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三,宿敵

ある夜、帝国内は賑わっていました。

美しい衣装の男女、たくさんの料理に音楽家。

今日は、カルサイト帝国の生誕100年祝いが開かれています。

アンバー皇帝は、久々に楽しい時間を過ごします。

国中の貴族が集まり、一人一人挨拶にきます。


「皇帝陛下、貴方様の優れた才により国は豊かになりました。100年の長きにわたるカルサイト帝国、その歴史上でアンバー皇帝の功績を越す方はおりません」


貴族は口を揃え、アンバー皇帝を讃え祝福します。

民衆は苦しい生活をしているのに、貴族は優雅な毎日を送っています。

実の所、アンバー皇帝がくだした税よりも、貴族が巻き上げる税の方が遥かに重いのです。

しかし、民衆はそんな事を知らずアンバー皇帝への不満を重ねていたのです。



ガーネット妃にも貴族は挨拶をします。

しかし、ガーネット妃は6歳になるスフェーンに挨拶するよう促すのです。

貴族は戸惑いながらも、逆らわず頭を深々と下げました。

その様子は、滑稽で笑ってしまう者もいました。


しかし、スフェーンは6才だというのに堂々たる態度なのです。

貴族が、あやすような態度をとるとスフェーンは言います。


「私はスフェーンだ。それを分かっての行いか?」


貴族は、慌てて謝罪と敬意を示すのです。


ガーネット妃はスフェーンが立派に育っている事に微笑みます。

しかし、アンバー皇帝は「なんて傲慢な女なのだ」と、軽蔑しました。

そして「何故、女なのだ」と悔しくなるのです。

スフェーンを見ると苛立つため、アンバー皇帝は貴族の挨拶に集中しました。



何人もの挨拶が済み、最後の一人になりました。アンバー皇帝は「やっと、終いだ」と思い次の貴族を見ました。


年は20代後半の女性がたっていました。


女性は、一礼すると歩みよってきました。

アンバー皇帝は思わず魅入ってしまいました。

その女性は、アンバーと同じ銀の髪に青の瞳、小柄ですが優雅で気品に満ちていたからです。

女性は声を出しました。

「皇帝陛下、おめでとうございます。私は、パールと申し上げます。お初にお目にかかれ嬉しく思います」


アンバー皇帝は、このパールと名乗る女性を大変気に入りました。


パールは魅力的に微笑み、アンバー皇帝へ祝福を述べ終わると、次はガーネット妃へ挨拶をします。

「お妃ガーネット様、おめでとうございます。私はパールと申し上げます。お初にお目にかかれ嬉しく思います」


パールは同じ挨拶をし、スフェーンへも同じ挨拶をしました。


アンバー皇帝は、パールを目で追います。

しかし、パールはすぐに離れ人々の中に紛れてしまいました。

その日から、アンバー皇帝はパールが忘れられなくなります。

朝も昼も夜も。パールが頭から離れないのです。


一方の、ガーネット妃はアンバー皇帝には興味がなくスフェーンの教育に熱心です。

スフェーンは、素晴らしく才能に満ち溢れた才女となっていきました。

母国語に加え、三ヵ国の言語を取得し、楽器や歴史、乗馬まで熟します。


しかし、いくら才能があったとしても女は皇帝になれないのです。

帝国内は、完全にアンバー派に染まっていました。



ある日、アンバー派の一人が言いました。

「世継ぎのためにも、やはりアンバー皇帝に妾を持って頂こう」


周りも賛同しましたが、アンバー皇帝は妾というものを酷く嫌っていたのです。

何度か奨めたのですが、アンバーは決して首を縦に振りませんでした。

しかし、悠長な事は言ってはいられないと帝国内の人々は言い、アンバー皇帝へ妾を持つよう提案したのです。

「皇帝陛下、是非とも妾を!お世継ぎのためにも」


アンバー皇帝は悩みました。冷え切った関係だとしても、ガーネット妃を大切に思っていたからです。

それに妾は面倒事を起こす人物だと、アンバー皇帝は考えていました。

自身の幼い頃、妾をめぐっての醜い争いを見てきたからです。

悩むアンバー皇帝へ、再度訴えました。

「ならば、公に認めさせれば良いのです。公妾として!」


この言葉に、アンバー皇帝は揺らぎました。

畳みかけるように、アンバー皇帝へ訴えます。

「皇帝陛下、身分の高い女性ならば問題ありません。パール夫人という、未亡人の女性がおります。彼女なら公妾として相応しい器を持っています」


アンバー皇帝は忘れられない女性の名前を聞き、胸がときめいてしまいました。

アンバー皇帝は頷き言いました。

「よかろう。パールを連れてまいれ。公妾とし、迎え入れようぞ」



帝国内は、歓喜の声で溢れ返りました。

ついに、世継ぎが産まれると口々に言い合うのです。


ガーネット妃の耳にも入ります。

