◇修学旅行3◇
そして次のターンがやってくる。その次のターンで朝陽ちゃんはしっかりとドローフォーを仕掛けてきた。それをやられた栄ちゃんが悔しそうな顔をする。
「どうして朝陽、ドローフォー持ってるのさ!?この人数なら朝陽が持ってる可能性低かったのに」
「日頃の行い。栄はいつも弟苛めてるからこんな目に遭うんだよ♪」
朝陽ちゃんがすっごく嬉しそうだ。………否。楽しんでる。
そしてその後も残り1枚まではみんな行くものの、中々上がることが出来ない状態が続いた。その均衡を打ち破ったのはタカちゃんだった。
「よっしゃ、あがりーっ!」
「おー、やっとあがりが出たかぁ」
「長かったねー」
タカちゃんがあがりを宣言すると同時に、みんなが反応する。みんな悔しそうではあるがスッキリとした顔をしている。
まぁ、誰もあがれなくてマンネリ化してたしね。
その後、次々にあがりが出て行った。ちなみに、私は6番であがることが出来た。今残っているのはよっちゃんと栄ちゃんの二人である。
「さて、どっちが先にあがるかな。誰か、賭けない?お菓子でさ」
最初にあがったタカちゃんが提案すると、みんな次々にノっていく。私も勿論、ノる。さて、一応よっちゃんに賭けますか。
「人の勝負を賭けにするな!委員長!」
「こんな面白いもの、賭けずに何をしろというんだ、このバカヨシ」
あぁ、与り知らぬところでまたタカちゃんとよっちゃんのバトルが始まる。でもま、タカちゃんが笑ってるから止めなくてもいいか。
ちなみに、よっちゃんに賭けたのは同じ小学校だった子達で、栄ちゃんに賭けたのは違う小学校の子達だった。見事だね。
「うっしゃ!あがりぃぃ!」
とここで勝利宣言をしたのはよっちゃん。つまり、賭けは私たちの勝ちだ。ある一人の子が委員長に手を出す。他のみんなもそれに倣って手を出した。
「ターカ。お菓子ちょうだいっ」
「ほら、るぅちゃんも請求しなきゃ!」
私がその様子を黙ってみていると、近くに座っていた子から手を引かれる。私も手を伸ばした。
「…………お菓子持ってくる」
「私も」
それに他の子たちもずらずらと続いていく。さて、どんなお菓子が来るでしょうか。楽しみだね。
それは他の子たちも同じの模様。みんなそわそわしている。
そして、その後に持ってこられたお菓子をみんなで分けて食べた。みんなでたくさん話しながら、食べた。
やはり、みんなで騒ぎながら食べるお菓子は美味しい。でも、ちょっと疲れた。………体力落ちたなぁ。
そんな私の様子に気付いたのか、よっちゃんが私の横に移動してきて、言った。
「るぅちゃん。どした?大丈夫?」
「え!?片桐さん、どうかしたの!?」
よっちゃんが言うと同時に他のみんなも反応する。さすがに、17人全員の心配の声は五月蝿いな。
「だいじょぶだよ。ちょっと疲れただけだって」
私が言うと、よっちゃんが心配そうな顔をして私の顔を覗き込んだ。
「顔色悪いよ?本当に大丈夫なの?」
「あー、じっくり見てみれば確かに顔色悪いような気がする。ヨシ、よく気付いたね」
「伊達にずっと一緒にすごして来たわけじゃありません。で、大丈夫?病院の先生呼んでくる?」
………由里先生を呼ぶのは勘弁して欲しいな。でも、やはりそれは叶わぬ夢。
「もう、栄が呼びに行ったよ。あ、戻ってきた」
言われて見てみると、部屋の入り口に栄ちゃんと由里先生が立っていた。来なくてもよかったのに。
「あらら。結構顔色悪くなってるね。相当はしゃいだのかな?」
「はしゃいだって言えば、相当はしゃいだ。でも、大丈夫だって。疲れただけだよ」
ちなみに、私がこうやって由里先生と話している間に、他の部屋の子達はみんないなくなっていた。タカちゃんが戻るように言ったらしい。
ついでによっちゃんも邪魔にならないようにと出て行った模様。
「本当に大丈夫かな?」
「大丈夫だってばぁ」
先生しつこいよ。疲れただけだから休めば善くなる。そう思っていると、不意に目の前に体温計が現れる。……どこに持ってたんだ。
