それは、デートですか? ・3
Side 美咲
うー、なんか異常に恥ずかしい……
美咲は自宅の最寄り駅の改札をくぐりながら、風が吹くたびにふわりと揺れるフレアスカートの裾を片手で気にする。
スカートなんかほとんどはかないし、仕事上スーツではいたとしてもタイトがほとんどで。
こんなふんわりしたスカートなんて、小学校時代、親に着せられた以外他にない。
基本、ジーンズが私の私服。
ホームに着くと次の電車が来るまで十分近くある事に気づいて、隅の方にあるベンチに腰掛けた。
これなら裾を気にしなくてすむし。
課長との待ち合わせは、電車で五つ行った先の大きい公園がある駅。
街に出ても良かったんだけど、会社の人にあまり見られたくないのと、ずっと忙しい課長を休ませるため。
大体、課長がショッピングとか映画とか似合わない似合わない。
私が笑い転げてしまいそうだ。
ホームに電車が入ってくるのを確認して、ベンチから立ち上がる。
靴はバレーシューズだからいいとして、やっぱりスカートは嫌だなぁ……
電車の起こす風に揺れるスカートを押さえながら、開いたドアから中に入る。
反対側のドアに背をつけて、息を吐いた。
今日どこに行くかとか何も口を出さなかった課長が、唯一、出した要望。
――ジーンズ以外
恥ずかしかったのかそれだけ言うと、アパートへ続く路地に駆け込むように歩き去っていってしまった。
それを思い出して、思わず顔が笑う。
あの無表情で、可愛いんだから。
スカートはいてきてくれって言えなくて、考えた挙句の言葉なんだろうな。
まぁ、それを推し量って、望むものをはいてくる私も私なんだけど。
思わず口を押さえて、笑いを抑えた。
Side 哲
隣では、真崎が窓の外に視線を向けながらニコニコと甘ったるい笑みを零している。
頭ん中では、どーやって課長をからかうか、考えを廻らせているはず。
ま、それはおいておいて。
何、にやけてんだよ。美咲の奴。
笑みを消して無表情のまま、美咲の立つドアから間に一つ開けた車両の一番端のドアにもたれて横目でその姿を見ていた。
見てて、恥ずかしい奴だぞー
声をかけられるものならさっさと指摘して止めさせるんだけど、そうするとばれるしな。
こうやってデートの邪魔をするのもなんだと思いますが。
これくらいはいいだろー、俺、先月まですげぇがんばったし?
それに真崎のストッパー役でもありますし?
はっはっは、大丈夫。
よもや、深いとこまで邪魔しようとはしません……か……ら?
そこまで考えて、ばっと顔を上げる。
思い出したのは、組み敷いたあの時の美咲。
深いとこ?
あの状態に、二人がなるかも?
いや恋人同士なら当たり前の事だし、現に、付き合い始めたって報告があった時美咲に“お前、結婚までお預けとか? ”なんてふざけたけど。
現実味を帯びた状況に、思考がストップする。
思わず、頭を抱えた。
何で俺、あんなことしちゃったんだよ!
しなきゃ想像つかねぇのにっ!
うぁぁぁ、なんで朝っぱらからこんなこと考えなきゃいけねぇんだぁぁぁっ!
「――瑞貴?」
泥沼につかり始めた俺を引き止めたのは、真崎の怪訝そうな声。
瞑っていた目を開けて、奴を見下ろす。
そこには、少し呆れたような表情の真崎。
「何考えてんのか大体想像つくけど、ここ電車。恥ずかしいよ、頭抱えて悩む男って」
そう言われて視線だけあたりに向けると、ちらちらとこっちを見る乗客に気付く。
内心焦って美咲を見たけれど、向こうは向こうで脳内思考にはまっているのか、こっちには気づいてないらしい。
ほっと息を吐くと共に、若干のイラつき。
ほう、美咲の奴、脳内お花畑になるくらい課長の事考えてるってか?
俺がこんだけ悩んでるってのに。
いい度胸だ、美咲の癖に。
くそう、思う存分邪魔してやる!
見てろよ、課長め!
「八つ当たり~」
まるで俺の頭を覗いたような真崎の呟きが、耳の中をすり抜けていった。