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一つの時代の終わりに、

作者: 朱火

重い音を立てて扉が開く。

白銀の鎧を返り血と煤に汚した剣士が部屋の中へと踏み入れる。

広い部屋だったが、壁一面の本棚とそこから溢れ出して床に積み上がった本の壁で部屋の中央の大きなテーブルとソファーの周囲の狭い空間だけしか床は見えていなかった。

「思ったよりも早かったな。」

積み上がった本の奥、執務机で何かを書きつけながら白髪の老人が剣士に声をかける。

「あんたをこれ以上待たすのも悪いかと思ってね。」

言いながら剣士は部屋の奥へ踏み入れる。

「そうか、

しかし、もう少し待ってもらえるか?

もう少しですべてが終わる。」

「いいさ、俺達があんたを待たせ続けたんだ少しぐらいは俺も待つさ。」

そう言って剣士は鎧姿のままソファーに腰を下ろす。

老人の走らすペンの音だけが部屋の中を満たす。

「なぁ、少し話をしてもいいか?」

剣士が口を開く。

「構わんよ。」

老人がそれに応じる。

剣士はしばらくの間言葉を選ぶように迷っていたが思い切ったように言葉を口にする。

「ホントにこれでいいと思うか?」

剣士のその言葉に老人はペンを止め顔を上げる。

「これでいい、とは?」

老人の問いに剣士は顔を伏せたまま言葉を続ける。

「あんたは千年の時をかけてこの世界をつくった。

たった二十年ちょっとだが俺はそのあんたの足跡をずっと追ってきた。」

剣士は言葉を一度切り、迷う様に口をつぐむ。

老人は次の言葉を黙って待っていた。

「俺は、千年前の世界を知らない。

けど、今よりも良かったとは思えない。」

剣士の言葉に老人は苦笑を浮かべる。

「どうだろうな、人が人として支配した世界と、

人外の者による統治の世界とどちらが良いかなど誰にも分からぬよ。」

「けど、今は人と人とが血を流し争うことは無い。

人が人を蔑み、陥れることもない。」

老人の言葉に剣士が反駁する。

「しかし、人に自由は無い。」

その言葉に剣士は顔を上げる。

「ホントにそうか?

確かに、すべきことは決められている。

けど、生きるために働くのは結局どんな状況でも一緒だ。

魔物は意味もなく人を害さない、それどころか人を大切な労働力として珍重する。

それに、仕事以外の時間は案外自由だったぜ。」

老人の顔を見つめ剣士は笑って見せる。

「この時代の人間がそう言うのならばそうなのかもしれんな。」

老人は目を窓の外に向け呟くように言葉を口にする。

「だが、それは俺の考え方だ、

千年前、魔物に支配され狭い世界しか見えなくなった人達はあんたを憎んでいる。」

真剣な剣士の言葉に老人は視線を戻す。

「そうか、憎まれているか。」

老人は微かに笑ったように見えた。

「あんたは、そのままでいいのか?

あんたは称えられて良いんじゃないのか?」

その言葉に老人は首を横に振る。

「儂は魔王じゃ、今もこれからもな。

それ以上にも以下にもならん。」

老人の言葉は重く響く。

剣士は視線を落とす。

その様子に老人は表情をわずかに和らげ言葉を続ける。

「お前さんが儂の足跡をたどったように、儂は生まれてからずっとお前さんを見てきた。

苦しめたこともあったな。」

その言葉に剣士は顔を上げ苦笑する。

「あぁ、今でも恨んでることもあるよ。」

言葉とは裏腹に剣士の顔には憎しみは無かった。

「儂にとってお前さんは子供のようなものじゃ。

そのお前さんが儂を認めてくれるならそれで十分じゃよ。」

老人は剣士の顔をまっすぐに見つめる。

剣士もそれに応え、老人の顔をまっすぐに見つめる。

僅かな時間、お互いの意思を確認するように見つめあっていたが、

老人は視線を落とし、書き上げた紙を封書に入れ封印を施すと窓の外へと送り出す。

封書は風に乗りいずこかへと消えていく。

「さて、そろそろおしゃべりも終わりにして決着をつけようか。」

老人は立ち上がり虚空に手を伸ばす。

その手に杖が現れる。

「そうだな、そろそろゆっくり休んでもらおう。」

剣士も立ち上がり腰の剣を抜く。

老人の杖の一振りで本の山が消し飛び広いスペースが開く。

剣士はまっすぐに剣を構え老人を見つめる。

「すまんな、大変な仕事を任せる。」

一振りした杖を戻しながら老人が声をかける。

「あんたの千年に比べればどうってことないさ。」

剣士が応える。

その言葉に老人は表情を和らげ頷く。

そして、表情を引き締めると大きく息を吸い込み虚空に向かい声を張り上げる。

「我を討たんと欲する全ての愚かなる民よ、汝らの希望たる勇者の末路、

我に刃向うことの愚かさ、その眼でとくと確かめよ!」

世界中の人々が突如空に出現した映像に目を奪われる。

人も魔物も関係なくすべての存在が空を見上げる。

四角く切り取られた映像の中で魔王がいくつもの火球を生み出し勇者へと向けて放つ。

その合間をすり抜けるように勇者が走る。

掠める火球に鎧を焦がし、皮膚を焼きながら無数の火球の爆炎を潜り抜け魔王へと肉薄する。

銀色の光が煌めく。

映像が唐突に途切れた。

人々の見上げる空には雲と青い空だけが広がっている。

歓声が起こった。

勇者を称える声と解放を喜ぶ声が世界を覆い尽くした。


まず、この乱文を最後まで読んでいただいた方々に感謝いたします。

魔王は何のために世界を支配するのか、勇者は何故魔王を討たねばならないのか、その問いから出た一つの考えです。

個人的には色々と思うところのある作品で、色々と至らない文でもあると思います。

もっと実力が付いたときにもう一度書いてみたいそう思ってもいます。

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