「熱測ってごらん」
体温計を受け取り、脇に挟む。熱なんて出してないと思うのに。こんな元気なんだから、熱なんて無いだろう。
測定が終わる。その体温計のディスプレイを見て少し驚いた。
「どうだった?」
「………37度3分」
「やっぱり少し熱出してたか。まぁ、今日はいっぱい興奮したりしただろうからね」
………予想外。
明日の自由行動行けるかな。行きたいな。くそぅ。
「今日は先生の部屋で寝なさい。同室の子にうつってもいけないからね」
「……はぁい」
そして私たちは部屋を出た。よっちゃんは部屋の外で待っていたらしい。私が部屋を出ると、じっと見ていた。
「片桐さん、少し熱があるので今日は私の部屋で寝かせますね」
そんなよっちゃんに先生はニコニコと微笑みながら言う。それを聞いたよっちゃんは私の方を見て、口を開いた。
「熱があるって、大丈夫なの!?」
「大丈夫だよぅ。先生が大袈裟なの」
それを聞いたよっちゃんは安心したのか、安堵の息を吐いた。それに由里先生がさらに安心させようと言葉を放つ。
「熱があるといってもたいした事はないから、明日は普通に行動できますよ」
それを聞いたよっちゃんの表情はさらに嬉しそうな顔にかわる。そして、私は先生の部屋のベッドに横にされた。
その後、額に濡れたタオルが置かれる。冷たくて気持ちがいい。
それから、私は目を瞑る。まだ眠たくはないし、眠たくはならないけれど、明日の自由行動のために、体を休めることにしたのだ。
すると、声が聞こえる。由里先生が本谷先生の部屋に電話をしているらしい。今日は私はこの部屋で寝ることになることを知らせているのか。
そういえば、もうすぐ点呼の時間だっけ。消灯の時間が近付く。その中で、私は独り、早く寝よう。
明日の自由行動のために。天主堂へ行くために。
そんなことを考えていると、どんどんと睡魔が襲ってきた。眠たい。
…………堕ちた。
翌朝。修学旅行二日目。
「あら、目が覚めた?おはよう琉嘉ちゃん」
「おはよ、由里先生」
朝、目が覚めるとすぐ傍の椅子に座っていた由里先生から声がかけられる。……まさか、ずっと其処で起きてたのか。
「少しは寝たよ?」
そう返されても、信用できない。すっごい気になる。
「ほら、そういうことは気にしなくていいから、まずは熱測ろうか」
体温計を受け取り、測る。結果は良好。
「36度5分。オッケーだよね?」
「うん。ちゃんと下がったね。でも一応聴診器あてとこうか。はい、お腹出して」
先生はそう言って聴診器をいろんな場所に当てた。……ホント、聴診器って冷たいよね。
「大丈夫そうだね。でも、無理は禁物だからね」
「はーい。分かってまぁす。じゃ、部屋戻ってもいいよね!?」
「うん。起床時間は過ぎてるから同室の子ももう起きてるだろうし」
そして私は隣の部屋の扉をノックした。中からよっちゃんののんびりした声と、鍵の開く音が聞こえる。
「!!」
よっちゃんは私の姿を視認すると、まず驚いた。そして、その驚きが消えると一気に飛びついてきた。
「るぅちゃん。もう大丈夫?昨日心配したんだよぅ」
「大丈夫だよ♪心配かけてゴメンね」
私たちは部屋に入り、しばらく話した。それから少しして、昨夜ご飯を食べた食堂へ向かう。朝ごはんはバイキング方式だった。
食べたい分だけ皿に盛って2組のテーブルへ向かうと、それに気が付いた女子のみんなが私に声をかけてきた。
「あ!片桐さん。大丈夫?」
「るぅちゃん平気?」
「自由行動、出来るの?」
と、次々に質問が飛んでくる。私はそれに総まとめで答えることにした。
「昨日は心配かけてごめんなさい。でも、大丈夫。自由行動も大丈夫だって」
私がそれを言うと、女子だけでなく男子のほうからも「おぉ」という声が上がる。何故。
そしてその後、取って来た朝食をのんびりと食べ、薬を飲んだ。ちなみに、よっちゃんは今朝も四次元胃袋を披露している。……よく食べる。
