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真崎のお話 拍手お礼 5

思いを馳せた、はずだった。

のに。



久我をからかおうとすると、佐和が全力で阻止してくる。

それはそれでいい。

人形じゃない彼女を見られるのは、それは楽しかった。

最初はよかった。

思った以上に素直で真面目な久我にも、好感を持っていた。


けど。


綺麗に笑いながら真崎を威圧する佐和を、笑いながら抑える久我。

彼女になら見せる笑顔も何もかも、自分には向けられていないことに気付いた。

久我がいなければ見られない感情ならば、自分の影響は一ミリも佐和に対してないわけで。



「僕、何やってんだろ」


思わず呟いた言葉に反応したのは、すぐ斜め前のデスクにいる佐和だった。

胡乱げな表情で真崎を見ると、その眉が綺麗な弧を描く。


「仕事以外のなんですか?」


入社して既に半年以上たった彼女は相変わらず素は見せなかったが、なかなか見所のある毒舌OLに変貌していた。

綺麗な顔から繰り出される毒舌に最初こそ驚いていた回りだったけれど、真崎で慣れているからかもしくは納得するしかないと思ったのか、諦めたらしい。


今では、その矛先にならないようにこっそり美人を観賞している。

いや、こんな毒舌でも観賞する奴らに、ある意味拍手喝采を送りたいが。



真崎は頬杖をつきながら、佐和を見る。

「そうだねぇ、仕事以外の何物でもないねぇ。じゃあ僕は少し出かけることにするよ」

「は?」

意味が分からないとでも言うように聞き返す佐和に、手をひらひらと振って広報部を後にする。



ここ最近、佐和と久我のことを考えている気がする。

振り回すのは得意だけど、振り回されるのは嫌なんだよね。


そう思いながら、ラウンジに行こうと階段をおり始めると、上から呼び止められて振り返る。

「久我さん……」

なんでこう、タイミングよく……

「やっぱり、真崎先輩。お疲れ様です」

トントンと軽い足取りで階段を降りてくると、真崎の横について歩き出した。

「事務課に用事?」

久我さんが持つ書類に目を落とす。

商品管理課である彼女は、デスクワークが多い。

だから部署を出て用事があるなら、ラウンジか事務課だろう。

案の定、総務に用事ですと書類を少し持ち上げて笑う。


かわいい

うん、可愛い。


きっと、この子は何の裏もない。

屈託なく笑う、素直な性格。

分かってるんだけど。


「それ置いたら、ラウンジ行かない?」

「は?」


その顔には、なんで? と思いっきり書かれている。


「奢るよ」

「はい!」


その一言で、久我は階段を駆け降りて行った。

その姿を呆気にとられながら、見つめる。

軽快に響く足音は一階に着いたのか、遠のいていった。


思わず笑いが込み上げてきて、口元を手のひらで覆う。

現金な子だ。

本当に。


真崎は二階のラウンジに向かうと、窓際の席に腰を降ろした。

手元には、缶珈琲。

それをテーブルに置くと、頬杖を付いて窓の向こうを見る。


佐和に影響を与えていないからといって、別に僕が悩む事はない。

佐和は、誰に対しても態度を変えない。

その唯一の特別が、久我 美咲。

普通の人と同じように、感情を表すのは久我の前でだけ。



「真崎先輩、大丈夫ですか?」

「え?」


いつの間に来ていたのか、向かい側に久我が立っていた。

「……あぁ、ごめんね。これで好きなもの買ってきて」

考え事をしていて、気付かなかった。

財布を渡してニコリと笑う。

久我さんは怪訝そうな顔をしていたけれど、突っ込まないほうがいいと思ったのか返事をして自販機へと歩いていく。



可愛くて、素直で、真面目で、空気を読んで?



久我さんは紅茶のペットボトルを手に戻ってくると、真崎の目の前に財布を置いた。

「カードとかいろんなの入ってるんですから、それごと渡さないほうがいいですよ。もう少しでネコババするところでした」

そう笑いながら椅子に腰掛ける。


嫌な思いをさせないように、最大限気をつかって言葉を選んでる。


ね? とでも言うように首を傾げて笑う久我さんに、自分の中の何かが冷めていった。



最後の空気を読むのは得意だけど、それ以外、まったく久我と僕は似てるところがない。

というか、正反対。

可愛げがなくて、意地悪で、いい加減で、空気を読む。

にっこり笑顔で、相手が傷つくのが分かっていても、毒舌はやめない。


まるで、正反対。

それは、佐和も。


あぁ、だから佐和は彼女に惹かれるんだ。


僕が、成り代われない、立場の子。


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