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空の欠片  作者:
5/21

◇発熱◇

 

「琉ー嘉ー。琉嘉ぁ。朝だよ、起きて」


 太陽の光が優しく照らし出す朝、目が覚めたら玲君が目の前にいました。

 

「なっ、何で玲君がここにいるの?」

「ん?早く目が覚めたから琉嘉の寝顔見に来た。昨日は琉嘉帰ってきたら速攻で寝ちゃったらしいし」


 とここで、ちょうど良く堤さんが病室に入ってくる。

 

「あれ?琉嘉ちゃんが起きてる」

「玲君に起こされました」

「玲斗君、やるねぇ。モーニングコールとは。明日からもやる?」

「そうですねー。堤さんの要望とあらば喜んで」


 おふざけ開始?うん、本気なら困るけど。

 

「さ、玲斗君も病室戻ろうか。もうすぐ朝ごはんだから」

「はーい。じゃ、琉嘉。また後で」


 そう言って玲君は自分の病室へ戻る。そして私は体温計を渡される。

 結果は………。うん、沈黙を保とう。

 

「琉嘉ちゃん。何度だったの?」

「…………………」

「琉嘉ちゃん」

「…………………」

「今すぐ言わなかったら1週間屋上禁止にするよ」

「ゴメンナサイ」


 屋上禁止令を出すのはずるいって。堤さん、大人気ないよ。

 

「で、何度だったのかな?」

「さ、37度6分………デス」

「琉嘉ちゃん、分かってるね?」


 堤さんがニッコリ笑って言う。うん、目が笑ってないよ。

 堤さんの視線が痛い。うぅ、怖いよぅ。

 

「熱下がるまで屋上禁止」

「了解しました」


 逆らうと怖いので了承する。

 

「後で先生が診に来るだろうから、ちゃんと病室にいるようにね?」

「はぁい」

「あ、食欲はある?無くても少しくらいは胃に何か入れておいてね」

「はーいっ」


 ここで漸く堤さんの表情がいつもどおりに戻る。あぁ、怖かった。

 そして朝食を食べ終えると、ちょうど良く先生がやってきた。

 

「おはよう、琉嘉ちゃん。熱出したんだって?」

「おはよー由里センセー。熱出したっていっても、大したこと無いって。大丈夫だよ」

「大丈夫かどうかは先生が決めるからね。さ、診察するからお腹出して」


 そう言って由里先生はいろんな場所に聴診器を当てる。冷たい。

 

「頭痛いとか、気持ちが悪いとか、喉痛いとかって無い?」

「何も無いー」

「そっか。なら、多分昨日の疲れが出たんだろうね。一応薬は出しておくから、ご飯の後にちゃんと飲んでね。あと、今日は安静にしておくこと。破ったら屋上禁止令発令させるからね」


 それは困る。ていうか、何で堤さんのみならず由里先生までその脅しを……。

 

「はい、返事は?」

「はーい」


 先生が出て行った後、引き出しからノートとノートのコピーを取り出す。今のうちに先週の分を写してしまおう。

 カリカリカリ。

 カリカリカリカリ。

 カリカリカリカリカリ。

 病室に何かを書く音のみが響く。静かで、落ち着く。

 

 コンコンッ。

 静かな空間に扉をノックする音が響く。誰だろう?

 

「琉嘉。入ってもいいか?」

「玲君。いいよぅ」


 扉をノックしてきたのは玲君だった。手には缶ジュースが握られている。

 

「どっちがいい?」


 そう言って差し出されるのはポカリとアクエリ。…うーん、悩むな。

 

「ゆっくり考えていいよ。……って、何で熱出してる時に勉強してるの。ダメだよ。ほら、片付けて」

「え?でも、コレ早くやらないと追いつけなくなっちゃうし…」

「問答無用。早く片付けなさい」

「はぁい」


 逆らえそうに無いので、大人しく片付ける。すると、玲君はニッコリ笑った。

 