ご飯を食べた後は、またクラスごとに集まるらしい。2組は昨日と同じ大広間だ。私たちはお喋りをしながら移動する。
大広間に着くと、私はまず、本谷先生に捕まった。昨日体調を崩したことを気にしているらしい。
「片桐さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫です。由里先生に聞いてません?」
「聞いていればもっと安心してますよ。大丈夫ならいいんです」
そしてみんなが揃うと、先生の話が始まった。今日の自由行動についてだ。
「さて、今日は以前みなさんに出してもらった自由行動の予定通りに街を歩いてもらいます。それにあたって、もし何かあったときのために各班に1台携帯電話を渡しておきます。通話ボタンを押せば私の携帯に繋がるようになってますから。各班の班長、取りに来てください」
そう言って先生は携帯を1台ずつ手渡していく。願わくば、この携帯を使わなくて済みますように。
「あと、くれぐれも車や路面電車に気をつけるように。事故があったらその瞬間、修学旅行は終わりですからね」
『はーい』
「さて、後、何か質問がある人はいますか?」
それに手を上げる人はいない。男子も昨日のおふざけ質問で懲りたようだ。
「無いのなら、各班部屋に戻って準備をしてください。これから約1時間後に出発です」
先生が時計を見ながら言う。そして生徒はみんな立ち上がり、部屋へ戻っていった。私たちも部屋へ戻る。
「ね、よっちゃん。私たち、何処行くんだっけ?」
実は、天主堂以外覚えていないんだ。天主堂だけが興味があって覚えていたのだが、他は………まぁ、あれなんだ。
「ウチの班はね、浦上天主堂と大浦天主堂。んでグラバー園にも行くよ。それと水辺の森公園ってトコと出島にもにも行くよ。それが終わったらホテルに戻るの」
成程。何か、ホント学ぶ旅だな。でもま、いっか。楽しそうだし。
「さて、んじゃま、とっとと制服に着替えよっか。よっちゃん、歯磨きと着替え、どっちを先にしたい?」
「んー、じゃぁ、先に歯磨きを」
「じゃ、るぅちゃん洗面所先に使ってて。私、るぅちゃんが歯磨きしてる間に此処で着替えておくから」
「分かった」
私はそう言って歯ブラシや洗顔石鹸を取り出し、洗面所へ向かう。洗面所へ行き、まずは歯を磨く。その後にしっかりと顔を洗った。まだ寝ぼけ気味だった頭が冷める。
全てを済ませて洗面所を出ると、よっちゃんは既に歯ブラシを持って待機していた。早いな。
「チェーンジ」
よっちゃんは朝からテンション最高潮の模様。強い。
そして入れ替わった私はのんびりと制服をクローゼットから取り出して着替えた。襟が変にならないよう、ちゃんと直す。
その後は持っていくものを小さなバッグに移し変えた。
まずは、財布。筆記用具。お昼用の薬。何かあったときのための由里先生の連絡先が書かれた紙。後は定番のハンカチちり紙など。
そして、時間が来て部屋を出る。部屋を出ると、由里先生が立ちはだかっていた。……何がしたいんですか。
「琉嘉ちゃん。何かあったらすぐに私の携帯に連絡頂戴ね」
「……分かってますって。まだ死にたくないですし」
私が答えると、由里先生は満足そうに微笑んで部屋に戻っていった。今のうちに仮眠するつもりかな。
とりあえず、私たちはロビーへ向かう。ロビーへ行くと、一緒の班の子達は既に揃っていた。私たちが最後らしい。
「遅いよ、加々見に片桐さん」
「ゴメンよー」
「あ。加々見さん、片桐さん。鍵、先生に預けてきた?まだなら預けてこなきゃだよ」
ロビーに着くと、一人の男子が文句を言ってくる。…待たせて済みませんでした。
それを聞いたもう一人の男子がさっきの男子を勇めるように話を変える。それを聞いたよっちゃんは急いで先生の元へ鍵を預けに走った。
「片桐さん、身体、大丈夫?」
「あ、うん。大丈夫。心配してくれてありがとう」
私が心配をしてくれたことに素直に礼を言うと、質問をしてきた男子が顔を赤くする。……風邪?
