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19/21

◇修学旅行4◇

「………るぅちゃん大丈夫?隣の先生呼んで来ようか?」

「大丈夫。眠いだけ。よっちゃん、ちょっと寝ていいかな?時間になったら起こして………」


 そう言って私は夢の世界に旅立った。だって、もう限界だし。


 声が、聞こえる。誰だ。これは誰の声だ。


「片桐さん。片桐さん、大丈夫ですか?」

「るぅちゃん、やっぱ具合悪かったのー!?」

「脈に異常は無いですけどね。よっぽど疲れきっちゃったかな」


 ……本谷先生に、よっちゃん。そして由里先生か。何で、此処にいる。

 あぁ、まだ頭がボーっとする。一体何事だ。まだ眠たいんだ。


「んぁ………?」

「片桐さん」

「るぅちゃん!」

「おはよう、琉嘉ちゃん。調子はどうかな?」


 あぁ、五月蝿い。まだまだ頭はボーっとしてる。だるい。眠い。もう一度寝たい。

 そう思って目を瞑ると、由里先生から妨害を喰らった。何故だ


「今寝たら夜眠れないでしょう?起きて起きて」


 こんにゃろう。私は未だ閉じられかけている瞼を無理やりこじ開ける。光が目に入る。眩しい。

 その中で、本谷先生とよっちゃんが心配そうな顔をしている。大丈夫だよ、眠たいだけなんだから。


「琉嘉ちゃん。今どんな感じ?」

「……眠たいせいで頭がボーっとしてるよ。無理やり起こされたし」

「それは琉嘉ちゃんの寝起きが悪いだけだね。他は何かある?」

「………無い」


 由里先生はニコニコと微笑みながら脈を取っていた。さっきやったんじゃなかったのか?異常は無かったんじゃないのか?相変わらず読めないな。

 その後、体温計を渡される。今晩も先生の部屋でお休みフラグですか?うわぁ、嫌だ。

 それは何とか避けることが出来た。熱は無かったからだ。だから、疲れただけだろうという結論が為された。助かった。


「とりあえず、クラスの集まりは片桐さんが寝てる間に終わりましたから、もうすぐ夕食です。あと30分ほどしたら食堂へ来てくださいね」

「はい。済みません」


 寝てる間にクラスの集まりは終わってたのか。あぁ、それでよっちゃんが本谷先生に相談したのかな。それで由里先生まで来たのか。

 自分の寝起きの悪さに文句を言いたくなるな。

 そして先生コンビは去っていく。あぁ、平和。


「良かったよ何にも無くてぇ」

「心配かけてごめんね、よっちゃん。大丈夫だよ。眠ったから体力も回復したし」


 先生ズがいなくなるとよっちゃんが私に抱きついて言う。よっぽど心配をかけていたようだ。

 でも、大丈夫。さっき眠ってたおかげで体力的にはかなりいい感じなんだ。とりあえず、お腹空いたな。


「ご飯まで後30分くらいだっけ?お腹空いたぁ」

「あはは。るぅちゃんもお腹空いたんだ。でも、30分なんてすぐだって」

「うん。それまで我慢だね」

「まぁ、お菓子を食べるって言う手もあるけどね」


 私の決意をスパッと断っちゃったよよっちゃんてば。でも、そそられる。


「るぅちゃん。動けるくらいに食べておいたほうがいいんじゃない?多分食堂着いたらみんなに集られちゃうだろうから」


 あー、その問題もありましたね。呪いですね。呪われてますね。


「るぅちゃんが起きない、って先生に言ったらみんな聞き耳立ててたらしくて聞かれちゃってさ。だから、すごいことになるんじゃない?」


 嫌だ。ていうか何でみんな聞き耳立ててるのさ。何の嫌がらせ?これ嫌がらせだね。大事なことなので二回言ってみた。


「とりあえず、糖分とって体力を回復させよう。ホラ、私チョコ持ってきてるし。半分こして食べよう」

「うん。ありがとーよっちゃん。好き」


 私はそう言ってよっちゃんに抱きつく。よっちゃんはびっくりしていた。まぁそうだよね。普段はよっちゃんが私に抱きついては来るけど、私からは抱きついていかないし。

 そのせいか、心なしかよっちゃんの顔が赤い。やりすぎたかな。


