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空の欠片  作者:
3/21

◇出会い◇


ここで漸くもう一人の主人公、玲斗が出て来ます。



 

 次の日の朝、私は朝食を食べた後、引き出しから便箋を取り出す。おじいちゃんへの返事だ。

 

「んーと……おじいちゃんへ…っと」


―おじいちゃん、おばあちゃんへ

 まずは、本を送ってきてくれてありがとう。まだ手をつけてないけど、ゆっくりと、楽しませてもらいます。

 そして、確かに最近寒くなってきていますね。屋上で受ける風がどんどん冷たくなってきているのが良く分かります。とりあえず私は風邪を引いたりはしていません。安心してください。ていうか、風邪ひいたら怖い人が居るので、そのために日々、努力しています《笑》。

 とりあえず、何を書けばいいのか分からないのでこれで終わります。次に会えるのはいつになるかな?会えるのを楽しみに待ってます。

 あ、その本をくれた人に会うのも楽しみです。 琉嘉より。


「よっし、出来たー!」


 そう言いながら時計を見る。すると、書き始めてからすでに1時間が経過していた。

 あれだけの文章に1時間。自分の文才のなさに涙が出てきそうだ。

 

「ちょっと休憩しよーっと」


 そう言って、ベッドに横になる。辺りが静か過ぎて気分が悪い。そう思った私は、iPodを取り出し、イヤホンを耳にかけた。再生ボタンを押すと、音楽が流れ始める。

 そして、気が付くと………またも夢の世界に居ました。

 

―――*―――*―――*―――*―――


 空が、近くにある。地面が、遥か下にある。コレは、一体どういうことだろうか。

 いや、コレがどういう状況下は分かる。でも、信じたくない。というか、現実的にありえない。


 私は今、空を飛んでいる。

 鳥のように、羽を広げて飛んでいるわけではない。かといって、飛行機や気球などに乗っているわけでもない。

 この体一つで、大空を舞っているのだ。

 

「すごい」


 そう呟きたくなるくらいに、景色は素晴らしかった。ある方向を向けば海。向きを変えれば山。また向きを変えれば街。

 現実ではありえない、風景。

 

 あぁ、これは、夢か。

 思い出した。あの時音楽をかけてそのまま寝ちゃったんだ。

 

「よく、分かったね」


 自覚した途端、どこからか声が聞こえる。誰だろう。そう思いつつ顔をきょろきょろさせる。

 

「あり?此処だよ此処!僕は君自身だよ」

「私自身?てゆーことは、視認できないの?」

「ちゃんと自分の目で見て確認したい?それなら体を作るけど」


 体を作る?そんな疑問を抱きながらも、ちゃんと目を見て話をしたかったので、頼んだ。

 すると、私の体から煙がたくさん出てくる。気持ちわるっ。と、そんなことを考えていると、目の前には一人の少女が立っていた。

 

「これでいい?琉嘉」

「うん。ところであなたの名前はなんていうの?」

「何だと思う?ヒントは、僕は、君自身だ」

「んー。まさか、『琉嘉』?」

「その通り」


 紛らわしいな。彼女を呼ぶのに自分の名前を言わなければならないなんて、とても面倒くさい。

 

「別の名前つけてもいい?」


 私が問うと、『琉嘉』は目を丸くした。でも、すぐに笑って快諾してくれた。

 

「おかしいのはイヤだよ?」

「うーん。どんなのがいい?」

「どんなのだっていいさ。琉嘉がつけてくれるのなら」


 困る。そんなことを言われたら変な名前は付けられないじゃないか。

 そして、考えること数分。漸く名前が思い浮かんだ。

 

「琉衣はどう?とりあえず、私とあなたは一緒だから、漢字を1文字一緒にしてみたんだけど」

「あぁ。いい名前だね。ありがとう、琉嘉」


 『琉嘉』改め、琉衣が微笑む。その笑みに少し翳りが見えるような気がするのは気のせいだろうか。

 そんな私の視線に気が付いたのか、琉衣は此方を見て優しく微笑んだ。

 

「綺麗だろう?この景色は」

「え?あ……うん。すっごい綺麗だね」


 突然話しかけられて、少し焦った。でも、確かにこの景色は素晴らしく綺麗だ。

 

