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真崎のお話 拍手お礼 8

――真崎 昴 (三十一歳) 神奈川支社企画広報部課長 





「……まさか、ここまで深く拗れてるとは、思わなかったなぁ」




美咲の白いドレス姿を見ながら、真崎は深く溜息をついた。

隣にいた佐和が、怪訝そうに真崎を見上げる。



美咲の深い不の感情は、瑞貴の事じゃなかった。

それは、ほんの一部で。

まさか自分が戯れ程度に紹介した取引先の部長が、美咲の父親で、しかも離婚していたとは思わなかった。



会ってしまった所為で、いろいろな事が起こって。

あの時ほど、自分を責めたことはない。

彼女が心から笑えることを願っていたのに、まさか自分が古傷を抉り出してしまうきっかけになるとは思わなかった。




けれど、今、思えば。

過去に向き合う事ができて、よかったと思う。

辛かったけれど、彼女には支えてくれる手がたくさんあったから。




その中の一人と、今日、美咲は結婚する。

人一倍無表情で、負けず嫌いで、素直じゃない、加倉井課長と。

美咲を、壊れ物を包み込むように大切にする課長と、一年半の付き合いを経て。



少し遠くから二人を見つめる佐和は、本当に嬉しそうで。

心から喜んでいるのが、見て取れる。




「ねぇ、佐和」

そんな佐和に、ゆっくりと声を掛ける。

「なんですか?」

自分を見つめる佐和に、真崎は思わず目を細めた。



「自分でも、凄いって思うんだけど」



「……何がです?」

「佐和は僕が、美咲ちゃんを好きだったって思ってるでしょ?」

「あぁ、やっぱりまだ好きなんですか? じゃぁ、今日は厳しいですね」

何かに合点がいったように、その視線を美咲たちに戻す。



「いや、別に? だって俺は、」

「……え?」


一人称が変わったことにびっくりしたんだろう、視線が戻される。

その驚いたように見上げてくる佐和に、真剣な顔を向けた。



「俺、一年目から佐和が好きだったから」



「……は?」


呆気にとられたその顔に、思わず口端が上がる。


「美咲ちゃんをからかってたのは、佐和が慌てるから。まぁ、すぐに美咲ちゃんも好きになったからそれはそれで一石二鳥だったけどね」

佐和は、固まったまま。

真崎は、言葉を重ねる。

「美咲ちゃんへの好きは、妹に近いものだけど。けれど、彼女を一度ラウンジで傷つけた事があっただろう? だから、彼女が心から笑う日が来るまで俺も自分の幸せを見るのはやめようと思った」


「あの?」


「自分勝手な戒めだけど。で、今日は何の日?」


佐和はいつもと勝手が違うからか、問われた事をそのまま口にする。

「美咲の、結婚式」

「そ。彼女は幸せになった。心から、笑ってる。だから、俺も自分への戒めを解こうと思って」

少し落ち着いてきたのか、佐和が一歩後ろに下がる。



「軽薄だと思ってたでしょ、俺の事。その実六年以上、佐和に片思いって凄くない?」

下がった分だけ、真崎も前に出る。

押されぎみの佐和の態度が新鮮で。




「てことで、これから口説き落とす予定だから。覚悟してて」




上体を屈めて顔を近づけてそういうと、一瞬口を噤んで息を吐いた。

その一連の動作で、自分を立て直したらしい。


「私、先輩のこと嫌いです」


いつもの綺麗な貼り付けた笑みが、顔に浮かぶ。

弧を描く唇が、意志の強さを感じさせる。


真崎はその言葉に、思わず苦笑した。

体勢を戻すと、別にいいよ、と呟く。



「嫌われてるなら、これ以下はないからね。その内、佐和から落ちてくるさ」

「どんな自信ですか」



くすりと笑う佐和は、すでにいつもの彼女。



「俺、負けるのは嫌いなんだ」

そう伝えると、

「私、落ちませんよ」

佐和が笑う。



「こんなことまで勝負事なんて、負けず嫌いの俺達には丁度いいかもね」

「ふふ、さっさと諦めてください?」


こんな時まで笑顔を貼り付ける俺達は、一体なんなんだろうと思うけど。

俺達らしいといえば、そうなのかもしれない。




真崎は微笑むと七年目になる思いを込めて、佐和へと言葉を伝えた。




「佐和、好きだよ」




佐和から返る言葉は想像がつくけれど。

それでも、伝えたい。今まで、ずっと我慢してきたんだから。



「佐和。俺は、君が好きだ」




君の心に、届くまで。



これにて、真崎のお話終了です。

こんなに一気投稿したの、初めてです(笑

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