「も……もう。いきなり抱きついてこないでよー。びっくりしちゃった」

「嫌だった?」

「ううん。いきなりだからびっくりしただけ」

「なら、いいね」


 そして私たちは半分こしたチョコを二人で食べる。そうしている間に30分という時間はあっという間に過ぎ去ろうとしていた。


「あ、そろそろ移動しなきゃだ。行こう」

「うん」


 食堂へ移動していると、後ろからクラスの子達が集ってくる。よっちゃんの言ったとおりだ。


「片桐さん大丈夫?」

「心配したよー」

「るぅちゃん、もう大丈夫なの?」


 他多数。

 そんなクラスの人たちに、私はまとめて返事を返した。


「大丈夫。疲れて起きれなかっただけだから。心配かけてすみませんでした」

「そっか。よかった」


 私が心配をかけたことに謝ると、みんな安堵の息を吐く。ホント、相当心配をかけてしまっていたようだ。

 昨日から何度も何度も申し訳ない。

 その心配の声は、食堂に着いてからも続いた。私はそれに対して少しずつ、謝罪の言葉を述べる。ご飯を食べる前に体力を使いきってしまいそうだ。

 その後、みんな揃って夕飯の時間だ。夕飯はやはり量が多いが、美味しかった。私の食べきらない分はよっちゃんが全部平らげたし。

 さすがよっちゃん。四次元胃袋の持ち主(笑)。

 その後お風呂に入り、今日は部屋で騒ぐことなく眠りについた。みんな、今日の自由行動で疲れていたのだろう。


 翌朝。修学旅行最終日。


「ん………あぁっ」


 朝。鳥の鳴く声で目が覚めた。時計を見ると、まだ起床時間にはなっていなかった。早く起きすぎたか。

 やることが無くて暇な私は、ふと、隣のベッドを眺める。そこではよっちゃんが何をどうやったらそうなるのか分からない格好で寝ていた。よっちゃん、寝相悪いの治ってないな。

 それから少しして起床時刻となった。起床時刻になると、あらかじめセットしていたアラームがなる。よっちゃんはそれで目を覚ました。


「………あれ?おはよ、るぅちゃん。早いね」

「おはよーよっちゃん」


 よっちゃんはまず体を伸ばしてから体を起こす。その間に私はトイレに行くことにした。

 用を済ませてトイレから出ると、よっちゃんが既に待機している。待たせてしまったかな。

 後は、着替える前に私は由里先生の元へ行かなくては。トイレから出てきたよっちゃんにそれを伝え、私は隣の部屋へ向かった。

 部屋をノックすると、すぐにどうぞという声が聞こえる。早い。


「おはよう、琉嘉ちゃん。今日は調子はどう?」

「おはよ、由里先生。昨日ぐっすり寝たからいい感じ」


 そう言った後に、体温計を渡される。とりあえず、大丈夫でしょう。

 思ったとおりだ。至って平穏。平熱。問題無し。


「さ、じゃあ診察しよっか。お腹出して」


 そして再び昨日と同様に冷たい聴診器が当てられる。早く終わらないかな。冷たいのって嫌いなんだ。

 診察が終わった後、私は部屋へ戻る。戻って着替えなきゃ。

 部屋に戻ると、よっちゃんは既に支度を完了させていた。早いな。私も急いで支度をしなければ。

 そう思いながら急いで動いていると、よっちゃんから声がかけられた。


「まだ時間あるから焦らなくていいよ。ゆっくりやって♪」

「……ありがと」


 そんなよっちゃんの厚意に私は礼を言って、支度のスピードを落とす。おかげで冷静にやることが出来た。

 そして支度を終えた頃、丁度いい移動開始の時間になっていた。


「よし、じゃあ朝ごはん食べに行こう」

「うん」


 そして私たちは食堂へ向かう。今朝もバイキング方式だった。とりあえず、好きなものを食べられそうな分だけ取る。

 勿論、よっちゃんは取るものすべてが山盛りだ。イッツア四次元胃袋マジック。

 そして、朝ごはんを食べた後は食堂でそのまま全クラス合同で先生の話を聞いた。それはこれからのことだった。


「これからホテルをチェックアウトして、バスへ移動します。それから大村市をクラス単位で観光し、空港で合流します。そして、飛行機で戻ります。昼食は機内でお弁当を食べることになります」