「コレは、僕が築いたんだ。綺麗な空を望み、この青い空を得、緑豊かな山を望んで、山を得た。街も、海も同様だ」

「琉衣、すごいね。こんな綺麗な世界を作れるだなんて」


 私が素直に褒めると、琉衣は恥ずかしそうな顔をした。何か可愛いぞ。


「ところで、夢を見ているときにコレは夢だ、て自覚すること、なんていうか知ってる?明晰夢、て言うんだよ」

「めいせきむ?」

「うん、そう。全部平仮名で言うと馬鹿っぽく見えるから止めなさいね」

「なにおぅっ!?」

「うん、続けるね。明晰夢っていうのはね、夢の状況を自由に変えることが出来るんだよ。だから、願ってごらん。どんな景色が見たい?見たい景色を強く、思い浮かべて」


 そう言われて、見たい景色を思い浮かべる。それは、小さい頃におばあちゃんの家に行ったときに見た景色。

 

「すごい、ちゃんと変わったね。見てごらん、琉嘉」


 そう言われて瞑っていた目を開くと、辺りは私がさっき頭に浮かべた風景に変わっていた。

 公孫樹の葉が風で擦れる音が響く。風で葉が落ちる。それは、至って自然な風景で、とても幻想的な風景だった。

 

「これが、琉嘉の望む世界か。綺麗だね」

「そう……かな?」

「うん。とても綺麗だよ」


 そう言った途端、琉衣が上を向く。何だろうか?そう思っていると、突如、琉衣が私の手を掴んだ。

 

「な……何?」

「ん?そろそろ琉嘉を起こさないとかな、と思って」

「えー?まだ此処に居たいよぅ」

「ダーメ。そろそろ帰らなきゃ、帰れなくなっちゃうよ?明日、伯母さんと遊園地に行くんでしょう?」


 どうして知っているんだろう?って、当たり前か。琉衣は私であり、私は琉衣なのだから。

 まぁ、伯母さんとお出かけできなくなるのはイヤなので、私は琉衣に従うことにした。

 

「あったあった。ほら、この扉を潜れば目が覚める。早く行きな?」

「うん。……ねぇ、また会える?」

「琉嘉が強く望むならね」


 琉衣はそう言って、私の目をジッと見る。そして、口を開いた。

 

「何かあったら僕を呼びなさい。助けに行くから」

「でも、琉衣は私の夢の世界の人間だよね?そんなこと出来るの?」

「夢の中だからこそ出来ることっていうものもあるんだよ。だから、何かあったら呼びなさい。強く願えば僕にも聞こえるから。ね?」

「うん。ありがとう、琉衣。じゃあ、またね」

「あぁ。また、会おう」


―――*―――*―――*―――*―――


 目を開くと、目の前にはお父さんとお母さんがいた。いつの間に来たんだろう?

 ボーっとした頭でお父さんたちを眺めていると、それに気が付いたお母さんが此方を見て言った。

 

「あら、目が覚めた?よく寝てたわねー」

「んー。おかーさんたちいつ来たのー?」

「10分くらい前。ついでに言うなら、今は、11時半くらい」


 今が11時半ということは、1時間ほど眠っていたようだ。ついでに、寝る前に聞いていたはずのiPodは外されていた。

 どこに置いてあるのだろう。そう思いながら顔をきょろきょろさせる。

 見つけた。横のテレビの横に置いてある。それを取ろうとすると、横から手が伸びてきた。

 

「はい、それに手を伸ばす前にちょっとこっち見ようか」


 そう言って伸ばした私の腕をきっちりと掴む。

 あれ?お母さん怒ってる?顔は笑ってるけど、実は怒ってる?怒られるようなことをした記憶はないよ……今日は。

 

「な、何かな……?」

「って、何をそんなに怯えてるの?怒られるようなことをしたの?」

「してない!絶対にしてない!」


 危なかった。これで肯定しようものならまた、お説教が始まるところだった。もう、お説教はこりごりです。

 

「ならいいけど」


 お母さんはそう言ってにっこり笑う。うん、何故だろう。後ろに黒いオーラが見えるような気がします。

 あぁ、何だか幻覚まで見えてきたよ。お母さんの後ろに阿修羅が見えます。とても怖いです。

 てゆーか、何でアシュラぁぁぁああぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ!?!?!?!?

