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とある日の瑞貴家 前編 (お礼SS)

本編終了後。

瑞貴家で暮らし始めた後――





――とある日の、瑞貴家――





瑞貴 哲弘、二十六歳。

ただいま振られたばかりの幼馴染(と、そのおまけ達)と同居中。






所属する企画課は、個人プレーが多い。

よって同じ企画課にいても、美咲とは帰宅時間が同じになることは少ない。


最寄り駅に着いて自宅に向かって歩き出した俺の背中に、呼びかける声。

その声に振り返ると、改札を抜けてくる見知った顔が視界に入った。

「おーい、瑞貴。珍しいねぇ、ここで会うの」

甘ったるい笑みを浮かべた、おまけその一、真崎 昴。

「おまけその一って、なにさ先輩に対して。まったく、素直じゃないんだから」


……人の脳内思考を読み取るな


嫌そうに眉を顰めて、並んで歩き出す。




駅から家まで約十分。

冬も終わりに近づき寒さが和らいできたとはいえ、まだコートのお世話になるような気温。

美咲(とおまけ達)が同居し始めてから、既に一ヶ月が過ぎようとしている。

来週はもう、三月。

春に向かって、季節は移ろいでいく。



「ねぇねぇ、美咲ちゃんは先に帰ってるの?」

隣で鼻歌でも唄いだしそうな真崎をじろりと見下ろすと、小さく息を吐く。

「知らないっすよ。あいつ、午後は外回りだったから」

課長と。


最後の言葉は口の中に残したまま。


次の企画は、課長と美咲、二人で進めるんだそうだ。

仕事上、一緒にいることが多くなった二人。

俺が見たことのない、表情をするようになった美咲。

なんだか、凄く悔しい。


もう一度溜息をつきながら、視線を前に戻した。


幼い頃から通いなれた道は、それだけにいろいろな思い出がいたるところにあって。

俺だって課長の知らない美咲を知ってるって、対抗する気持ちが生まれていることに内心空しくなる。

大切なのは、思い出の中じゃない。

大切なのは、現在なのに。


美咲、美咲って、ホント俺も諦め悪い。



「馬鹿な子だねぇ。こうなるなんて、分かってたことだろうに」


隣からの声に、真崎がいたことを一瞬忘れそうになっていた自分に気付く。


「諦めるべき対象が毎日目の前にいれば、そんなことが無理だって事、分かってたでしょ? 僕、あの時言ったよね」


「うるせぇな」


ぼそっと呟いてそっぽを向くと、真崎は呆れたような声を上げた。


「そのやせ我慢、いつまで続くのかなぁ」

「やせ我慢じゃない。俺は、弟だ」


真崎に言いながら、自分に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。


「俺は、美咲の弟だから」


弟に見えるように、頑張ってる最中だ。


「本当に、お馬鹿」


呆れ声の真崎に何の言葉も返す気が起こらず、そのまま前だけを見つめる。

角を曲がって見えてきた自宅には、明かりが灯っていて。

美咲か、おまけのどちらかが帰ってきているんだろう。



自宅に誰かがいるって、結構幸せ。

それが美咲だってことが、すげぇ幸せ。


たとえ、限られた時間でも。

あいつに、家族の時間を味合わせてやりたい。

俺が子供の頃、与えてもらっていたその時間を。


門扉を開けて中に入る。

玄関脇のチャイムを鳴らして、ポケットから鍵を取り出した。




その為なら、我慢するさ。


どんなに、美咲を抱きしめたくても。

どんなに、その肌に触れたくても。

どんなに、その唇に……



「おかえり、哲!」


鍵を差し込もうとしたドアが、思いっきり開いて明るい声が響いた。


驚いて鍵を持ったまま固まった俺。

その目の前で、にこにこと笑うエプロン姿の美咲。


「た……ただいま」

「ただいま、美咲ちゃん!」

俺の言葉にかぶるように真崎が声を上げて、おもいっきり美咲に抱きついた。

「てめっ」

固まっていた俺はその姿を見て慌てて真崎のスーツの襟首を掴みあげると、美咲から引き剥がす。

「何すんだよ、瑞貴ー。美咲ちゃんとの抱擁を!」

「するな、エロ親父」

ぎろりと睨んで、そのまま家の中に放り投げる。

美咲は苦笑しながら、俺たちのやり取りを見ていた。


「あはは、哲、ありがと。ご飯は? 作ってあるけど、食べる?」

すでに風呂に入ったのか、少し濡れている髪をクリップで上に纏めたその姿は、本気で理性を試される。


今だけ真崎になりたいとか思っちまう、自分が嫌だ。


なるべく首元うなじともいうを見ないように視線を反らしながら、頷く。


「食べる食べる。すげぇ、腹減った」

美咲はそんな俺に気付かずに、笑みを浮かべた。

「良かった。今日早めに帰ってこれたから、哲の好きな餃子、大量に作ったんだよねー。早く着替えておいで。先にお風呂入るなら、お湯溜めてあるから。ほら、真崎先輩も」

そういいながら、靴を脱いでいる真崎にも声を掛ける。

美咲は、甘ったるい笑顔で真崎が頷くのを見届けると、鼻歌を唄いながらキッチンへと戻っていった。


その後姿を見送って、強張っていた身体から力が抜ける。

「美咲ちゃんは、天然だねぇ。僕も一応、男なんだけどなぁ。濡れ髪、色っぽすぎー」

「――真崎」

威圧感たっぷりに見下ろすと、分かってるよ、と真崎は肩を竦めた。

「加藤は純粋に先輩として慕ってるからいいけど、もう少し警戒心を持って欲しいなぁ。僕にも瑞貴にも」

「……家族に、警戒心はもたねぇだろ」

靴を脱いで家に上がると、階段を使って二階の自分の部屋に向かう。

後ろからついて来ている真崎に、前を向いたまま話を続けた。

「俺は、弟だ」


その言葉に、後ろで溜息が零れる。

「ま、頑張って思い込んで。自分で招いた事態なんだから、切り抜けてね」

「大丈夫だよ。真崎を殴ったり蹴り飛ばすことがあっても、美咲を悲しませることは絶対しないから」

「それもどうなのさ」

苦笑しながら、お互い部屋に入った。


スーツを着替えながら、頭をガシガシとかき上げる。


そう、俺は甘かった。

同居=家族の時間

その公式しかなかった。


寝起き、風呂上り、エプロン姿、その他もろもろ……

そんな姿を見て、どう諦めをつけろってんだ。

自分で自分を、嘲りたくなる。


しかもそんな美咲を見て、素直に喜んでる自分がいたりするのが阿呆すぎる。

俺って、ホント……



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