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それは、デートですか? ・1
Side 美咲
「どこか、お出かけですか?」
掛けられた声に、美咲の体が不自然なほど強張った。
音がしそうなほどゆっくりとした動作で後ろを振り向くと、歯ブラシを銜えた加藤くんの姿。
Tシャツにスウェット姿なのは、起きたばかりだからだろう。
美咲は玄関で靴に片足を突っ込んだまま、ぎこちなく口端を持ち上げた。
「ん? いや、ほら。仕事……」
「私服で?」
――
「……そう」
――
「お疲れ様です、いってらっしゃい」
なんとなく間があった気がするけれど、加藤くんは銜えていた歯ブラシを手に持ってにこやかに笑った。
なので美咲も微笑み返して、玄関を閉めた。
ドアにもたれて、美咲は改めて自分の格好を見る。
ロング丈のフレアスカート、ベージュのツインニット。
淡いカラーのバックバンドサンダル。
おまけに、いつもは括っている髪は何もせずおろしただけ。
仕事には見えないよね? あーっ、ホント見えないよね??
阿呆な事言っちゃったと肩を落として、美咲の一日は始まった。