「よし、いい子いい子。いい子な琉嘉にはジュースを2本ともあげよう。しっかり水分とって、早く治そうな」

「あ、ありがとう」


 玲君はジュースを2本とも私の目の前に置いて、私の頭を撫でる。

 …嬉しいけど、何か、すっごく子ども扱いされてる気がする。

 

「よし。じゃ、俺病室戻るね。熱下がったら昨日の話し聞かせて」

「あ、うん。またね」


 玲君はそう言って自分の病室に戻っていく。戻っていく玲君を見送った後、貰ったジュースを開け、飲む。

 

「美味しい」


 そして、私はベッドに横になり、眠った。早く善くなるように。早く玲君に土産話を聞かせてあげられるように。

 

 

「…かちゃ……」

 

 ……何か、聞こえる。何だろ?

 

「琉嘉ちゃん」


 呼ばれてる。誰だっけ、この声。知ってるはずなのに、分からない。何でだろ?

 ん?あぁ、そうだ。堤さんだよ。堤さんが呼んでる。返事、しなきゃ。

 

「ん………」

「おはよう、琉嘉ちゃん。よく眠ってたね。でも、もうお昼ご飯の時間だから、ちゃんと食べてね」


 お昼……?あんまり、食べたくないな。

 

「どうかした?」

「んー。あんまり食べたくない…」


 私が言うと、堤さんが「ちょっとゴメン」と言って私の額に手を当てる。冷たくて気持ちいいな。

 

「ちょっと待っててね」


 堤さんはそう言って病室から出て行く。何だろう?

 そして戻ってくると、私に体温計を渡す。また測るの?

 

「もう一回、熱測ってみて」


 堤さんに言われて、体温計を脇に挟む。

 しばらく待って、計測が終わる。その結果を見て驚いた。

 

「何度?」

「39度3分」

「やっぱり上がってたね。先生呼んでくるから横になって待ってて」


 39度かぁ。通りで頭がボーっとするわけだ。それに、何だかダルい。

 そう考えていると、堤さんと由里先生がやってきた。

 

「琉嘉ちゃん。今どんな感じがする?頭痛いとか、気持ち悪いとか」

「頭痛くないし、気持ち悪くも無いけど、何か頭がボーってするぅ。すっごいダルいー」

「食欲は無いんだったね。なら、点滴を入れておこうか。あと、熱冷ましも出しておくから飲んでね」


 由里先生が言うと、いつの間にとりに行ったのか、堤さんが点滴を持って立っている。

 そして、私の手を取り、点滴を入れる。あー、痛い。でも反応する気力も無い。


「それじゃ、先生は仕事に戻るけど……。何かあったらすぐにナースコールで呼んでね。すぐに来るから。もし先生が来れなくても、堤さんが来るから」

「うん。分かったー」

「そう。じゃあ、寝ようか。早く善くなるように」


 そう言って、由里先生は病室を出て行った。あー、ダルい。

 そして私はベッドに横になる。横になると、すぐに睡魔に襲われる。

 あぁ、堕ちる。

 

 

 しばらくして、目が覚める。よく寝た感じがするが、どのくらい眠っていたのだろう。考えようとしても、頭がボーっとして考えられない。

 

「あら、目が覚めたの。調子はどう?」

「おかーさん。今何時?ってか、いつ来たの?」

「今は大体3時くらい。お母さんが来たのは1時半くらい。で、調子はどうなの?」

「頭ボーっとしてるぅ。てか、会社はどうしたのー?」

「琉嘉が高熱出したって言う連絡受けてから、早退して来た。お母さんがこんな早くにいるの、イヤだった?」

「んーん。嬉しい」


 目を覚ますと、すぐ傍の椅子にお母さんが座っていた。私が起きたのを確認すると、軽く頭を撫でる。冷たくて気持ちがいい。


「お母さんの手、冷たくて気持ちいいね」


 私が言うと、お母さんは優しく微笑んだ。

 