しかし、ガーネット妃は怒りや不安も感じませんでした。

自分が正妻である事に、変わりはないと考えたからです。


帝国内が色めき立とうが、ガーネット妃は変わらずスフェーンの教育を続けました。

帝国に、パールが入る日が来ました。

公妾ですから、隠す必要もありません。

帝国内は、まるで正妻を迎え入れるかの如く祝福しています。

アンバー皇帝も期待に胸が高まります。



しかし、ガーネット妃だけは部屋に閉じこもりスフェーンの教育をしていました。

もう、ガーネット妃の味方はいません。スフェーンに付けた教師ですら、来なくなってしまったのです。

しかし、ガーネット妃は何事も無いかのようにスフェーンを可愛がり、厳しく育てるのです。



お昼頃、パールが帝国内に入りました。

美しい黒のドレスを纏った美女に、人々は魅入りました。案内の者が、アンバー皇帝の部屋まで案内します。パールは優雅に微笑みながら歩いて行きました。


アンバー皇帝の部屋の前で立ち止まり、案内係は扉をゆっくりと開けました。

アンバー皇帝とパールは、しばらく見つめ合います。

アンバー皇帝が先に声をかけます。

「パールよ。よく来てくれたな。さぁ、入れ」


パールは一礼をしてアンバー皇帝の部屋に入りました。


帝国内は、ざわめきます。

「ついに、世継ぎが産まれる」


「麗しいパール夫人に祝福」


「国民にも、知らせよう」


パール夫人の話しは、すぐに国民に伝わりました。

皆は祝福を送ります。


「世継ぎが産まれれば、この苦しい生活から解放される!」


国民は信じていました。

帝国内、国民、国全体が祈ります。


「今すぐにでも、男子を!」



国がざわつき、帝国内もアンバー皇帝とパールに注目しました。

その間、ガーネット妃は忘れ去られます。スフェーンの存在は、始めから無かったかのようでした。


ガーネット妃は、周りが騒ぎ離れようが落ち着いています。10才になるスフェーンを、満足げに見て言い聞かせるのです。

「スフェーン、貴女は皇帝になるべきとし誕生しました。自信と誇りと友愛の心を持ち、このカルサイト帝国を治めるのです」


スフェーンはガーネット妃の目を見つめ答えます。

「母上の教えを守ります。必ずや、カルサイト帝国を守り抜きます」


スフェーンの目は、年齢が上がるに連れ、父親似の鋭い青の瞳になってきました。

パールは名の如く、健康的で純粋で明るい女性です。

そんなパールに、アンバー皇帝は癒されます。

「パールよ、お前は汚れの知らぬ純粋な奴だ。お前を見ていると、余は心が休まる」


「皇帝陛下、嬉しゅうございます。私のような女を、選んで下さった事に感謝いたします。そして、必ずや、男子を授かりましょう」


「あぁ、頼む。ガーネットは駄目だったのだからな」


パールは、ガーネット妃の話題に過敏に反応します。

「ガーネット妃は、女子でしたわね。その子は何処ですか?」


「ガーネットの部屋だ。それ以外は知らぬ」


パールにとって、ガーネット妃は気になる存在です。

そして、スフェーンも気になるのです。

「もし、男子を産めなかったら」パールは、考え出すと心配で仕方なくなります。


「私が、正妻ならば良かったのに」パールは、苛立ちを感じるのです。


寵愛を受けているのはパールなですが、最終的な権力は正妻にあります。

パールはガーネット妃には決して敵わないのです。


パールは、アンバー皇帝に許しを請いました。

「皇帝陛下、お願いがございます。ガーネット妃へ、御挨拶をさせて頂きたいのです」


アンバーは、少し驚きましたが静かに答えました。

「パールよ、好きにせよ」


パールは、アンバー皇帝に許しをもらいました。

これで、堂々とガーネット妃とスフェーンに会えます。

パールは、胸のざわつきを治めるためにガーネット妃を知りたかったのです。

「一体、どう考えているのか、はっきりと聞きたい」

パールは、ガーネット妃の部屋へ歩きました。



しばらく、歩くとガーネット妃の部屋が見えました。

パールは、緊張感が増します。自分とは、位が違い過ぎるからです。

ガーネット妃と、真っ直ぐ目を見る事さえ許されぬ立場だと、パールは思っています。

しかし、それは「ガーネット妃を知らないから」と考えています。

「知れば、苛立ちや不安感もなくなるはず」

パールは、淡い期待を抱きながらガーネット妃の部屋へ近づきました。

パールは、ガーネット妃の部屋の前で立ち止まりました。


息止め、扉をゆっくりと開きます。



部屋は、白とピンク、そして金で統一されています。

あまりの荘厳さに、パールは怖くなりました。

「やはり、身分が違いすぎる」


パールが立ちすくんでいると、女性の声が奥からしました。

「珍しいこと。どちら様でしょう」