「違うから大丈夫。まぁ、片桐さんのフォローは加々見がするだろうから大丈夫かな」
「うん。私はお前よりはるぅちゃんのこと知ってるからね」
そんな男子の言葉によっちゃんが口を挟む。いつの間に戻ってきたんだか。
それからその男子とよっちゃんの口喧嘩が始まる。止めるべきかな。でも、どうやったら止まるのかな。
そう思いながら顔をキョロキョロと動かしていると、もう一人の男子と目が合う。その男子は目が合うと同時に口を開いた。
「二人ともコレで楽しんでるから大丈夫だよ。とりあえず、片桐さん。少しでも調子が悪くなったらすぐに言ってね。俺たち全員で出来るだけフォローするからさ」
「あ、ありがとう」
私がお礼を言うとその男子はニッコリ笑って二人の喧嘩を止めに入った。……そういえば、男の子たち二人とも名前知らないや。後で聞かなきゃ。
そしてその二人の喧嘩が止まってから私たちは出発した。
「ところで、二人とも、名前を教えてくれませんか?」
私が言うと、二人が目を丸くする。いきなりこの質問が来ると思わなかったのかな。
だが、すぐに立ち直って言った。
「俺は斯波拓斗」
よっちゃんと喧嘩していたほうが斯波君。
「僕は橋本健。よろしく」
そして、その喧嘩を止めた物腰の柔らかいほうが橋本君。よし、覚えたぞ。これで声をかけるときに呼び方に困らなくて済む。
ちなみに、私たちは今路面電車に乗っている。人が多くて座れない。それは別にいいのだが、予想以上に揺れる。カーブは特に激しく揺れて怖い。
「あ、席開いたよ。片桐さん座りなよ」
「いいの?ありがとう」
次の電停について席が開くと、すかさず橋本君が座るよう言ってくれる。橋本君って優しいな。
カナイとは大違いだ。カナイは私の嫌がることばっかりだから。
…………そうやって、カナイのことを考えたのがいけなかったのでしょうか。それとも、別の要因があったのでしょうか。どちらにせよ、最悪。
「あれ?琉嘉ちゃんじゃん。え、何?浦上天主堂行くの!?なら一緒に行こう。いいよね?」
ちなみに、カナイのこの確認は私たちに向けてではなく、カナイの班の人たちに対してである。
「とりあえず、俺たちはいいんだけど。片桐さんはいいの?」
「片桐さんが嫌なら僕ら徹底的に鳳を避けるけど、どうする?」
それは勿論、避けます。カナイに近付くとろくなことが無い。
「嫌だ。絶対に嫌だ。他の人たちは全然構わないけどカナイが一緒なのは絶対に嫌だ」
「あーぁ。鳳、片桐さんに何したんだ?徹底的に嫌われてんじゃん」
私が拒否の言葉を出すと同時に、橋本君や斯波君。他にもカナイの班の人たちがからかうような声を出す。カナイは面白くなさそうだ。
「えー!?何で俺だけダメなのさー。俺は琉嘉ちゃんと仲良くなりたいだけなのにー」
「病院でとことん人に迷惑かけてきた人と仲良くする気はありません」
「そんなこと言わないでさー」
「ヤだ」
「琉嘉ちゃーん」
カナイはそう言いながら私に接近する。嫌だ近寄るな離れろ。そう思っていると、よっちゃんが救いの手を差し伸べてくれた。
「鳳。いい加減にしないと栄に言いつけるよ♪」
「え!?」
よっちゃんがそれを言った途端、カナイの動きが止まる。カナイは栄ちゃんが苦手なのか。………いいことを知った。
「加々見。頼むから栄には言わないで」
「ならるぅちゃんから離れろ」
カナイは渋々私から離れる。助かった。私はそのままよっちゃんの後ろに避難した。カナイ避けだ。
「るぅちゃん。鳳で嫌なことがあったら栄に言えばいいよ。栄がうまく懲らしめてくれるから」
「うん。ありがとうよっちゃん」
「よし。じゃ、僕たちは先に行こうか」
そして私たちは浦上天主堂へ向かった。
ちなみに、この後も何故か移動するたびにカナイと遭遇するという不吉な事態が起こった。そのあまりの遭遇っぷりに、よっちゃんのみならず斯波君も軽く怒っている模様。
「こら、叶。お前ら、パクっただろ?」
「そんなことして何のメリットがあるのさ?」
