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佐和加奈子の一日 拍手お礼 3

「柘植会長、失礼いたします」

昼食を終えた後、会長室に戻り鍵を開けると、佐和はにこやかな笑みを浮かべてドアを開けた。

その途端、横をすり抜けていく大柄な身体。

そうなることを予想していたかのように、佐和は素早い動きで一歩後ろに下がってその姿を背中で見送る。


「佐和のどえすーーっっ!」


そんな叫び声を上げながら、その声の元、柘植会長は物凄い勢いで会長室のドアを駆け抜けていった。

佐和はゆっくりと振り返ると、口元を緩く曲げた指で隠しながらくすくすと笑う。

「あらあら、口のお悪い」

きっとここに真崎以外の誰かがいたら、その笑いに身を凍らせていただろう。

真崎は、きっと一緒になって笑っているかもしれないが。

佐和は会長室のドアを閉めると、廊下出るドアの傍に立つ。

するとほっとしたような顔をした柘植会長が、一番近くにあるトイレから出てくるのが見えた。

柘植会長は会長で、口元を引き攣らせながら佐和のいるドアへと歩いてくる。


「普通さ、部屋に鍵付ける? しかも外から! しかも、それ掛けて昼飯にいくとか!」

ぶつぶつと語尾を強めながら文句を言ってくる柘植会長に、佐和は綺麗な笑みを浮かべた。

「ご自身の招いたことですわ。何かご不満でも?」

そう言って部屋に入る会長と共に、半身をずらしてそのドアを閉める。

柘植会長は会長室のドアについている鍵に目を落とすと、その前で溜息をつきながらしゃがみこんだ。

「これか、なら……」

「そうですわ。設備の者に言っても取らないように伝えておりますので、……無駄ですから」

先んじて言うと、ムッとした唸り声を出しながら鍵を指先でなぞる。

そして螺子を撫でると、なら……と口を開いた。

「プラスドライバーで……」

「取っても構いませんが、その後どうなるか分からない会長ではないですよね?」

「……」


全ての選択肢をつぶされたようで、柘植会長はがっくりと肩を落とした。

「昨日の俺を、止めに帰りたい……」

「まぁ、是非お願いしたいですわ」

しゃがみこんだまま顔だけ上げて佐和を見た会長は、何を言っても無駄だと悟ったのか溜息をついて立ち上がった。

「ホント、佐和くんは優秀すぎて困っちゃうよ」

「お褒めの言葉、ありがとうございます」

「口説き落とすのは、至難の業だろうなぁ」

「……」

柘植会長の言葉に、表情を変えないまま佐和は口を噤んだ。

しんと静まり返った部屋に、人の気配。


――いつの間に……


「でも、それが出来ちゃったら凄いと思いませんか? 柘植会長」


佐和は口端を軽く上げながら、声のした方に顔を向けた。


「ねぇ、佐和?」


部屋の隅のほうから歩いてくるその姿に、目を細めた。

「まぁ、不法侵入ですか?」

「ちゃんと会長には声掛けたけどね、今。心の中で」

やり込められることの無い、その口調。

高い場所からこちらを見下ろしてくる、あまったるい笑顔。


「夕方からいらっしゃる予定の真崎課長が、なぜここに?」

目の前で足を止めた真崎は、さも当然のように笑みを深めた。

「佐和に早く会いたいからに決まってるじゃない」

「迷惑ですけれど」

「ふふ、いいねぇ。佐和の毒舌」

「……あのさぁ」

佐和と真崎の会話に、おずおずと割り込んできた声に、二人同時に振り向く。

「S同士の会話って怖いから、どっか他でやってくれないか?」

柘植会長の言葉に、佐和は真崎に視線を戻す。

「ですって。どうぞ、お帰りはあちらになります」

「柘植会長、僕がここにいるのと佐和と二人きりなの、どっちがいいです? とりあえず、トイレの時はちゃんと出してあげますよ」

真崎は佐和の言葉を聞き流すと、柘植会長に向いたまま言葉を続けた。

「さっきは大変そうでしたねぇ。あんなにドアを叩いて自分の秘書に懇願する会長って、どこの会社にもいないでしょうねぇ」

「聞いてたんなら、開けてくれればいいだろうっ」

食いつこうとする柘植会長を、真崎はにっこりと笑って首を傾げた。

「佐和に怒られることはしたくないですもん、僕」

「すでに不快で仕方ないですけれど」


不穏な空気に耐え切れなくなったのか、柘植会長がいきなり叫びだした。

「あぁぁっ、佐和!」

「はい、何でございましょう」

動じない、佐和。

柘植会長は真崎を指差して、反対の腕にはめられた腕時計を目の前に出した。

「三時半まで、真崎課長に企画広報部の話聞いて会議の下準備をしておくように。場所は五階小会議室」

佐和の目が、冷たい色を浮かべる。

その視線に押されそうになりながら、柘植会長はなんとか逃げ出したくなる足をその場に止めた。

「ご命令ですか?」

「そうだ」

佐和は一度口を噤んでから、分かりましたと頭を下げた。


「では、三時半に一度戻ってまいります。それまでに……」

「分かってるよっ! ちゃんと終わらせておくから!」

耐え切れなくなったのか、柘植会長は目の前の会長室のドアを開けると逃げるように中へ駆け込んだ。

「あっ、鍵は閉めるなよ!? ホントにさっきはぎりぎりだったんだからな!」

「まぁ、では次からは……」

「用意しなくていいからな! もう逃げないから、勘弁してくれ!」

泣きながらドアを閉めた会長を笑顔で見送って、佐和はゆっくりと頭を下げた。

「では、よろしくお願いいたします」

その声が聞こえたのか、部屋の中から分かってるって言ってるだろー! と叫び声が聞こえてきた。


佐和は上体を戻すと、にっこりと真崎を見上げた。

「では真崎課長、よろしくお願いします」


面白いショウのような二人の応酬を見ていた真崎は、甘い笑みを浮かべた。


「もちろん」



佐和を前に、小会議室へと歩き出す。

その後ろを歩きながら、真崎は自分のいる会社のトップって一体誰なんだろうと、先ほどの美咲と同じ疑問を脳裏に浮かべていた。


東北地方太平洋沖地震に被災された皆様に、心よりお見舞い申し上げます。


思うことは沢山、けれどどう書いていいのか分からないのです。

短い言葉でのお見舞い、申し訳ございません。



更新をどうしようか考えていましたが、少しでも楽しみにしてくださる皆様にお届けしたいという自分勝手な理由で再開しました。

このような時期に不謹慎かもしれません。

申し訳ございません。


少しずつ、日常に戻りたいとそう願う気持ちも、あります。

調整停電内にあり、書く時間も制限されておりますのでゆっくりとなりますが

どうぞよろしくおねがいします。


ごらん下さり、ありがとうございました。


遠野 雪

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