「これで冷たいって言うのなら、琉嘉、あなたまだ重症だわ」

「ふえ?そなの?」

「えぇ。だって、お母さん大分手、暖まってきてるもの。それで冷たいって言うのなら、あなたの熱がまだまだ高い証拠ね」


 そう言って、お母さんは立ち上がる。何をしにいくのだろう。

 そんなお母さんをじっと見ていると、お母さんが口を開き、何をしに行くのか教えてくれた。

 

「氷を貰いに行くだけよ。すぐ戻ってくるから」


 氷?何に使うんだろう。

 まぁ、普通に考えれば分かることなんだろうけど、熱で頭が働かない私には不可能なことだった。

 氷を貰って戻ってきたお母さんは、洗面器に水を入れ、その中に氷を落とす。そして、その洗面器にタオルを浸け、絞る。

 そして、それを私の額に置いた。冷たくて気持ちがいい。

 

「気持ちいいでしょ?」

「うん」

「さ、夕飯までまた寝なさい。お母さん、琉嘉が起きるまで傍にいるから」

「うん。おやすみー」


 そう言って瞼を閉じると、すぐに睡魔に襲われる。

 そして、堕ちた。

 

―――*―――*―――*―――*―――


 空が、近くにある。地面が、遥か下にある。どこかで見たような世界だ。

 

「おや。また来たの?琉嘉」

「琉衣」


 そう。この世界は以前出会った琉衣が築き上げた世界だ。

 

「久しぶりだね、琉嘉。現実世界で何かあった?」

「………………」

「琉嘉。ちゃんと質問には答えようね。何があった?」

「………熱出してダウンした」


 あれ?どうしてだろう。琉衣からお母さんたちと同じような恐ろしいオーラを感じるんだけど。実は阿修羅とか呼び出しちゃってる?

 あはははははは。怖いな。

 ていうか、琉衣は私なんだから分かってるはずだよね。嫌がらせですか。

 

「遊園地の疲れが出たのかな?…そんなに無茶してたっけ?」

「んー。無茶をした自覚は無いんだけどなぁ」


 漸く恐ろしいオーラが消え、琉衣が私に話しかけた。

 あぁ、ホッとする。

 

「あぁ、そういえば、手紙を取りに行った時にくしゃみをしてたっけ。多分そのときにもう熱出しかけてたんじゃないかな」

 

 相も変わらずよくご存知で。さすが私自身。

 

「ついでに言っとくけど、琉嘉。もう戻ったほうがいいよー。この世界と現実世界は時間の流れがかなり違うから。現実世界はそろそろ夕飯時だ」

「うぇっ!?そんなに違うの!?」

「戻る?戻るなら案内するよ」

「戻る!」

「そか。なら着いておいで」


 そして私は琉衣に着いて行き、前回も通った扉を潜った。

 

―――*―――*―――*―――*―――


「あら?ちょうどいいタイミングで起きたわね、琉嘉。ご飯は食べれそう?」

「んあ?もうそんな時間かぁ。んー。あんまり食べたくないー」


 私がボーっとする頭で答えると、お母さんは軽く微笑んだ。そして、言った。

 

「何なら食べられそう?お粥は食べれそう?」

「んー。無理やり入れ込む」

「……無理やりは止めなさい。とりあえず、一口でもいいから食べなさいね」

「うん」


 お母さんはそう言って、お粥をスプーンで取り、ふーふーと冷やしてくれる。

 コレを見てふと思う。みんな、私のことえらく子ども扱いしてない?