 あぁ、そういえばしおりには大村市の観光とか何とか書いてあったっけ。忘れてた。


「ごみはちゃんと分別して置くように。では、1組から退場しなさい」


 先生の声に、1組の生徒が少しずつ立ち上がり食堂を去っていく。それから然程せずに2組の退場が始まった。


「荷物は大体まとめてあるから楽だよね」


 私は部屋に戻る途中、よっちゃんと話した。まぁ、元々荷物をあまり出してないから基本楽なんだよね。

 それはよっちゃんも同じ。だが、後ろにいたタカちゃんは違った模様。


「お二人さん、何でそんな準備いいの?」

「そういう性格だから」


 暗い声で質問をしてくるタカちゃんをよっちゃんはバッサリと切り捨てる。容赦ないな。

 まぁ、確かにそれ以外言いようは無いような気もしなくはないけど、もっとダメージが少なくなるような言い方は無かったのかな。

 まぁ、とりあえず、この言葉が一番今のタカちゃんには無難かな。


「タカちゃん。頑張れ」

「……うん。頑張る」


 そしてタカちゃんとも別れた私たちは部屋に戻ってきていた。


「荷物大体まとめてるから時間まで暇だよね。何か喋る?」

「うん。そうだね。そうでもしないと暇だよね」


 私たちは荷物を簡単にまとめながら喋る。まとめる荷物の大半はお土産だ。いろんな人に配ろうとたくさん買ったので、少し邪魔に感じるんだ。

 まぁ、買ったお土産の大半はカステラだけど。長崎って言ったらカステラだよね。うん、そうだよね。

 そして、私たちは色々と話す。将来の夢。志望高校のこと。私はまだ将来の夢もよく分からないし、志望する高校も決めてないけど、それでも聞いているだけで楽しかった。


「ね、るぅちゃん。一緒にるぅちゃんのおじいちゃんの学校に行かない?あそこなら勉強のレベルも高いし、入院しててもレポートで単位が取れるんでしょ?」

「え?」


 いつの間にそんなこと調べたんだ。それに、どうしてわざわざおじいちゃんの学校なんだ。遠いのに。


「だって、片桐学園て大学まであるでしょ?そこの大学、法学部あるじゃん。私、将来弁護士になりたいんだ♪」


 すごい。将来の夢を定め、それに向かって突き進んでいるのか。私には夢が無い。持てない。


「よっちゃん、すごいね」

「すごくないよ。だからさ、一緒に行こう?私、るぅちゃんとはずっと一緒にいたい」


 ………これは愛の告白ですか?いえ、同性ですから違いますよね。よっちゃん、レズの道に突っ込んでないよね。突っ込んでたらちょっとヤバイかな。


「言っておくけど、本気だよ?私はずっとるぅちゃんと一緒にいたい。一緒に笑っていたい」


 本気で百合の世界に足を踏み込んでしまった模様。確かに、私もよっちゃんは好きだけど、百合属性は無い。私はノーマルだ。

 そんな私の様子に気が付いたのか、よっちゃんは話を変えてきた。「考えておいて」と言い残して。


「さて、まだ暇だし、タカのとこ、様子見に行ってみる?」

「あ、うん。そうだね」


 そして私たちはタカちゃんや栄ちゃんたちの部屋へやってきた。


「タカー。入ってもいい?」

「いいよん」


 中から聞こえる返事はタカちゃんのものではなく栄ちゃんのものだった。栄ちゃんは準備を終えたのかな。


「やほ。何の用?」

「タカの荷物片付けの様子を見物にね」


 よっちゃんがそう言うと、栄ちゃんと他の同室の子たちが笑う。やっぱり苦労してるのか。


「まぁ、生暖かい目で見守ってやってよ」


 そんな声に、よっちゃんが笑い声を上げる。耐え切れなかったようだ。

 ていうか、暖かい目じゃなくて『生』暖かい目ですか。


「笑うなバカヨシ!」

「バカヨシ言うな!委員長!」

「バトル開始だね。この間にも片付ければいいのに」


 二人のバトルを見て、栄ちゃんが冷静に突っ込む。教えてあげようよ。そう言ったら笑って返された。


「これで、あとからタカが焦るのを見るのが面白いんじゃんか」


 いい性格をしていらっしゃる。栄ちゃんも結構性格悪かったのか。でも、確かにそうかもしれないからいいや。

