二,我が子
すっかり、体力が回復したガーネット妃は命令を下します。
「スフェーンの世話は全て私がする」
帝国内は、ざわめきます。
ガーネット妃は、詳しく話しました。
「乳母は不要」
「教育係は私が選抜」
「衣類なども私が選抜」
帝国内は、更にざわめきます。ガーネット妃は、ハッキリと言い放ちました。
「私が、スフェーンを完璧に育てます」
誰が何を言おうと、知らぬ顔をしました。
その話しが、アンバー皇帝の耳に入ります。
アンバー皇帝は、言い捨てました。
「好きにさせておけ。余の期待を裏切り、謝罪もせぬ妻だ」
帝国内は、アンバー派とガーネット派に真っ二つに別れました。
ガーネット妃は、スフェーンを大変可愛がりました。
まだ、0才の赤子に他国の言葉で話しかけるのです。
ガーネット妃は、自分の全てをスフェーンに与えようと必死です。
アンバー皇帝は、領土拡大は順調ですが世継ぎの悩みに苦しみます。
ガーネット妃に、歩みよりを見せるのですが「私は、子育てで疲れております」と冷たく突き放されてしまいます。
ある日、ガーネット妃の態度にアンバー皇帝が注意をしました。
「ガーネット、いい加減にしないか。お前の評判が、下がるばかりだ。余も気分が悪いのだ。謝罪をしろ」
ガーネット妃は答えました。
「お言葉ですが陛下。貴方様の評判こそ下がっておいでです。私の謝罪を求められるなら、スフェーンの顔でも見にいらして下さい」
言い終わると、ガーネット妃は歩いて行ってしまいました。
驚く事に、アンバー皇帝は娘の顔を見た事がないのです。
もう、1年が過ぎようとしているのに。
アンバー皇帝は、スフェーンを自分の子供だと認めていなかったからです。
しかし、アンバー皇帝は考えました。
「世継ぎを産ますためにも、恥を捨て会いに行く。さすれば、ガーネットも気を緩めるであろう」
アンバー皇帝は、決心しスフェーンを見に行くことにしました。
アンバー派は、悔しがりました。
しかし、ガーネット派は喜びました。
アンバー皇帝は、スフェーンに会うのが嫌で仕方ありません。自分を裏切り、女として産まれてきたからです。腹立ちさえ感じています。
スフェーンの部屋までの通路を歩きながら、溜め息ばかり出てきました。
しかし、世継ぎのためだと意を決して歩くのです。
スフェーンがいる部屋の前で、アンバー皇帝は立ち止まりました。
苛立ちを隠し、扉を開きます。
淡いピンクと白で統一された部屋に、ガーネット妃とスフェーンはいました。
アンバー皇帝は、ゆっくりと娘に近づきます。
淡い金の髪に、青の瞳、真っ白な肌の可愛らしい女の子が絨毯の上に座っています。
ガーネット妃は言いました。
「純粋無垢な子です。さぁ、抱いてやって下さい」
ガーネット妃は、スフェーンを抱き上げアンバー皇帝へ差し出しました。
スフェーンは、不思議そうな顔をしてアンバー皇帝を見つめます。
しかし、アンバー皇帝はスフェーンを抱かずに頭をなでるだけです。
アンバー皇帝は言いました。
「余は、頭を撫でた。ガーネットよ、謝罪をしろ」
ガーネット妃は、スフェーンを自分の胸に押し当て言いました。
「この子は次期、皇帝です」
この言葉は、アンバーの逆鱗にふれます。
「女の皇帝など有り得ん!女が皇帝になれば、カルサイト帝国は滅亡の運命を辿るであろう。その子は他の者に託せ。ガーネット、世継ぎを産むのだ!」
大きな声に、スフェーンは泣き出してしまいました。ガーネット妃は、スフェーンをあやすばかりでアンバー皇帝を無視しました。
アンバー皇帝は「貴様!男子を産まぬつもりだな」と言い、部屋を出ていってしまいました。
ガーネット妃は、アンバー皇帝の声に反応せずにスフェーンに語りかけ続けます。
「スフェーン、貴女は皇帝になるのです。母に、任せなさい」
繰り返し、繰り返し、ガーネット妃は語りかけました。
アンバー派は、喜びます。「男子を産まぬ妃」と罵り。
ガーネット派は、悲しみました。
ガーネット妃の立場が、危うくなる事が分かっていたからです。
徐々にガーネット派の者は、アンバー派に寝返り始めます。
皆、自分の首が大切なのです。
アンバー皇帝とガーネット妃の仲は、急速に冷え切りました。
世継ぎ問題は、アンバー皇帝を苛立たせます。冷静沈着なアンバー皇帝の姿はありません。
帝国内も国民も、世継ぎを強く待ち望んでいます。
アンバー皇帝は、皆の期待を振り払うかのように国政に力を入れるようになります。
領土拡大のため、アンバー皇帝が直々に足を運ぶこともありました。
こうして、カルサイト帝国は広く大きくなっていきます。
カルサイト帝国、アンバー皇帝の名は世界に轟き、各国の国王や皇帝からも一目おかれるようになります。
しかし、民衆は恩恵を受けられず重税に苦しんでいました。
世継ぎも誕生しないため、民衆はアンバー皇帝に不満を持ちはじめていました。
ガーネット妃は、3才になったスフェーンの教育に力を入れます。
スフェーンは、他国の言葉を覚えていきます。
飲み込みの早いスフェーンに教師は感心します。
ガーネット妃は、スフェーンへ全てを注ぎました。
スフェーンはガーネット妃に言います。
「私は、すごい皇帝になるのです」
ガーネット妃はスフェーンに答えます。
「貴女は、皇帝の器を持っています」
帝国内は、アンバー派が多数でガーネット派は少数。
帝国内でのガーネット妃は、危険な立場にいました。
しかし、ガーネット妃は気にもせず毎日を過ごします。
ガーネット派の者が、それとなく世継ぎの事を話しても聞く耳を持ちません。
そして、ガーネット妃は決まって言うのです。
「次期、皇帝はスフェーンです」
ガーネット派の者は「お妃は取り付かれたようだ」と罵り、アンバー派になるのです。