◇サヨナラ◇
翌朝。
「あれ?今日はちゃんと起きてるね」
「おはよ、堤さん。昨日はよく寝たからちゃんと起きれたよー」
朝。堤さんがいつものようにやってくる。堤さんは今日はちゃんと起きれている私に驚いている模様。
そして、その驚きをすぐに消して、私に体温計を渡す。平熱でした。
これで今日は何も言われずに屋上へ行ける。
その後、朝食を食べて、朝は読書に時間を費やした。のんびりと、じっくりと。
昼食を食べた後は、玲君の病室へ向かった。一緒に屋上へ行くためだ。
コンコンッ。
病室の扉をノックすればすぐに「どうぞ」との声がかかる。その声を確認して私は玲君の病室の扉を開けた。
「あれ?琉嘉ちゃん。玲に用事?」
「あ、はい」
扉を開けてすぐに反応したのは確か、シンさん。名前の記憶が曖昧だ。
「玲ー。琉嘉ちゃん来てるぞ」
「分かってる!」
玲君はシンさんが言う前に飛んでくる。心臓弱いはずなのに、大丈夫なのかな。
そして玲君は急いで私の近くに来て、私の背を押して病室から出た。私たちはそのまま私の病室へ向かう。
「ゴメンな。琉嘉。俺の病室だとシンにからかわれそうだったからさ。で、今日は何の用?」
「屋上、一緒に行かないかなーと思って」
「あぁ。確かに今日は天気もいいし。よし、行こっか」
そして私たちは屋上へ向かう。随分と涼しくなった。さすがは秋。屋上から見える木が少しずつ色を変えている。
「気持ちいいな」
「うん。やっぱり風を直接感じるのっていいよね」
そう言いながら私たちは空を見上げる。綺麗な空。美しい空。何処までも繋がっていて途切れることを知らない空。
だから私は空が大好きなんだ。自由に空を飛び回りたい。それはいつから描いてきた夢だっただろうか。
小学校低学年の頃は純粋に空を飛んでみたかった。今は、自由に飛び回りたい。何処へでも、自由に。
「琉嘉。今何考えてる?」
「空を自由に飛び回りたいな、って。玲君も思わない?」
「思うな。自由に何処かへ出かけてみたいよ、俺は」
やっぱり玲君も思うよね。私だけじゃないんだ。
そういえば、と。玲君を屋上へ誘った本題をまだ済ませていなかった。早く済ませなきゃ。
「玲君、はい」
私はそう言って玲君にキーホルダーを渡す。これは修学旅行のお土産だ。まだ渡していなかったんだ。
「ん?あぁ、これお土産?俺にもあったんだね。ありがとう」
玲君は優しく微笑みながら言った。よかった、喜んでくれて。趣味に合わなかったらどうしようかと思ったよ。
ついでに、他の人のお土産は既に配布済みだ。というか、お母さんに頼んで渡してもらったのだ。
だって、出れないし。出してもらえないし。しばらくは外出許可下りないだろうな。あー、面白くない。
なので私はゆったりと空を見る。そんな感情を忘れるためにも、じっくりと。
「るーか。そんな面白くなさそうな顔をしながら空を見るなよ。雨降るぞ?愚痴なら聞いてあげるから言ってごらん」
「んー。これでしばらくは外出許可下りないだろうなーと思ってさ」
「あぁ。それはそうだろうね。修学旅行で何日も病院を離れてたんだし」
「偶にはお散歩くらい行きたくならない?」
それを聞いた玲君は笑う。笑いすぎってくらいに笑う。何故。
「あー、笑った笑った」
「どうして!?」
「いや、琉嘉はいい子だなーと思ってさ」
いい子?どこが?いきなり病院抜け出して行方不明になってしかも日本じゃなくてドイツに逃げた私の何処がいい子ですと?
