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残・忘

先に口を開いのはスフェーンです。厳しい一言を放ちました。

「殺されたく無いなら去れ」


恐ろしい一言です。

しかし、パールは余裕な様子で答えました。

「やはり、スフェーンでしたか。この、手紙は」


パールは、手紙を取り投げてスフェーンに渡しました。

スフェーンは冷静です。手紙を握り潰し威嚇しました。

「分かっているのなら、何故に去らないのだ。私は、全てを知っているのだぞ。いつ、首がはねられても文句が言えぬ立場であろう」


パールは平然と答えました。

「全く、身に覚えはございません。因縁をつけてくるのは辞めて頂きたいわ。寧ろ、スフェーンこそ首をはねられる存在ですわ」


スフェーンとパールは、黙り込みました。

お互い、睨み合い隙を見せないのです。

スフェーンは宣言します。

「私は、12月に皇帝になるのだ。お前のような女は要らぬ」


パールは睨みつけます。

「馬鹿らしい。どいつもこいつも皇帝、皇帝。私は軽蔑いたします。成りたければ成れば良いでしょう。私には関係ございませんもの。ただ…」


パールは上目遣いで言いました。

「ただ、私に要られては困る理由でも有りますの?」


言い終えると、パールはキセルに手をのばし火をつけました。その態度は、まるで女王のような傲慢な態度です。

スフェーンは、鋭い瞳で睨みます。

「パールよ、お前は私と同じ立場だと考えているが、それは大きな間違いだ。お前の真実ほど恐ろしいものは無い。私は猶予を与え続けたのだ、分からぬのか?」


パールは、苛立ち始めます。

14才の子供に偉そうにされる事が堪えられなかったのです。

「生意気な。私の真実?恐ろしかろうが知ったことではありません。スフェーン、貴女の真実も似たようなものです。私は正義を胸に動くのです。貴女は、ただの復讐心でしょう」


言い終えるとキセルをふかし、窓の外を向きました。

スフェーンは睨んだまま、しばらくの沈黙。

そして、意味有り気な笑みを浮かべ言いました。

「私も同じだ。真実の正義のため戦った。悪魔を自由にはさせないと。パール、お前は嫉妬心に捕われた悪魔だ」


パールがキセルの煙りを漂わせ無視をしていると、スフェーンは強めに言いました。

「もう一度だけ言おう。

パールよ、殺されたくなければ去れ。約束したなら生かしてやろう」


パールは、口から煙りを優雅にふき紫煙に包まれながら無視をしました。

スフェーンは、しばらく待ちましたがパールの答えは「いいえ」であると認識しました。


最後にスフェーンは言いました。

「キセルも良いが、ほどほどにな。さらばだ、パール」


言い終えるとスフェーンは帰っていきました。

パールは「お互い様」と呟きました。

11月の中頃、悲劇が襲います。

パールが危篤状態に陥るのです。

パールは苦しみ、息をするのに精一杯。

声は出ず、うめき声ばかりあげます。

意識は、有るのか無いのか分かりません。



帝国内は、また死者が出ることに恐れました。

「やはり、呪われている」


「だが、今は国民の喜びを妨げる訳にはいかない」


「妾なのだ、無かったことにしよう」


「輝かしい即位の式典の準備をしなければ」


あれほど、パールを祝福で迎えた者達は手の平を返したように、パールを罵りスフェーンを祝福しました。


パールの部屋には、医者と神父のみ。

パールは苦しみ、息苦しいと悲痛の表情ですが手の施しようが無いのです。

鎮静剤で落ち着かせる毎日が続きました。



一週間、苦しみ続けたパールは錯乱状態になり、最後に怒鳴り声をあげました。


「これで、お相子だ!」


これが、パールの最後の言葉になりました。



パールの葬儀は少人数で極秘に行われ、スフェーンは姿をみせませんでした。




帝国内は、スフェーンの即位に向けて大忙しです。

スフェーンの衣装、式典の準備、進行役の選抜など、しなくてはいけない事ばかり。寝る暇を惜しんで準備に取り掛かります。

忙しく休む暇もありませんが、スフェーンの即位式を想像すると胸が高まり疲れを忘れるほどです。

久々の、嬉しい出来事だからです。


スフェーンも演説の練習、作法を繰り返し練習をします。


国民の期待も高く、お祭りのような雰囲気に満ちていました。

「ついに、スフェーン様の即位」


「女性の皇帝だなんて感動」


「アンバー皇帝とガーネット妃の娘だ。間違いなく英知に恵まれた女性だ」


「他国も驚くだろう」


期待感が沸き上がってきます。


民衆の言う通りで、他国の者たちも驚きます。

それほど、女が皇帝になることは異才を放っていました。


即位式を見ようと、他国から人は集まりカルサイト帝国は大いに盛り上がります。

暗い空気に包まれていたカルサイト帝国が賑やかさを取り戻しました。

民衆は、それだけでも満足してしまいます。


明日は、待ちに待った即位の日。

スフェーンの姿を、見れることを国民は喜び合いました。

12月の冷え切った空気、空は高く、雲一つありません。

晴れ渡り、気持ちの良い日です。


今日は、待ちに待った即位式です。


国中が歓喜の声をあげます。

【スフェーン皇帝!万歳!】


【スフェーン皇帝!祝福!】


【カルサイト帝国に栄光あれ!】


口々に、祝福の言葉を叫びます。ついに、最高の指導者になるであろう皇帝が誕生するからです。



スフェーンは、見事な衣装に着替え式典が始まる直前まで自室にいました。


椅子に座り、鏡に映る自分の顔を見つめています。


スフェーンは、鏡に映る自分に向けて呟きました。



「父上、母上、私は正義を貫きました。パールよ、勝負は相子だ」



言い終えると、立ち上がり部屋を後にしました。




歓喜にわく国民、帝国の周りには国中の者と他国の者が集まりました。大変な賑やかさです。


どれほど、この日を待ったか分かりません。

待ちに待った時間が近づく事に感動しています。

暗く長い時を経て、ついにこの時がきたのです。



国民の歓喜の声を帝国最上階にある場所から聞き、スフェーンは目を閉じ息を吸いました。

そして、鋭い青の瞳に力を入れ歩きはじめました。


ゆっくり、ゆっくりと。



民衆が上を見上げ、一気に歓声がわきました。


「上を見ろ!スフェーン皇帝だ!」


「スフェーン皇帝!万歳!」


「カルサイト帝国!万歳!」


スフェーンは、威厳と誇りに満ちた表情で国民を見渡しました。


そして、宣言します。


「カルサイト帝国は、永久不滅!永劫不滅だ!」




スフェーン皇帝が治める、カルサイト帝国は他国からも一目置かれます。

英知に恵まれたスフェーン皇帝の国政は、カルサイト帝国を繁栄させました。

そして、崩れる事の無い確実な地位を築き上げたのです。

その後、カルサイト帝国は500年という長きにわたり世界の頂点に君臨しました。


この地盤を作り上げた、スフェーンの名は歴史に刻まれ永遠に残ります。


偉大な父アンバーと母ガーネットの名も歴史に刻まれます。


栄光あるカルサイト帝国を作り上げた三人は、揺るぐことのない偉大な人物となりました。



一つの真実と一つの人物を消し去って。



ローズブーケ

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