表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/39

真崎のお話 拍手お礼 4

「真崎先輩? お昼とらなくて宜しいんですか?」

「えっ?」

つい、自分の考えに没頭していた真崎を、佐和の声が現実に引き戻す。

目の前では、久我が怪訝そうな表情で真崎を見上げていた。


――くぁっ、可愛い……っ!


思わずぴくりと動いた右手を、佐和は見逃さなかったらしい。

「戻りましょう、真崎先輩。私も準備があるので、一緒に行きます」

傍らに置いていたランチバッグを手に取ると、スカートの埃を手で払いながら立ち上がった。

「え? 僕は、別に?」

素で答えた僕に、佐和の威圧感が増す。

綺麗に笑っているのはいつもの事だけれど、不機嫌そうな雰囲気に動きを止めた。


全てを流して感情を見せない佐和が、怒ってる。

自分の事じゃなく、久我さんをかまわれる事に。


「ふぅん……」


思わず口端が上がるのを、止められない。

立ち上がった佐和とそれを見下ろす真崎の構図に、久我さんは怪訝そうな表情のまま交互に視線を向けていて。

あぁ、やっぱり可愛いと心の中で呟きながら、肩を竦める。


「あぁ、そうだね。戻ろうか、佐和」

「えぇ、行きましょう。ごめんね、美咲」

途中から言葉を向けられた久我さんは、にこっと笑って頭を横に振った。

「ううん、お仕事頑張ってね! また明日」

そう言って、片手を振る。


だから、ツボだって。

やばいって、可愛いって。


そんな事を考えていたら、佐和が真崎を待たず歩き始めた。

じっと視線は真崎に固定したまま。


はいはい、行けばいいんでしょ。

保護者かっての。


息を吐いて踵をかえそうとした瞬間、目の端に久我さんの姿が映った。

思わずその頭に手を乗せる。

「じゃあね、久我さん。邪魔して悪かったね」

自分特上の甘い笑顔を浮かべたら。

「いいえ?」

きょとんとした顔を、返された。


え。


一応この顔、僕的決め表情なんだけど。

これして、顔を赤らめなかったのって佐和以外初めてなんだけど。


驚いたままそれでも無意識に頭を撫でていたら、その腕を佐和に引っ張られた。

「セクハラです」

そのまま汚いものを払うように腕を落とされる。

きつい視線に、ぞくりと何かが背中を這い上がった。

いや、そーいう意味の感覚じゃなくて。

人形だと思っていた後輩の、感情を見つけた驚き。

宝の地図でも見つけたような、面白さ。


「あぁ、そう。別に久我さんは何も……」

「セクハラです」

真崎の言葉を遮るように言い捨てた佐和は、久我さんの前に立つと埃でも払うように手のひらで頭を撫でた。

「ごめんね、美咲。うちの先輩、盗み聞きはするわセクハラはするわ。無視していいからね?」

「加奈子ってば」

佐和の言葉を冗談と取っているのか、けたけたと屈託無く笑う。


僕の周りにいなかったタイプ。

一気に興味を惹かれた。


ついそのまま久我さんを見下ろしていたら、佐和のきつい視線に気付いて思わず笑った。

「はいはい、行きますよ。またね、久我さん」

「? はい、お気をつけて」

――っ、何それ?

社内の自分の部署に戻るだけで、お気をつけてって……っ


久我さんの言葉に噴出すのを堪えながら、佐和と連れ立って屋上から社内に入る。



「随分とお気に入りなんだねぇ、佐和ってば」

六階に続く階段を降りながら、隣を歩く佐和に話しかけると冷たい視線を向けられた。

「美咲をからかわないでください。近づかないでください」

「えぇ? 僕フェミニストだから、大丈夫だよ?」

くすくすと笑いながら言うと、どこが、と佐和が呟く。

「先輩もどうせ分かっていると思うので。私と同じ人間ですよね、真崎先輩」

「……へぇ、だから?」

目の前にはドアの開いたエレベータ。

そこに足を踏み入れて振り返ると、ホールに佐和の姿。


「真崎先輩なら、私の言いたいこと分かりますよね?」

閉まるドアの向こうで、いつものように佐和が綺麗に笑った。


すぐに、エレベーターが下に向けており始める。


「階段で行ったわけか」


壁に寄りかかって、口元に拳を当てる。



からかいがいのありそうな、久我さん。

久我さんに近づくと、不機嫌になる佐和。



真崎は楽しくなりそうな日々に、思いを馳せた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