「自虐的だな、琉嘉。琉嘉はいい子だよ。抜け出して散歩に行こうって言う考えは無いんだろう?」
「…………うん。それやったら怖い人がいるから」
「成程」
だって、そんなことをしようものならまずはお母さんから地獄のお説教が来て、そのあとは堤さん、由里先生。ヘタすればお父さんからも説教が来るんだ。
それなら、しない。せずにお説教を喰らわない手を選んだほうがマシ。玲君にそれを伝えるとまたも笑う。
「確かに堤さんが本気で怒ったら怖そうだよね。俺たちが一緒に抜け出したら一緒にお説教か?あっはっは」
「笑い事じゃないよ。私はそれにお母さんと由里先生。ヘタすればお父さんまで来るんだよ?」
それがどれだけ恐ろしいことか。やらなきゃ良かったと後悔するだけじゃ絶対に済まない。それ以上に恐ろしいことになるハズだ。
それだけは避けなければ。あんな怖いのはもう見たくはない。後ろに阿修羅を降臨させて怒るお母さんはヤバイんだ。
「今度、実験してみる?」
いえいえ。遠慮します。やるなら玲君一人でどうぞ。私は怒られるのは嫌なのでやりません。やるならちゃんと許可を取ってからにします。
「なーんだ。面白くないなぁ。せっかく面白いことが起こるかと思ったのに」
「…………玲君、退屈だったんだね」
「うん♪」
即答ですか。それほどまでに退屈だったのか。だからって、こんな怖いお誘いは止めてください。本気でお母さんに怒られるくらいなら私は死を選ぶよ。
セシルに墓前で文句を言われようが何だろうが、お母さんの本気のお叱りよりはよっぽどマシだから。
「さて、これ以上気温が下がる前に戻ろうか。風邪ひいたりしても大変だし」
「そだね。また風邪ひいて堤さんに色々と言及されたくないし」
「されたのか?」
玲君は目をまん丸にして言う。ええ、されましたとも。見せ掛けの笑顔を貼り付けて、目だけは笑っていない状態でね。
それがどれだけ恐ろしかったことか。熱がある状態であれをやられたら結構精神的にキツイです。
それを玲君に言うと、またも笑う。今日の玲君はよく笑うな。疲れないのかなぁ。
「あー、笑った笑った。疲れた。さ、戻ろう?」
玲君は片手は自分の笑いすぎて出てきた涙を拭うために使い、もう片方の手は私に差し出す。私は遠慮なく玲君の手を取り、立ち上がった。
そして病室の前で別れた。さ、スッキリしたし、私は勉強のお時間ですね。
そう思って私は参考書やノートを取り出す。何処を受けるか未だに決めてはいないけれど、勉強だけはしなくては。
今のところ候補はまず、おじいちゃんの学校。それか、近くの公立高校だ。多分、おじいちゃんの学校になるんだろうケド。
「さて、やりますか」
私は近くのiPodを取り出し、セットする。集中するためだ。そして集中できたらとりはずし、真剣に勉強に取り組んだ。
それからしばらくして、病室の扉が叩かれる。お母さんかな。
「琉嘉。入るぞ」
「………お父さん」
来たのはお父さん。久しぶりだ。修学旅行から帰ってきて始めて会った。
「久しぶりだな、琉嘉。修学旅行は楽しかったか?」
「久しぶり。うん、すっごい楽しかったよ」
とここで、お父さんが漸く私の出した参考書やノートの存在に気が付いた模様。少し居たたまれなさそうな表情だ。
「勉強の邪魔したみたいだな。悪い」
「んー。いーよ、別に。久しぶりにお父さんにあえて嬉しいし」
「そうか。あぁ、そういえば、琉嘉。お前、高校はどうする?おじいちゃんの学校へ行くか?」
来たか。避けられないその話題が。どうすればいいのか未だに分からない。本当にどうすればいいんだ。
「それとも、他に行きたい学校があるのか?」
「特に無いけどさ………。ただ、どうすればいいのかなーって」
「最後はお前が決めなきゃいけないことだが、お父さんとしてはおじいちゃんの学校に行って欲しいぞ。そこなら李旺もいるし、叔父さんが先生としてはたらいるから、琉嘉に何かあったらすぐ分かるしな」