 あえて突っ込むまい。突っ込んでも多分無駄だし。

 ちなみに、タカちゃんはそのことに自分で気が付いたらしい。いきなりバトルを止め、片付けに入った。

 よっちゃんは面白くなさそうだ。


「ヨシ。ダメじゃん、気付かせたら」

「ホントだよ。せっかく面白かったのに。馬鹿由佳」

「あーあ。面白いもの見過ごした」


 よっちゃんはタカちゃんの同室三人に立て続けに文句を言われる。何か可哀相だぞ。


「よっちゃん、大丈夫?」

「あ?大丈夫大丈夫。慣れてるから。学校ではよくやってるから」

「そなの?」

「うん。だから心配無用だよっ♪」


 そうなのか。ならいいな。でも、三人とも結構遠慮なしに言ってたな。結構人間って変わるものだ。小学校の時大人しかった子が遠慮なく色々言えるようになってる。

 とりあえず、私たちは部屋へ戻ることにした。集合の時間が近付いているからだ。


「部屋に戻ったらまず、ごみの分別かな」

「だね」


 私たちは部屋に着くと、まずゴミ箱のチェックに入った。燃えるごみと燃えないごみを分別する。あぁ、面倒くさい。

 そして分別を終えてしばらくして部屋を出る。ちょうどよく集合時間が近付いていたのだ。


「今日は大村の観光をして帰るんだっけ?」

「そうだよー。今日で修学旅行はお終い」


 あれ。何だか寂しいぞ。あぁ、修学旅行が楽しすぎたからか。だから終わるのがこんなに怖いのか。

 でも、終わりの無いものなんていない。全ては、いずれ終わる運命にある。だから、終わらせなくてはいけない。足掻いてはいけない。

 私は、足掻かない。


「2組の生徒。集合しなさい」


 ホテルを出ると、バスの側で本谷先生が声を上げる。大変だな。


「おや、加々見に片桐さん。準備はいいですか?」

『はい』

「では、荷物をバスの下に載せて、乗り込んでください」


 そして私たちは大きい荷物を運転手さんに渡してバスに乗り込む。席は適当らしい。なので、とりあえず後ろから詰めて乗ることにした。


「あれ?タカはどうした?」


 バスの後ろへ行くと、栄ちゃんたちが座っていた。但し、タカちゃんはいない。それに気が付いたよっちゃんが即座に聞いていた。


「片付けに手間取りすぎて私たちまで遅れそうだったから置いてきた」

「タカなら大丈夫でしょ」

「ま、委員長だしね」


 いやいや。ダメだろう。タカちゃんは大丈夫なのだろうか。


「まぁ、席も取ってあるから大丈夫だって。タカなら何とかするって」


 栄ちゃんたちは「あはははは」と声を上げて笑う。笑っちゃダメでしょう。てか、栄ちゃんたちって結構性格ひどいな。

 まぁ、栄ちゃんに関してはカナイって言う問題児がいたからこその性格かもしれないが。

 それからしばらくして、時間ギリギリのころに漸くタカちゃんはやってきた。何とか間に合いましたね。


「あ、タカー。此処此処。席取ってるよー」

「栄ーっ!」


 のんきな声でタカちゃんを呼ぶ栄ちゃんにタカちゃんは怒鳴る。置いていかれたのがよっぽど辛かったんだね。

 まぁ、そうだよね。普通置いていかれたら悲しいよね。

 それでもタカちゃんは取っておかれた席に座る。そこで、漸く私やよっちゃんに気が付いたらしい。


「あれ?片桐さんにヨシ。結構早くにバスに来たの?」

「うん。タカが荷物をまとめるのに苦労している間にね」

「相変わらずヨシは嫌な性格だな」

「タカに言われたくない」


 見事にバトル開始ですね。とりあえず、止めるべきかな。そう思って栄ちゃんたちの方を見る。栄ちゃんは笑っていた。


「大丈夫だって。この二人の言い合いもいつものことだからさ」

「そうそう。珍しくないことだし。それに、これで二人とも楽しんでるんだって」


 そうなのか。でも、気になる。そんな気持ちを読まれたのか、栄ちゃんがニヤリと微笑みながら私に言う。


「気になるんでしょ」

「うっ!」


 図星だ。すんごい気になるんだ。