 

 

 

 取り乱しました。ごめんなさい。突然の阿修羅の登場に、ちょっとパニクりました。

 

「で、そろそろ大丈夫かしら?琉嘉」

「あ、うん。ゴメン」

「とりあえず、明日のことをまず話そうかしら。明日は何があるか覚えてるわね?」

「伯母さんが来る日」

「うん、まぁ、来るのは今夜なんだけど。大体は正解。で、明日遊園地に行きたいんだったわよね?伯母さんにはそう伝えたけど」

「うん!」


 私がニッコリ笑って返事をすると、お母さんも微笑んだ。それを見て、やっとお母さんが怒っていないと安心できる。

 

「じゃあ、明日9時くらいに迎えに来るから、それまでに準備をしておいてね。先生にはお話してあるから」

「うん、分かった。楽しみに待っとく」


 そう言うと、お母さんはiPodを取ってくれた。そして同時に口を開く。

 

「今度からは音楽かけたまま眠らないようにね。寝るのなら、スリープを設定しておきなさい」


 あ、やっぱりはずしたのお母さんだったのね。うん、また後ろに阿修羅が見えるよ。黒いオーラの下で、阿修羅が顔を見せてるよ。

 謝ったら消えてくれるかな。そう思い、私は即座に謝罪の言葉を述べた。

 

「ゴメンナサイ」

「スリープを使わないと電池が勿体無いでしょう。聞いてないのに」

「うん、次からは気をつけます。ゴメンナサイ」


 良かった。黒いオーラも阿修羅も消えてくれた。ていうか、どうしてお母さんの後ろには阿修羅が見えるんだろう。

 直接聞いたら分かるかもしれないけれど、知らないほうが良いと本能が告げているから聞かないことにする。何かヤバイ感じがするし。


 そして、お昼を過ぎるとお母さんたちは明日の準備があるから、と帰って行った。うん、話し相手がいなくなって暇だ。

 なので、私は屋上へと足を向けた。今日は屋上禁止令を喰らっていないので、堂々と屋上へ向かうことが出来る。

 それに、今日は夕飯までは自由だ。ゆっくりと空を眺めることが出来る。そう思いながら屋上の扉を開けると、そこには先客がいた。高校生くらいの、少年だった。

 少年は、私が扉を開けると、その音に反応して、此方を向いて微笑んだ。

 

「こんにちは」

「こ……コンニチハ」

「君も空を見に来たの?」

「は、ハイ」


 うん、こうやって異性の男性と話すのは久しぶりだから緊張するよ。心臓がドクドク言ってる。


「あぁ、ひょっとして君が堤さんが言っていた子かな?」

「えと、ちなみに何て聞いてます?」

「んーとね、晴れたら禁止しようがこっそり屋上に行って空を見る子、だったかな」


 やっぱりバレてたか。うん、でも何も言わないならいいか。

 そう考えていると、少年から声がかけられた。

 

「ねぇ、どうなの?君がそうなの?それとも違う人?」

「あ、そうです」


 私が答えると、少年はにっこりと笑って、自己紹介を始めた。

 

「俺は512号室の朝霧玲斗アサギリ レイト。16歳、高校1年生。君は?」

「あ、片桐琉嘉デス。13歳の、中学2年生」

「琉嘉ちゃんか。可愛い名前だね」


 ちょっ!?!?!?!?そんな真顔で褒めないで欲しい。顔が熱い。心臓がすごい勢いで活動してる。っていうか、発作起こしそう。

 

「琉嘉ちゃん、顔赤いよ。大丈夫?」


 大丈夫じゃありません。あなたのせいですし。そう答えたいのだが、緊張のし過ぎで声が出せない。

 

「あー、大丈夫じゃなさそうだね。堤さん、呼んでくるから待っててくれる?」


 な ん で す と ?

 先刻、堤さんを呼ぶと聞こえたような気がします。それは困ります。堤さんが来たら即刻、屋上禁止令を喰らうではありませんか。

 そう思った私はすごい勢いで首を横に振った。それを見た玲斗君が驚いた顔をする。

 

「あ、えと、大丈夫なんだね。なら、いいんだけど」

「だ、ダイジョウブです!!」


 あ、声が出せた。

 

「そか。安心した。ところで、琉嘉ちゃん、病室はどこ?今度遊びに行ってもいい?」

「あ、510号室です。結構近いですよね」

「うん。俺が512号室だからね。とりあえず、横に来ない?そんな遠くだと話しにくいからさ」


 そういえば、私は入り口のところに突っ立ったままだった。それを思い出して、テクテクと玲斗君の横に移動する。

 そして横に着くと、玲斗君はにっこり笑って言った。

 