そこまで言われたらおじいちゃんの学校以外に選択肢がなくなる気がします。でも、よっちゃんもおじいちゃんの学校に行くって言ってたんだよね。なら、それでいいような気もするけど……。
「もう少し考えさせて」
「ゆっくり考えるといい。一生を左右するからな」
難しい。難しすぎる。どうすればいいんだ。
その後、お父さんは修学旅行の感想を聞きたがり、私は少しずつ話した。その話を聞いているお父さんは楽しそうだ。
「本当に楽しかったみたいだな。よかったよ。まぁ、そのカナイ君とやらは気になるが」
「あー、カナイね。あの迷惑男」
やっぱりお父さんも気になるよね。でもまぁ、それを忘れるくらいに楽しかったからいいや。気にしない。気にしたら出てきそうだし。
それからお父さんが帰るまでずっと、私は修学旅行の話しをし続けた。お父さんはニコニコ笑いながら、偶に相槌を入れながらずっと聞いていてくれた。
「さて、時間も時間だし、お父さん、そろそろ帰るよ」
「あ、もうそんな時間?早いなぁ」
「話をしていれば時間なんてものはあっという間に過ぎ去っていくものだ。じゃ、また今度な」
お父さんはそう言って病室を出て行く。また静かになった。勉強をしようにも、夕飯までの時間が無さ過ぎてやる気が出ない。どうしよう。
結局、その夕飯までのわずかな時間は、ベッドにゴロゴロして過ごした。
それから夕飯を食べてまた勉強だ。受験がどうなるにせよ、一応頑張っておく。受験生だし。
それからテレビを見て、寝た。受験生だってテレビは見たいんだ。
そうしている間に、時は流れる。あっという間に年が明けた。受験まで時間が無くなって来ていた。
「本当にそれでいいんだな?」
「しつこいなぁ。よくなければこうやって話さないよ」
「分かった」
年が明けて、私は進学先をおじいちゃんの学校に確定させた。理事長推薦で、面接を受けるだけでいいらしく、今まで以上に勉強をする必要は無くなった。
「琉嘉ぁ。琉嘉、俺の後輩になるんだって?」
「玲君。うん。推薦に通ればそうなるね」
「通るだろ?理事長推薦だし」
「まぁ、おじいちゃんだしね」
そう言って、私たちは私の病室で笑う。そうやって話すのは大体が私の病室。玲君の病室で笑うことはない。
だって、行ったらすぐに此処に戻ってくることになるし。玲君が嫌がって戻ってきちゃうし。
「ま、受かったら一緒にレポート作成しようか」
「そだねー」
そう言って私たちは笑う。
このときは、まだ何も知らなかったんだ。これからもずっと、こうやって笑い会えると思っていたんだ。
そんな楽しい時間は、ある一つの現象で崩される。
今まで時間をかけてゆっくりと積み上げてきたものも、その一瞬で全て崩し去っていくんだ。
「いっ………!!」
それは、突然。
「くっ………はっ………」
油断している時にやってきた。
「ぐ…………あぁぁぁっ!!」
発作。突然の発作。
痛い。心臓が痛い。苦しい。息が出来ない。
堤さんを呼ばなきゃ。由里先生を呼ばなきゃ。
痛い。苦しい。辛い。
――――死にたい。違う。生きたい。
コンコンッ。
病室の扉がノックされる。誰。誰でもいい。助けて。
「琉嘉?…………っ!!」
誰?涙でうまく顔が見えない。音も、聞こえづらい。誰。
「堤さん!琉嘉が発作起こしてる!!早く!早く来て!」
玲……君?痛いよ。助けて。痛いんだ。
「琉嘉。すぐに堤さんたちが来る。だから、頑張れ。死ぬな!」
「う…………あぁっ!!」
「琉嘉!!」
ダメだよ。痛いんだ。苦しいんだ。目の前が真っ暗になる。でも、それは一瞬。堤さんの呼ぶ声で目を開く。
「琉嘉ちゃん!意識を手放さないで。しっかりこっちを見て」
「つ………つみさ………」
「すぐに先生も来るからね。それまで我慢して!」