「片桐さんと顔を合わせることが出来る」
斯波君の言葉に反論を返したカナイだったが、その後の橋本君の言葉に黙り込んだ。実は図星か。そうなのか。このド迷惑男め。
私がカナイを冷めた目で見ていると、カナイが反論してくる。あぁ、聞くの面倒くさい。
「ちょ!?そんな冷めた目で見ないでよ。俺、誓って言うけどパクってないからね!!」
「ならどうしてそこまで遭遇する」
「………俺の琉嘉に対する愛の力?」
殴っていいかな。殴っていいよね。うん、殴ろう。何処殴ろうか。何処が効くのかな。よし、お腹を殴りましょう。
思い立ったが吉日。考え付いたなら即実行。
「ぐはっ」
「おー、ナイスパンチ」
「片桐さんやるねぇ」
「ふむ。結構いい一撃だな」
カナイが呻き声を漏らすと同時に、見ていた他の人たちから賞賛の声がかかる。あぁスッキリした。
「自業自得だな、鳳。コレに免じて栄に言うのはやめておいてあげる」
「これはありがとうというべきなのか?加々見」
「言うべきだろ。あの栄の恐ろしい圧力を受けずに済むんだから」
カナイはまだ辛そうだ。あぁ、スッキリする。ざまぁみろ。ふざけたことをぬかすからこうなるんだ。
「あはは。ホントいい一撃だったね。とりあえず、鳳が復活しない間に僕たちは行こうか」
橋本君、カナイの苦しむ姿を見てとことん楽しんでるね。でも、これ以上カナイと遭遇したくないから早く行こう。
そしてその後も呪われているのかというくらいにカナイと遭遇した。マジでウザイ。あとから栄ちゃんに報告しよう。
そうやって、私たちの修学旅行の自由行動は幕を閉じた。後はホテルに戻るだけ。あぁ、カナイのせいで無駄に疲れた。
ホテルに戻ると、ロビーに各クラスの先生が並んで待機していた。本谷先生は何処だろう。あぁ、いた。
「おかえりなさい。片桐さん、加々見、斯波君、橋本君。自由行動は楽しかったですか?」
『はい』
私以外の三人はニッコリ笑って返事をする。私は楽しかったといえば楽しかったのだが、アイツのせいで疲れたため返事が出来なかった。
「おや?片桐さんは楽しくなかったのですか?」
「いえ、楽しかったんですが、しょっちゅうカナイと遭遇しちゃったので無駄に疲れました」
「鳳君とですか。中々面白いですね」
人事だからって楽しんでるな。
「まぁ、事故等もなくて何よりです。さ、鍵を取りに言って、時間まで部屋で待機していてくださいね」
『はーい』
そしてよっちゃんと橋本君は鍵を受け取りに先生の元へ行く。その間、私は斯波君と話していた。
「ね、片桐さん。叶のどこが嫌?」
「…………ウザイとこ」
「あぁ、ね。確かにアイツウザイよね。でも、いいトコもあるんだよ、片桐さんは知らないけど」
「ねぇ、斯波君。聞いてもいい?」
「ん?いいよ。何?」
斯波君の話を聞いていて、ふと思う。何故斯波君はそうまでしてカナイを庇うのか。だから、聞いてみた。
「一応、俺、アイツの友達だからさ。あそこまで嫌われてると憐れというか、少し可哀相な感じがしてね。だから、少しくらいフォローしておこうかと」
「斯波君、優しいね」
ホント、何であのバカのフォローをしようという気になれるのか。不思議だ。
そうこうしている間によっちゃんと橋本君が戻ってくる。部屋に戻ろう。戻ってゆっくり休もう。
部屋に入ると、ベッドメイキングがされ、皺が綺麗に伸ばされていた。自由行動の間にやってくれてたのか。
「疲れたーぁ」
「鳳のせいで?」
「うん。何であんなにもカナイと遭遇しちゃったんだろう」
「あのバカが何かしたんじゃない?」
私たちはベッドに寝転びながら話す。そうしていると、どんどんと眠たくなってきた。寝てはマズいので、無理やり身体を起こす。
「るぅちゃんどした?」
「いや、寝転んでたら寝そうだったから…………」
だが、起き上がっておける時間は然程長くなかった。目の前が揺れると思ったら、気が付いたときにはベッドに倒れこんでいた。コレって結構ヤバい?