

冬の必死の攻撃は、听穣に当たる事はなかった。

だが、それでも一瞬とはいえ隙を生じさせた事は事実。

その隙を迦楼羅丸が見逃すはずがない。

驚く宿祢の腕を引き、周囲にいた天狗を二、三人蹴り飛ばす。

そのまま听穣に接近し、掌底突きを入れた。

だがその攻撃は軽くかわされる。

迦楼羅丸はかわされると読んでいたのだろう、転びかけていた冬の腕を掴んで宿祢へと放り投げた。

「きゃっ」

「冬殿!」

軽々と宙を舞った冬を、慌てて宿祢が受け止める。

「小娘がお前を守ると決めたんだ。さっさと逃げな」

「し、しかし…」

「いいから逃げるよ!」

躊躇う宿祢の腕を引き冬は走り出した。

「逃がすな、追え!」

听穣の指示に天狗達が後を追おうと走り出した。

だが、その前に迦楼羅丸が立ちはだかる。

「行かせやしねぇ」

手のひらを天狗達に向け、なにやら(まじな)いを唱える。

すると、その手から紅く鮮烈な炎が噴き出した。

「鬼火!」

轟々と燃える炎は渦を巻き、天狗達に襲い掛かる。

「させぬっ!」

听穣は炎の正面に立ち刀を薙いだ。

その剣圧で炎を一刀両断にする。

「行けっ!何としてでも宿祢の首をとれ!」

その言葉に駈け出す天狗達を蹴り飛ばし殴り飛ばすも、迦楼羅丸一人では手が足りない。

横をすり抜けた何人かの天狗達が冬の後を追った。

「ちぃっ」

「お前さんの相手は、俺がしてやるぜ」

「ふん。貴様では役不足だ」

「試してみるかい?」

ニヤリと笑う听穣を見て、迦楼羅丸は少し距離を取った。

再び炎を出すが、今度は放つのではなく、刀へとその姿を変える。

「へぇ。鬼ってのはそんな事も出来るのか」

「風を操る天狗とは相性が悪そうだがな」

両者とも距離を取り、隙を伺う。

風で木の枝が揺れ、果物同士がぶつかり音を立てた。

それを合図に、両者は走り出し刃を交えた。



※ ※ ※



『どこへ行くつもりなの?』

「わかんない!」

道なき道をひたすら走る。

今日も相変わらず濃い霧で先なんて全く見えない。

それでも足を止める訳にはいかない。

だって、捕まったら宿祢が殺されちゃう。

そんなの、絶対に嫌!

「逃がすな、追え!」

遠くから天狗達の声が聞こえる。

視界の悪さは一緒だもの、どこかに隠れてやり過ごせれば…。

「冬殿は拙者を置いて…」

「絶対に嫌!」

「どうしてっ」

「どうしても!」

時々止まりそうになる宿祢を無理やり引っ張って走る。

これはもうお節介を通り越しているかもしれない。

通り越しているどころか、ただのわがまま。

そう、これはわたしのわがまま。

宿祢に死んでほしくないっていう、わたしのわがままだ。

「わたしはっ、何でかわからないけれど、宿祢に死んでほしくない」

「しかし、このままでは冬殿も殺されてしまうかも…」

「それでも!それでも、わたしは…」

握る手に力を込めた。

なんて言えばいいのかよくわからなくて。

自分の気持ちなのに、全然わからなくて。

このほうが、伝わる気がしたから。

「わたしは、宿祢に生きていてほしい」

「冬殿…」

「だって宿祢は、七草冬になってから、初めて仲良くなった人だから」

七草冬として初めて出会った人で、初めて仲良くなった人。

あ、人じゃなくて天狗か。

わたしが女中の『冬』から『七草冬』になって、初めて出会った知らない人。

初めて仲良くなって、助けたいって、力になりたいって、心から思った人。

今のわたしには、こうやって宿祢の手を引っ張って逃げる事しかできないけれど。

それでも、わたしに出来る精一杯で宿祢を守りたい。


どれくらい走ったかわからないけれど、ついでに言うならばここがどこかもわからないけれど、いつの間にか回り込まれていたらしく、木々の間から天狗の姿がちらほら見える。

「冬殿、向こうはダメだ」

『こっちも駄目よ』

「じゃあこっち!」

限られた選択肢の中で走っていると、突然視界が開けた。

勢いよく飛び出したわたし達は、慌てて足を止める。

目の前に道はなく、というか地面がない。

どうやら崖に出てしまったみたい。

霧のせいで高さは分からないけれど、たぶん落ちたら一貫の終わりだと思う。

来た道を戻ろうと振り返ると、天狗達が木々の間から現れた。

もしかして、誘導されたのかな?

「宿祢、大人しくこちらに来い。そうすれば娘は見逃してやろう」

「…どうやら、ここまでのようだな」

「諦めちゃだめだよ!」

わたしを庇うように宿祢が前に出た。

どうしよう、このままじゃ宿祢が…。

『わたしに戦う力があれば…』

幽霊のお姉さんが悔しそうに爪を噛んだ。

お姉さんにはたくさん助言をしてもらった。

迦楼羅丸様にも助けてもらっている。

宿祢はわたしを守ろうとして捕まろうとしている。

わたし、みんなに助けてもらってばかりだよ。

せめて、宿祢だけは、わたしの手で守りたい。

なにかないかと周囲を見回すと、崖下のわりと低い位置に気が生えているのが見えた。

あの気に飛び移れれば、天狗達の目をごまかせないかな?

霧も濃いし、うまくいくかわからないけれど。

「宿祢、その羽は、飾りじゃないよね」

「う、うむ。ちゃんと空は飛べる」

気づかれないように小声で確認する。

怪我をしている宿祢には酷かもしれないけれど、この際そんな事言っていられないよ。

「投降しないというのなら、こちらから行くぞ!」

天狗の一人が、刀を抜いて迫ってきた。

もう時間がない!

一か八かだぁぁぁぁ!!!

「てりゃぁぁぁぁ!!」

「へ?…うわぁぁぁぁ!!」

『冬!?』

「何!?」

わたしは宿祢を引っ張って崖から飛び降りた。

宿祢は絶対に、殺させないんだから!

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