痛い。痛い。痛い。意識を手放してしまいたい。でも、ダメだ。堤さんは意識を手放すなと言った。なら、そうしなきゃ。
でも、もう無理だよ。目の前が暗い。もう、ダメだ。
どこかから由里先生の声が聞こえる。でも、もうダメだよ。限界なんだ。
そして、私の意識は途切れた。
ツ―――――――――。
機械の音が聞こえる。「ツー」という音がずっと続く。これは何の音だ。
………そうか。私は死んだのか。あの後そのまま、死んでしまったのか。じっくりみてみれば、ベッドに私が横たわっていた。
何だよ。生きたいと思ったのに結局死んだのか。手術、間に合わなかったじゃないか。生きたかったよ。高校生になりたかったよ。中学の卒業式、参加したかったよ。
「心臓マッサージ!」
「はいっ」
由里先生と他の名前を知らない先生たちが必死で心臓マッサージをする。もう、いいよ。私は死んでるんだ。もう無駄だよ。
「まだだよ」
「…………琉衣?」
「そう。まだだ。まだ少しくらいなら持たせられる。最後の言葉を伝えておいで」
いきなり現れて何を言ってるのやら。私は死んだ。それでいい。
「まだだ。ちゃんと伝えてくるんだ」
「無理だよ。出来っこない」
「大丈夫。僕が助ける。あまり持たないけど、最後の言葉を伝えるくらいは出来るはずだ」
出来るのか。なら、戻る。お母さんたちに言いたいことがある。玲君に伝えたいことがある。だから。
だから、私は再び生きる。たとえ短い時間しか生きられなくても、それでも生きるよ。
ピッ。……ピッ…ピッ…ピッ。
「…!!琉嘉ちゃん!?」
「ゆり……せん……せ……」
息が苦しい。でも、伝えなきゃ。
「おか……さ……たちは?話……した……い……」
「ちょっと待ってね」
由里先生はそう言ってすぐにお母さんたちを呼ぶよう指示をする。それから然程経たずにお母さんたちがやってきた。
「琉嘉!」
「おか………さ……、……とー…さん。りお……に…」
早く、伝えなきゃ。長くは持たない。キツイ。辛い。だから。
「今……まで、ありが……と。大好き……だよ……」
「琉嘉!?」
お母さんたちの目が丸くなる。いきなりこの言葉が来るとは思っていなかったのだろう。でも、これは真実。
「れ……くんにも………伝え……て。ずっと………好きだよ………て」
「そんなこと言うな!それはお前が自分で言うんだ」
無理だよ、お兄ちゃん。だから、私はお兄ちゃんたちに託すんだ。
あぁ、琉衣からの伝言も伝えなくちゃ。お母さんたちに。ちゃんと伝えなくちゃ。
「おか……さん」
「ん?なぁに?」
お母さん、涙目だ。声も震えてる。
「琉衣……が、おかーさ……たち……にっ、お礼……言って…た。名前……ありがと…って」
「!!」
それを聞いたお母さんの表情が驚きのそれに変わる。当たり前か。それは、私の知るはずの無いことなのだから。
「これも……ね、琉衣が……助けてくれた……だよ。最後の言葉………伝えておいで……て。でも、も……時間ない……ぽい…ね」
目の前が暗くなる。苦しい。息が吸い込めない。苦しい。
もう終わりか。でも、ちゃんと伝えるべきことは伝えた。もう、十分だ。
「琉嘉!死ぬな!生きろ!」
私は、目を瞑る。もう、無理だから。
そして目を開けると、また、上から私自身を見ていた。
「1月12日、午前7時26分。ご臨終です」
由里先生の声が、私の死を告げる。
今日は12日だったのか。あれから1週間近く経っている。私は1週間近くも寝ていたのか。
あぁ、お母さんが泣いてる。お父さんは涙を堪えてる。お兄ちゃんも、涙を堪えてる。やっぱり、私は死んだのか。
信じたくなかった。でも、真実だ。私は、死んだ。それは覆しようのない事実。
「来ちゃったね、完全に」
「琉衣」
気が付くと、琉衣が私の目の前にいた。私が死んだから出てきたのだろうか。
「まだ来て欲しくなかったんだけどなぁ。仕方の無いこととは言えども」