間違いなく、ガーネット妃の声です。パールは緊張しましたが答えます。

「パールでございます。御挨拶に伺いました」


しばらく、沈黙が続きます。

物音がし、ガーネット妃が立ち上がったのが分かります。ゆっくりと、ゆっくりと奥の部屋からガーネット妃が現れました。


パールは固まり、下を向いています。

すると、ガーネットは声をかけました。

「御挨拶だなんて、違うでしょうに。こちらに、お座りになって」


ガーネット妃は、向かいあった椅子を指し示しました。パールは、ゆっくりと椅子に座りました。

ガーネット妃も、向かいの椅子に座ると話しかけます。

「パール夫人、何用ですか?」


「用はございません。ガーネット妃様とお話しがしたかったのです」


「私と話しですって。随分と立派になられましたね」


「ガーネット妃様は、部屋にこもり何をなさっているのですか?」


「スフェーンの教育ですわ。次期、皇帝のスフェーンですから。それと、パール言葉使いに気をつけなさい」


ガーネット妃は、パールを身分の低い者と見下します。

パールも自覚はしていますが、ガーネット妃の発言に苛立ち始めます。

「次期、皇帝ですか…。そのスフェーン様はどちらに?」


「パール、貴女とは身分が違います。わざわざ、お見せする理由はございません」


「次期、皇帝というくらいですから見ておきたかったのに残念ですわ。きっと、立派な男子なのでしょうね」



パールは、ガーネット妃の傲慢さに我慢できませんでした。厭味を言って気分をはらしたのです。

しかし、ガーネット妃は落ち着き言います。

「パール、貴女は口が悪い女性ですね。皆が、貴女に期待しているので、どのような女性かと思えば…」


ガーネット妃は首を、ゆっくり横にふりました。

そんな態度にも、パールは苛立ちます。

「確かに、ガーネット妃様は正妻です。しかし、寵愛を受けているのは、どちらでしょう。私も、スフェーン様のような立派な男子を産みたいものです!」


パールは自分の身分を忘れ、強く言ってしまいました。

ガーネット妃は、睨みつけ言いました。

「お黙り。1つ忠告しておきましょう。貴女が男子を産んだとしても、結果は同じです。私の子スフェーンが皇帝になるのです」


ガーネットとパールは、睨み合いました。

スフェーンは、鋭い青の瞳をパールに向け冷たく言い放ちました。

「礼儀を知らぬ者は去れ」


パールは、何も言い返せませんでした。それどころか、自分の無作法を恥じてしまいました。

そもそも妾が正妻に挨拶に来ること自体、有ってはいけない事です。

パールは、アンバー皇帝からの寵愛に慣れすぎて知らぬ間に浮かれていました。


パールは立ち上がり、一礼するとガーネット妃の部屋から出ていきました。

パールは自分の部屋へと急ぎました。そして、落ち着こうと椅子に腰掛けます。

しばらくすると、パールは落ち着きを取り戻しましたが、苛立ち始めてしまうのです。

最高権力者であるアンバー皇帝の許しがあったのに、威圧感に負けてしまったのです。

パールは悔しさと嫉妬を胸に、必ず男子を産むことを誓いました。




一方、ガーネット妃はスフェーンを褒めたたえていました。まさに、皇帝としての器が備わったと喜びます。

ガーネット妃は、パールの無作法な態度には苛立ちを感じましたが、スフェーンの成長を目にできた喜びが大きいのです。

パールが、男子を産もうが次期皇帝はスフェーンだと確信しました。



帝国内では、この事件についての話題で盛り上がっています。

「パールが負けたみたいだ」


「2対1だから仕方ない」


「決め手は、スフェーンらしい」


「末恐ろしい子供だ」


「やはり妾は悪事を招く」


好き勝手に話し合います。

ガーネット妃の耳にも入りますが、慣れたもので気にもしていません。


ただ、スフェーンは違いました。直に11才になるため、周囲の状況を読み取る力が増したのです。

スフェーンは、皇帝内の人間が自分について何と言ってるかも知っていました。


「スフェーンが男なら良かった」


この言葉は、スフェーンの存在そのものを否定しています。

スフェーンは、傷付きながらも気を強く持ち誓うのです。


「逆境を乗り越える事に意味がある」


スフェーンは、皇帝になるため努力を続けました。



パールは、帝国内の話しを知って深く傷付きます。

今まで、貴族として皆から良くしてもらっていたからです。

しかし、アンバー皇帝からの寵愛を受け自信を取り戻します。そして、ガーネット妃とスフェーンに並々ならぬ対抗意識を持ち始めました。

「スフェーンは、危険」

パールは、このように考えていました。

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