「ようこそ、俺の空間へ。仲間が出来て嬉しいよ」

「……俺の空間?」

「ん、ああ。この寒い時期に、屋上なんて殆ど来ないだろう?大半の人は。だから勝手に俺の空間て読んでるんだ」

「なら、ここは私の空間でもありますよね?」


 私が言うと、玲斗君は少し目を丸くした。だがすぐに戻り、言った。

 

「あぁ、そうだね。俺たちの空間だね」


 彼は、笑う。そんな彼の笑みが太陽の光の影響を受けて、神々しく見える。とても、きれいだ。

 

「ところで、琉嘉ちゃんはどうして入院してるの?何の病気?」

「あ、分かんない……デス。誰も教えてくれないから。えと、玲斗…さんはどうして入院してるんですか?」

「敬語使わなくて良いよ。呼び方も自由にしていいから。玲斗君でも玲ちゃんでも玲君でも。個人的には玲君がいいかな」

「じゃあ、玲君、で」


 私がそう言うと、彼はニッコリと笑った。

 

「じゃあ、俺は琉嘉って呼んでいい?『ちゃん』付けるの実は面倒なんだ」

「いいよ。ところで、質問に答えて欲しいな。どうして玲君は入院してるの?」

「ん、俺?俺はね、心臓が生まれつき弱かったんだ。それで、この病院に良い先生がいるって聞いたから転院してきたの。琉嘉はどこが悪いのかは分かる?」

「私も心臓が悪いみたい。中学1年生の時に、体育の授業中に倒れたの。それからずっと此処に入院してる」

「そか。仲間だな」

「うん」


 私はそう言って、倒れた時のことを話した。つまらない話だったろうに、玲君は静かに聴いてくれた。それが、嬉しかった。

 そして話し終えると、玲君は私の頭をよしよしと撫でてくれた。玲君の手は暖かくて、気持ちが良い。

 

「よし、そろそろ帰ろっか。大分寒くなってきたしね。また今度、会った時に色々話そうか」

「うん。また今度」


 そう言って、私たちは一緒に病室に戻った。その途中で、堤さんと顔を合わせる。

 

「あれ?二人とも、もう知り合ったの?」

「ええ。俺が屋上にいる時に琉嘉が来ました。それで色々と話をしましたよ」

「うん。とりあえず、変な紹介の仕方をありがとう。あとで話がしたいな」


 私が言うと、堤さんは目を背けた。怪しい。怪しすぎる。他にも何か言っていたのではないだろうか。

 そんな目を向けていると、堤さんは思い出したかのように明日の注意を言った。話を変えたね。


「細かいことは後からね」


 ええ、そのときに詳しく聞かせていただきましょう。そう思っていると、横で黙って立っていた玲君が口を開いた。

 

「琉嘉、明日外出するの?」

「あ、うん。伯母さんが久しぶりに遊びに来るから、みんなで遊園地に行くの」

「ふーん。そか。楽しんでおいでよ。土産話、期待してるから」


 玲君はそう言って病室に戻った。そして、私も堤さんに連れられて病室へ戻る。さて、詳しい話を聞くお時間ですね。

 

「堤さん、玲君に私のこと何て話したの?」

「空を見るのが好きな子だって話したよ。玲斗君も空見るのが好きだって言ってたから仲良く出来れば良いな、と思って」

「それだけ?」

「それだけです。だから、明日の注意の続きを言っても良いかな?」


 ジーっと睨んでもそれだけ、と言われたのでそれで追求は止める事にした。まだありそうな気はするけど。

 ちなみに、明日の注意の内容は、

『1、お父さんお母さんの言うことを聞くこと』

『2、少しでも辛くなったら誰かに言うこと』

『3、お父さんお母さんから離れないこと』

『4、薬は忘れずに飲むこと』

 の4つだった。ご丁寧に紙に書いてある。明日はこの紙を持って行けとのこと。

 

「ご両親にもきちんと注意は伝えてあるから、ちゃんとしなきゃダメだよー?」

「はぁい、分かってます」

「それならいいよ。あと、今日は消灯時間になったらすぐに寝なさいね?そうしないと明日が辛いよ」

「うん、それも分かってる」


 そして私は夕飯を食べ、消灯時間までの間を読書に費やした。本を読んでいると時間が経つのが早い。あっという間に消灯時間になっていた。

 それを時計で確認した私は、のんびりと布団に潜り込み、熟睡した。今回、夢は見なかった。

 

 

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