「私だってこんな早くに死ぬ予定は無かったよ。手術も受けるつもりだったし」
「分かってる。君のせいじゃない。でも、やっぱり僕も悲しいんだよ」
私のせいじゃない。そう言ってくれるだけで嬉しい。私が死んだのは私のせいじゃない。つまりは、天命。
「琉嘉。ちゃんと僕の伝言、伝えてくれてありがとう。ずっと、言いたかったんだ」
「最後に話をさせてくれたんだから、それくらい普通だよ。気にしないで」
そうだよ。私は琉衣のおかげでみんなに最後の言葉を残すことが出来た。ちゃんと、お礼を言うことができた。だから、いいんだ。
寧ろ、私がお礼を言わなくちゃ。ありがとう、琉衣。
「琉嘉」
話を終えてふと私を見てみると、玲君が来ていた。お兄ちゃんが呼びに行ったのだろうか。玲君が、私の遺体の前で立ちすくんでいる。
「な………んだよ。死んだのかよ。生きてって言ったのに…。俺、あの時死ぬなって言ったのに……」
玲君の目から涙が溢れ出す。
「何で、先に行くんだよ!お前は俺をまた一人にするのかよ………」
玲君は完全に泣き崩れた。そんな玲君にお兄ちゃんが優しく声をかける。
「玲斗。誰が一人だ?俺がお前を一人にすると思うか?」
「は?」
「一人になるのが嫌なら俺がいてやる。俺は健康だから先には死なんぞ?」
「……は……ははっ。『ふたつの魂が、嗚呼、俺の胸に宿っている』ってか?」
「…ゲーテのファウストか。いい趣味だ」
「さんきゅ」
泣いていた玲君が呆れて笑う。でも、それで涙は無くなったようだ。
よかった。やっぱり玲君には涙は似合わない。笑っているほうが似合う。
「あぁ、そうだ。忘れる前にちゃんと言っておかなきゃな」
「何をだ?」
「琉嘉の最後の言葉。『ずっと好き』だそうだ。よかったな」
玲君。あなただけはどうか幸せで。あなたは私みたいに早く死なずに、出来るだけ長く生きて。だから。
お兄ちゃん。玲君を一人にしないで。私の大好きなお兄ちゃん。玲君がいればお兄ちゃんも一人になることはない。だから。
お父さん。お母さん。二人より早く死んじゃってゴメンね。もっと生きたかったよ。迷惑かけたぶん、返したかったよ。でも、もう無理だね。だから。
彩ねぇ。伯母さん。一緒に遊びに行くの、楽しみだったよ。いつも。実際、楽しかった。これからも何度も遊びに行きたかった。感謝してる。だから。
おじいちゃん。おばあちゃん。おじいちゃんの学校に行くことを決めてすぐ死んじゃってゴメン。いつも本を買ってきてくれるの、嬉しかったよ。だから。
堤さん、由里先生。いっぱい心配かけたり面倒かけたりしたのに優しく接してくれてありがとう。堤さんたちのおかげで、病院生活が少しは楽しくなったよ。だから。
本谷先生。毎週毎週、ノートのコピーをとってきて、解説までしてくれてありがとうございました。おかげで随分と助かってました。だから。
よっちゃん。小さい時からずっと一緒だった親友。大好きだったよ。高校生になっても一緒にいたかったよ。でも、もう無理だから。
だから、どうか、みんな幸せで。私は死んだ後も、みんなの幸せを願い続けているから。ずっと、ずうっと。
「さて、行こうか?琉嘉」
「うん」
そして、私は琉衣と共に天国へ旅立った。
これから神様に体を返しにいくよ。
それから眠ろう。
次に新しい生を受けるまで、昏々と。
いつか、玲君が言ったように。
私は、眠るんだ。
そして願わくば。
私の次の転生先が、玲君、お兄ちゃん。
あなたたちの側でありますように。
出来ることなら。
玲君。お兄ちゃん。
私はあなたたちどちらかの子供として、新たな生を受けたいです。
もちろん、琉衣も一緒に。
私たちは切り離せない絆で繋がってる。
だから。
だから、また会いましょう。
その時まで、さよなら。
―神様。15年間お借りした体を今お返しします。―
FIN
これで完結です。
読んでくださった皆さん、ありがとうございました。