 まぁ、今回は体動かすのダルいから嬉しいけどさ。

 

「はい、琉嘉。口開けて」


 うん。でもやっぱり恥ずかしいな。

 そして食べ終えると、薬を飲む。薬の数は予想以上に増えていた。これだから熱を出すのは嫌いなんだ。

 

「さ、薬飲んだならとっとと寝なさい。睡眠に勝る熱の治療法は無いのよ」

「うん」

「お母さん、今日はこれで帰るけど、また明日来るからね」

「休み取ったの?」

「えぇ。じゃあ、また明日ね。おやすみ琉嘉」


 そして私は横にされ、毛布を肩まで掛けられる。今日あれだけ眠ったはずなのに、またすぐに眠たくなる。

 そして、堕ちた。

 

 夜中。ふと目が覚める。今は何時だろう?そう思って時計を見てみる。

 辺りは真っ暗だ。

 

「トイレ行きたいな……」


 ポツリと呟く声が、予想以上に響く。その声に少し驚きながらもベッドから降りる。

 

「うわっ!?」


 今日1日中寝ていたせいか、体がフラフラする。壁に寄りかかりながら、ゆっくりとトイレに向かった。

 そして、用を済ませて病室へ戻ろうとすると、明かりが此方へ近づいてくる。堤さんかな。

 

「あぁ、いたいた。大丈夫?琉嘉ちゃん。歩ける?」

「壁に寄りかかれば何とかー」


 近づいて来たのは予想通り、堤さんだった。病室に私がいなかったから探しに来たんだろう。

 

「よし。じゃあ病室に戻ろうか」

「あーい」


 そして病室に戻った私はぐっすりと眠り、朝を迎えた。

 

―――*―――*―――*―――*―――


 私の知らないところで、運命の歯車は回る。

 ゆっくりと、されども確実に。

 その本人は知らぬまま、少しずつ、回っていく。

 

「片桐さん。今、お話して大丈夫ですか?」

「先生。はい、大丈夫です」

「では、此方へ。ちょっと此処では話し辛いので」


 火曜日。私が寝た後に帰途に着くお母さんを由里先生が捕まえる。

 そして、部屋に移動して二人が椅子に座るとすぐに、先生は口を開いた。

 

「わざわざここまでご足労願ったのは、今回の熱の、琉嘉ちゃんへの影響についてです」


 それを聞いたお母さんは絶句する。それを気にしながらも、先生は話を続けた。

 

「詳しい検査をしなければ分かりませんが、私の予想では、琉嘉ちゃんの体はもう限界にかなり近づいていると思います。今回の高熱がその証拠です。今までは熱を出してもここまで高くはなりませんでしたが、今回は高すぎます。恐らく、抵抗力がかなり低下しているのでしょう。このまま行けば、琉嘉ちゃんに残された命は、あと1年あるかどうか、というところでしょう」


 それを聞いたお母さんの顔が蒼白になる。まぁ、それもそうだろう。大事な一人娘の寿命を聞かされたのだから。

 

「回避する方法はないんですか!?あの子はまだ13歳なんですよ?」

「あるにはありますが、これは相当リスクが高いです」

「どんな方法ですかっ!?」

「手術を受けさせること、です。ですが、今の琉嘉ちゃんの体力では、手術に耐えられるかどうか分かりません。正直、手術中に亡くなる可能性も高いです」

 

―――*―――*―――*―――*―――


「はい」


 朝、いつものように堤さんから体温計を渡される。……熱下がってる感じがしない。

 ピピピッという電子音が測定の終了を知らせる。

 結果は……。うん、下がってないね。

 

「何度?」

「38度8分」

「今日も、寝てなさいね」

「言われずともうろちょろする体力無いってぇ」

「それもそうね。で、食欲はどう?」

「無いー」

「まぁ、お粥だから、一口くらい食べてね。で、薬飲んでとっとと眠っちゃいなさい」

「うん」


 そう言われて、お粥に手を伸ばす。あんまり食べたくは無いけれど、薬を飲むために無理やり一口放り込んだ。そして薬を飲み、ベッドに横になる。

 

「よっし。んじゃ、おやすみぃー」

「おやすみ、琉嘉ちゃん」


 そして私は眠りに落ちる。

 ご飯を食べ、薬を飲み、眠る。それが昨日から数えて、3日続いた。

 

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