 それが表情で分かったのか、栄ちゃんは二人の喧嘩を止める。栄ちゃんはいとも簡単に二人の喧嘩を止めてしまった。


「タカ。ヨシ。これ以上喧嘩続けるつもりなら本谷先生に言うよ。二人揃って怒られる?ていうか片桐さんが気にしてるから。いい加減ヤメロ」


 それを聞いた二人の動きが一瞬にして止まる。やはり二人とも本谷先生は脅威のようだ。まぁ、分かるけどね。確かに本谷先生怖すぎだしね。

 そうやって話していると、丁度良く本谷先生が乗車してくる。外での先生たちの話し合いは終わったようだ。

 私たちの集まっている状態に本谷先生はあっさりと気付く。これはやばいかな。


「おや。加々見、谷戸。あなたたち、何かしてましたか?雰囲気が怪しいですよ」


 バレてーら。これはヤバイ。修学旅行初日の脅しが実現するのか。よっちゃんたちのせいで私たちまで被害喰うのは嫌だよ。連帯責任はきついよ。


「まさか、また喧嘩ですか?初日に言ったこと、覚えています?」

「や、やだなぁ先生。私たち、喧嘩なんてしてませんよー。ねぇ、ヨシ?」

「そ、そうだよ。ね、るぅちゃん」


 え!?私に振らないでよ。私、この状態で嘘吐くのヘタなんだから。ドイツにいる時もこれで嘘吐けずにバレたんだよ。


「片桐さん。どうなんですか?」

「あ…………うぅぅぅぅぅ」

「何も唸らなくても。本当のことを言ってくれればいいんですよ」


 先生はニッコリ笑いながら私に話しかける。でも、目が笑っていない。怖い。

 どうやって逃げようか。私が答えれば、間違いなくバレる。よし、こうなったら。


「その答えは栄ちゃんがくれます」


 嘘が上手そうな栄ちゃんに任せよう。私じゃ無理だ。

 それを聞いた栄ちゃんが意味を汲んでくれたようで、淡く微笑んだ。


「さて、ではどうなんですか?鳳さん」

「してませんよ。いつもみたいに二人でじゃれあってただけですから」


 見事。一切嘘と感じさせること無く言い切った。まぁ事実、喧嘩と感じていなかっただけかもしれないが。

 だがとりあえず、先生は騙せたようだ


「それなら構いません。実際に喧嘩をしていたのならばバスの中で延々とお説教の予定でしたが」


 騙せてよかった。騙せなかったらバスの中で疲れきる現象がクラス全員に起こっていたことでしょう。

 私はそれで間違いなく体力使い果たして大村市の観光が出来なくなっていただろうと思う。ホント、よかったよ。


 そしてバスは出発する。高速を使って大村市へと向かった。

 大村市へ着くと、大村純忠に関連する場所へ向かう。大村純忠とは日本初のキリシタン大名だった人だ。

 私たちはまず、三城さんじょう城跡へ向かった。三城城とは大村純忠の築いた城で、寛永14年に幕府の命令で廃城となった城だ。

 この城は長崎に石垣で城を築く技術が入る前に築かれた城らしい。石垣ではなく土塁や空掘に周囲を囲まれていた。

 その後は大村純忠終焉の居館跡へ向かった。別名坂口館と呼ばれていて、昔は大村家の重臣である庄頼甫の屋敷とも言われていたらしい。のちに龍造寺隆信の圧迫を受けて領主の座を退いた大村純忠が晩年に隠居した屋敷らしい。

 それは、今は公園となっていた。


 そこの観光まで終わらせると、後は帰るだけだ。私たちは空港へ向かう。空港へ着いた私はもう疲れきっていた。

 飛行機の搭乗手続きはあとどれくらいしたら始まるんだろう。とりあえず、眠いなぁ。

 そんな私の様子に気が付いたのか、由里先生が私の元へやってくる。そして、横に座った。


「琉嘉ちゃん。疲れた?」

「………うん。疲れた。眠いよ」

「搭乗手続きまでまだ時間あるらしいからしばらく休んでなさい」

「うん。おやすみ………」


 体力の限界が近付いていた私は、あっさりと由里先生の提案にのる。そして、由里先生の肩に頭を乗せて、目を瞑った。あっさりと眠りの世界へと旅立つ。

 もう、ダメだ。限界。


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